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17話 路地裏ハンマーシェイク




 右手の薬指を親指で折る。

 鉄槌がリィリィと老兵の頭上から落ちる。


 ドスンとか、そういう音は鳴らない。

 ワタシの『重圧』はあくまで対象の重さを対象の力に応じて変化させるもので、その第三である鉄槌も例外ではないからだ。


 もっとも、その鉄槌が振り下ろされた様なビジュアルと、『重圧』の中でも重さの変化が急激な性質から勘違いされる事が多いのですですけどね。


 ワタシと老兵の頭上から落ちた鉄槌。

 老兵は這いつくばり、リィリィは見下ろしていた。


 「なっ、どういう事だ!? 」


 老兵は予想通り鉄槌を勘違いしていた様ですです。

 ハンマーを落す見た目はあくまで座標で、それ以上の意味はないのです。


 だから……


 「ふっふーん。格の違いが出ちゃいましたかねぇ〜? 」


 文字通り格の違いなのです。

 持っている力の分だけ重くする鉄槌が落ちて、老兵は這いつくばり、リィリィは立っている。


 リィリィはその弱さ故に立ち、老兵はその強さ故に這いつくばっているのだ。


 とんでもない力の差。


 まっ、それが皮肉にもひっくり返ったって訳ですです。


 老兵を見下ろす。


 「ぷぷっ、無様ですですねぇ〜」


 「……」


 無反応が一番つまらない。


 やはりこの老兵とはノリが合わんのです。

 そこら辺の瓦礫かなんかで頭を砕いてさっさと終わらせるです。

 

 と、リィリィが老兵に背を向けた時だった。




 「ぬおおおおおおおおお!!! 」


 老兵が腕を使って立ち上がった。


 嘘っ、あの重圧を跳ね除けたと言うのですです!?


 「まずいですですっ! 」

 「ふんぬっ! 」


 鈍色の光線。

 老兵は己が剣を投擲したのだ。


 「あっちょっ」


 それはリィリィを貫くには至らなかったが、リィリィのスカートを貫通し、路地の壁に突き刺さり、リィリィを磔にした。


 「ぐおおおおおおおおおおおおおおお」


 広げられた右手が迫る。


 ぐっ

 その灰色の手はリィリィの白い首を掴み、締め付けた。


 「ぐっぎぎぎぎ……」


 これはちょっと本格的にヤバいですです……


 剣士の握力は強い。老いても尚、強い。

 太い指が柔らかい肌に沈む。

 冷たい手の感触を感じる。




 老兵は暖かくコリコリした感触に目の前の魔界の者にも喉があるのだなぁと感慨を覚えた。

 老兵は手の力をぐっと更に強めた。


 「がっ、あっ、ぐううう……」


 視界が狭まり、手足が震える。

 ジタバタと足掻いてもびくともしない、これが力の差か、と、たははと笑った。実際は首締められてて笑えてないですけど。

 

 このままじゃ本当に死ぬ、どうにか隙を作って抜け出して———




 抜け出してどうするです?




 心の底で自分にそう問われた気がした。


 「  」


 何も言えねぇですですね。

 自分にすら論破されるとは……

 

 葛藤する。

 こんなんばっかですです。


 ……一つ手を思い付いてはいるです。

 けど、その手を使ったらワタシ本来の目的が———

 

 「むぐっ! 」


 苦しい。

 いや全く、やるかやらないかなんて贅沢な悩みですですよね。


 リィリィは自らの死を見て選択する。例えそれが一択のものだとしても、決める。

 



 「やるか殺られるかなら、やるっきゃねぇんです! 」


 「何をしても無駄だ、このまま締め落とさせてもらおう。」


 舐めやがってよぉ!です!


 「鉄槌解除! 」


 老兵に掛かっていた重圧が解かれる。


 「何を———」

 「鉄槌! 」


 そしてすぐさま重圧が課される。


 「ぐおっ」


 「鉄槌解除! 鉄槌! 鉄槌解除! 鉄槌! 鉄槌解除! 鉄槌! 」


 技のスピードが速い『鉄槌』ならではの戦術。

 リィリィは老兵の重さを急に重くして、急に元に戻してを繰り返し、老兵のバランスを崩したのだ。


 腕が緩んだ、今なら抜け出せるです!

 老兵を蹴って距離を取る。そして———


 「これはやりたくなかったですけどね……ゲートオープン! 」


 懐から取り出した紫色の結晶を老兵の背にある壁に投げつけた。

 結晶が砕けると、混沌色がドアと同じぐらいの面積に広がる。


 「貴様まさか———? 」


 老兵の直感をリィリィは肯定する。


 「そう、これはワタシが帰る為のゲート。魔界へのゲートですです! 」


 左脚で地面を蹴って急加速、老兵に突っ込む。


 「うおりゃああああああああああああ」

 「と、止まれええええええええええ」

 

 ドン!

 老兵が混沌色に沈む。


 「ぐっ、ぐおっ……」


 泥沼の様な混沌から這い出ようとする老兵。


 しかしそれは逆効果で、もがけばもがく程に老兵は泥沼へ呑まれてゆく。

 

 リィリィはそれをじっと見下ろしながら、


 「これで一生おさらばですです。」


 とだけ呟いた。




 路地裏に静寂が戻った。

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