僕たちはまだ何も知らなかった
これまでの青春なんてものは充実した味わいだった。攻略したゲームをやり返しても最初の感情が繰り返されることはない。そんな空気のようにそこに在ってもまるで無いような僕の人生は何色なのだろうか。
「ねえ何してるの?」
「帰り道落とした物を探してた」
「じゃあ私も一緒に探してあげる」
彼女は僕のことが好きだ。経験上そんなことは今までの彼女の行動から容易に察知できる。
「ありがとう、そんないつも優しくされたら惚れてしまうよ」
彼女は一瞬取り乱した心を表情にうつしだした。
「別に惚れても…いいよ…」
頬を夕焼けと重ね合わせた彼女の小さな一言は僕の予想通りだ。
「ん?何か言った?」
「ううん、なんでもない。早く落とし物探して見つけよ」
僕の恋愛はマニュアルと化している。数多のゲームをクリアした僕はもはやシナリオすらも予想できてしまう。そこに何も感情は生まれなくなった。ただ、自分の予想と結果を答え合わせして、揺るぎない確信を得るだけ。きっと世界は僕を認めずに、真っ黒な宇宙へと閉じ込めるのだろう。
「前から気になってたんだけど…好きな人いるの?」
「んーいないかな、もう大学に入って3年だけどできなかったよ」
ああ、これは嘘だ。僕は入学当初、彼女に一目惚れした。だが好きだからといって、その先の感情なんて一通り知れている。そんな物に今さら興味もなく、簡単に自分を消せた。