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37話 苦味



 あの後セレーネは必死に走り、走り、走り……


 そして追手を撒いたのだった。


 ドレッドは人質になった自分を助ける選択肢を私に取らせない為に自分からナイフに突っ込んで死んだ。


 ドレッドの最後の言葉がセレーネの頭の中を反芻している。


 「お前がコーヒーを飲め」……


 貴女なら、これを「余裕があるな」とか言うんでしょうね……


 



 それからの日々は怒涛だった。


 馬車に乗り込んで荷物の下で眠っていたら知らないうちに天空王国じゃない国に着いていたり、物価の違いからか、あっさりと路銀が尽きたり、たまたま見つけた木の実が美味しかったり……


 そうしてセレーネはあの冒険者ギルドの屋根裏に行き着いたのだった。




 「飲み物買ってきたですですよ〜」


 戻って来たリィリィの声が下水道に響いて、会話が中断する。


 「おー、おかえりですわ。」


 リィリィを見ると、胸元にカップを三つ抱えていた。


 「ほい、二人の分も買ってきてやったですです」


 コトっとカップが置かれる。


 下水の匂いで掻き消されて気が付かなかったが、鼻を近づけると分かるこの匂い、そしてこの白い湯気は———


 「コー……ヒー……? 」


 セレーネの唇が震えるのが横目に見えた。


 「ですです! 」


 シュレイドはカップを両手で包む様に持った。

 手のひらにじんわりと熱を感じる。


 「あったけぇな……」


 「せっかくだから熱いうちに飲むですよ〜ずびびび……」


 コーヒーを啜る様に飲むリィリィに習って、シュレイドとセレーネもカップに口を付けた。


 舌の上でじっくりと熱を味わう。


 これはっ……


 「あははっ、苦ぇな! 」


 「あんま美味くねぇですわね! 」


 奇しくもセレーネと感想が被った。


 「ワタシが買ってきてやった飲みモンに文句があんなら聞こうじゃねーですか……」


 ジト目でこちらを睨むリィリィ。


 それを見て俺とセレーネはどちらともなく笑った。




 風の絶対者がゲロカスになって死に、終わりを告げる風が吹いた後、天空王国王都の住民達ははんぺん型の鉄を片手に、王都の辺りの池へと足を運んでいた。


 厄災じみた炎と、絶対者の攻撃によって王都が受けた被害は甚大で、池の周りには親を失った子供や、痛々しい傷跡を抱える者もちらほらといる。


 最早一人となった王子もまた、この池へと足を運んでいた。


 「全部……全部僕のせいだ……」


 膝から崩れ落ちる。


 尊敬する父を、憧れた女性も、愛した王都も、全て自分の過ちで失った。


 この王子の心境もまた、ゲロカスであった。


 「……あんた、王子か? 」


 「兵士……」


 鎧を着ていなかったから一見分かんなかったが、この兵士は共に悪役令嬢を追った兵士の一人だ。


 兵士は膝を折った王子を見下すように見ていた。


 「お前を見つけたらぶち殺そうと思ってたが、この場の誰よりクソ最悪なツラしてやがるとくる。」


 張り詰めた糸が切れた様に縮れた声で、兵士は言葉を吐いた。


 「……」


 「殺すのはヤメにしやすよ王子サマ、そっちの方がアンタひでー目に合いそうだし。」


 「……」


 「まぁ、なんだ……一応納得できねー所もあるし、脛ぐらい蹴っとくか。」


 ガスッ! ガスガスッ!


 かつての兵士が、仮にも王子の脛を蹴る姿を池に来た人々の何人かが目にした。


 脛を蹴る音を聞いた人も居た。


 王子の瞳にはその全てが映っていた。


 正直、ホッとしたんだ。

 こんな事で周りの民達が満足してくれるなら、それで。


 王城のベランダで聞いたあの音、ベチャッ、ドサッ———


 アレにはなりたくない。


 だから王子は最悪とは程遠い今を妥協した。


 この先天空王国はどうなるのか、それはまだ誰にも分からない。

 しかし、ただ一つ言える事は、生き残り、立つ事ができる限り、良かれ悪かれ明日はやって来るということだ。

 これにて第一部、風掴み編完となります。

 ここまで読んでくれてありがとうございます。


 3件のブックマークと、合計16ポイントの評価という見える成果がなければ毎日投稿なんてとても続けられなかったでしょう……貴方のお陰でこの作品は形になりました、重ね重ね感謝を。


 明日から第二部です、きっと一部より凄いバトルが待ってます。

 あとセレーネが風呂に入ります。


 もう暫くシュレイド達の旅を見てやって下さい。

 よろしくお願いします。

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