- 今日も私は恋を歌う -
さわやかな風に乗って、上手くも下手でもない歌が響き渡る。
「また歌ってるのかよ」
「そうだけど。悪い?」
私はいつも通学路の途中にあるこの河川敷で歌を歌っていた。
今日もいつもの学校帰り、日が落ちるのが少し早くなって、赤い空にトンボが飛んでいる。
「別に悪くないけど、別に部活の練習ってわけでもないんだろ?」
「帰宅部なの、知ってるでしょ」
彼は同じクラスの男の子。私より頭一つ分、背が高いけど、成績は私の方が高い。だから五分五分だ。
家が近くて中学のころからよく知っている。帰り道も同じ方向だからこの河川敷が通学路なのも同じだ。別に決まっているわけでは無いけど、田舎だしそんなに細かい道は無い。
「じゃあカラオケの練習? あ、今度久しぶりに行かね?」
「考えとく」
「あれ、もう帰んの?」
「気が散るから今日は終わり」
彼は俺のせいかよ、とおどけて隣に並んだ。なんだかんだこうやって一緒に帰ることが多いけど、別に付き合ってはいない。
ふと、彼は誰かと付き合ったりしているのだろうかと考えた。
今までそんな話は聞いたことないけど、最近別のクラスの子とよく話しているのを見かける。実はもう誰かと付き合っていたりするのだろうか。彼は言いふらしたりするタイプじゃないから、分からない。
まあ、私には関係ないけど。
今日も一人で歌っていると彼がやって来た。
「歌って、改めて歌詞見てると恥ずかしくなるよな」
「人のスマホ覗いていうことがそれ?」
彼は私の手元を覗き込みながらそんなことを呟いた。
こんなにも近くに来て、そっちの方が恥ずかしくないのだろうか。一応私も女だし、意識したりしないのだろうか。
彼の暢気な顔を見ているとだんだん腹が立ってきた。
「ラブソングを誰もいない河川敷に向かって歌ってるのってなんかウケるよな」
「…いるもん」
私の精一杯の怒りはそよ風に流されて消えてしまった。
当然彼の耳には届いていない。彼は首をかしげて聞き返してきたが、首を振ってそっぽを向いた。
「今日はもう終わり?」
「ううん。もうちょっとだけ、歌ってく」
彼はふーんと興味なさげに言って、その場に座り込んだ。
田舎の河川敷だから、他には誰もいない。
観客は、彼一人だけ。
じゃあ、今日も歌おう。
ーーーー不器用な私の、精一杯の恋の歌を!
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ジャンルは全然関係ないけどこちら連載してます。
一撃追放
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