表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は牡丹君は椿②  作者: 汪海妹
5/17

美しいものは一瞬のうちにしかない 続き













美しいものは一瞬のうちにしかない 続き













このは













花火の日、15時半に集合。


「こっちこっち」


相変わらずにこやかに手を振るハーメルン澤田。なんでもそつなくこなす人だけあって、浴衣も無難に似合ってる。でも、先生ほどじゃない。


「おお、火野先生、期待以上に似合ってるじゃないですか」

「ふん」


そして、こっち見た。


「ねえ、野中さん。それすごいすてきなんだけどさ」

「はい」

「いくらしました?」


顔は笑ってる、顔は。すごいな、澤田さん。原稿のよしあしだけじゃなく、浴衣まで一瞬で目利きできるんだ。


「ええっと……」

「それはお前の金使ってないよ」


先生はそう言ってすたすた歩いて行ってしまう。わたしは澤田さんにちょこんとお辞儀をして、先生について行った。停泊している船の中には、もうすでに何組かの人たちが来ていた。今日は浴衣しばりなのか洋装の人はいない。みんな知らない人たち。じっとこちらを見る。もちろんわたしより年上の人ばかり。一気に気後れする。

船の中は畳しいた座敷になっていて、窓に向かって座るふうに席がしつらえてあり、空の膳が並べてある。みんなで飲んで食べて水上から花火を楽しむ。おつなものだ。


どの席に座るか迷っているうちに、先生はすたすたと一番奥の席に座ってしまう。ついて行って横の席に座った。


「正座していると、すぐに足がしびれるよ」

「はぁ」


浴衣で足崩すってなんか慣れない。先生見るとあぐらかいてる。


「なんか、先生結構着物、着慣れてるんですか?」

「あのさ、昔の人が普通に着てた服なの。昔の人だって24時間正座はしないでしょ?」


でも、男の人はいいけど、女の人は、裾のあたり乱すわけにはいかないじゃないですか。


「火野先生、お久しぶりです」


ビール瓶持って、女の人が来た。飲み物はもう出てるみたい。周り見渡せば、みんなぼちぼちなんか飲んでる。隣のほうで先生とその女の人が話し出す。もっとも先生は「うん」とか「ああ」ぐらいしか言ってないけど。


「あなた、どっから来たの?」


話しかけられた。なんか頭の薄いおじさん。まだ始まったばかりのわりに酔っぱらっているような。


「若いね。何歳?」

「にじゅう……」

「若そうに見えるけど、27歳ですよ。その子」


横から口出された。先生と話してた女の人もこっち見る。


「火野先生のお連れさん?」


女の人が言う。えーと。


「担当その2みたいなもんです」


へえ~、と女の人とおじさんがわたしを見る。

船が動き出した。


「みなさん、今晩はお集まりいただきありがとうございます」


2人はそろそろと自分の席へ戻る。


「先生、わたし27じゃありません」

「知ってるよ」

「じゃあ、なんで?」


先生はわたしをじっと見た。そして無視された。


ハーメルンがそつなく場を盛り上げて、みんなはやいやい宴会を始める。料理がどんどん出てくる。おいしい。料理を楽しみながら、くるくる動き回る澤田さんをすごいなあの人と離れたところから見てたら、本人がずいと寄ってきた。


「野中さん」

「はい」


顔は笑ってる、顔は。


「何のために君に声かけたと思ってるの?ちゃんと先生たち酌してまわりなさいよ」


え~、だってそんなこと最初に言ってないじゃん。そして、立とうとして……、


「ムリです」


ぷっくくくくく。横で先生が笑っている声がする。


「足しびれたの?」


それでも、澤田さんは一応、顔は笑ってる、顔は。


「しばらくしたら、ちゃんと……」


誰かに呼ばれて、澤田さんは場を離れた。足のしびれってどうしたら早く治るんだっけ?


「足の指そらしてつま先立ててごらん」


先生に言われた。


「え?」

「こうだよ」


先生が手を伸ばしてわたしの足の指をそらす。いった~。あれ、でも?


「ほら、そっちもやってごらん」

 

激痛走ったけど、両方とも治った。やっとこさ立って端っこから順に酌をしながら回る。返杯で結構飲まされてしまった。自己紹介は全部火野先生の担当その2と言っておいた。いいよね。本人が言ってたし。しばらくするとふいにど~んと音がした。


「始まった~!」


そして、船のあかりが手元に置かれたキャンドルを残して落とされた。みんなが障子を開ける。夜空いっぱいの色とりどりの光。


「うわ~」


歓声があがる。わたしたちからも、外の人たちからも。空に色とりどりの光、そして、川面にも。わたしはそっと先生の横に戻った。

お腹の底に響く音と、次々に繰り出される色と開いては消えていく空に描かれた絵。

夢中で眺める。しばらくしてふと横を見る。先生は花火を見ないでわたしを見ていた。微笑みながら。


「どう?仙台の花火と比べて」

「やっぱり、江戸はすごいです」


なぜ人は、短い時間で消えてしまう美しいものにこんなにも心惹かれるのだろう。


「本当に美しいものってほんとうは、一瞬のうちにしかないんじゃないですかね」

「人は常に何かを毎秒のうちに手に入れて、そして毎秒のうちに失い続けているのかもしれないね」

「写真に閉じ込めればいいんですよ」


先生はもう一度こちらを見た。


「写真はしゃべらないけどね」


じゃあ、先生の今言う美しい物は、人間で、女の人で、先生の好きな人ってこと?先生の好きな人は誰ですか?花火を見つめている横顔を見ながら思う。先生の好きな人は、やっぱり今でも別居中の奥さん?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ