40話 船に揺られて
密航と言っても一度乗り込んでしまえば定期的に食料をくすねに行くだけで特にやる事は無く、物資の山の下、一日中寝たりセレーネやリィリィとだべったりして時間を潰した。
「そう言えば、私シュレイドの身の上話を聞きたいですわ」
セレーネが突然そんな事を言ってきた。
まぁ色々あって話す機会がなかったが、付き合いも長いしそろそろ話してもいいだろう。
「俺は別の世界から来たんだよ、この世界に来てほんの30分足らずでお前と出会ったから後は知っての通りな。」
「とんでもねー奴だとは思ってましたけど、やっぱとんでもねーですわね。」
「ありゃ、信じんの?」
「まぁ、嘘を言ってる雰囲気じゃないですし、嘘みたいな強さの持ち主の言葉ですから。」
思いの外あっさり受け入れられて呆気に取られる。
もっと騒ぐと思ったが、セレーネも数多の修羅場を潜って成長したのだろう。
「なんですの、その生暖かい目は」
「ありゃ、見えてたか。相変わらず目がいいなぁ……」
ここ物資の下で殆ど光なんて入ってこないんだが。
「まぁいいですわ。それでシュレイドが元いた世界でどんな事をしてたんですの? 」
返答に困る問いが来た。
「そうだな……」
思い返す。
あんまりいい思い出は無いけれど、やっぱり俺を俺として象徴するのは格ゲーだろう。
アニメやラノベにもお熱だったが、あえて挙げるなら格ゲーだろうとなんとなく思う。
「歴戦の戦士集う闘技場で、己が力量を競い合う事に命を燃やしてたよ。」
「とてもそんな感じはしねーですわよ」
ジトっとした目で見られるが、発言は撤回しない。
事実を誇張してる節はあるけど、嘘は言ってないもんね。
「まぁいいですわ。質問攻めにするのもなんですし、私になんでも一つだけ質問してもいいですわよ? 」
ふふーんと鼻息荒くセレーネが提案する。
そうだなぁ……
「お前はこれから何したい? 」
「むっ、難しい質問ですわね」
「俺の過去の事を聞かれたから、俺は未来を聞いてみようかと思ってな。」
こんな質問自分がされても困ってしまうが、それはともかく、セレーネが答えられるかどうかも含めて、単純に気になった。
「そうですわね……」
顎に手を当て、考える素振りを数瞬、セレーネはぱっと何かを思い付いた様に顔を上げると、
「おフロに入りてぇですわ! 」
「ははっ、そりゃそうだ! 臭えもんな! 」
ずびっ!
俺の鳩尾に軽くチョップが入った。
俺も異世界転生以来風呂に入っていない。
久々に、熱々のそれが恋しくなったのだった。
密航と言っても一度乗り込んでしまえば定期的に食料をくすねに行くだけで特にやる事は無く、物資の山の下、一日中寝たりセレーネやリィリィとだべったりして時間を潰した。
「なぁリィリィ、お前ってソウルテイカーに支えてたんだよな? 」
「です……(肯定)」
「ならソウルテイカーとの話聞かせてくれよ。暇だし。」
暗くてよく見えないが、リィリィは露骨に嫌そうな顔をした。
「まぁ、暇で暇でしょうがないのでサービスしてやるです。」
「やったー! 」
「ソウルテイカーさんは生活力が皆無で、よく世話を焼いてやったです。」
なんか分かるな。
ソウルテイカーから継承した魔王スキルは火力が高過ぎて、食料を取ったり生活を便利にする様な用途では到底使えないものだったから、その元々の持ち主の生活力が皆無なのも頷ける。
「服は脱ぎっぱなし、風呂から出ても体を拭かない、皿は片付けないですし、ほんともう大変でしたです。」
「支えてたって聞いたから、てっきり魔王軍幹部みたいなもんだと思ってたけど、メイド的な主従だったんだな。」
「まぁ、あの人強過ぎて他の戦力なんていらなかったですからね……」
「それって実際どんくらい強かったんだ? 今の俺よりは強いと思うけど」
そう言うとリィリィはじっとりした目を向けてきた。
「まぁ、単純な強さで言えばソウルテイカー様圧勝でしょうけど、ソウルテイカー様じゃあ絶対者殺しは出来なかったでしょうからね……」
「何が言いたいんだよ〜」
はっきりとしない返答に俺がむくれると、
「シュレイドさんにはシュレイドさんの持ち味があるって事ですですよっ! 」
リィリィのウインクが、暗い物資の山の下で眩しく輝いていた。




