4 それしてもあの子は・・・
お昼休みが終わる少し前に、生徒会室に向かった。
ノックをすると兄が扉を開けてくれた。
「食器を片付けに参りました」
テーブルの上を見るとクッキーの缶ごとクッキーが出されている。
テーブルの上の散らかり方を見て、兄にこっそり聞く。
「茶菓子が足りなかったのですか?」
「アウローラが食べるものが欲しいと言って、棚を探って出してきたのだ」
クッキーの缶の中は、ほとんど空だ。中途半端に残されたクッキーでは、翌日のお茶会に使える量ではない。
「リリアン、ここに来て、一緒にお茶を飲もう。クッキーも美味しいよ」
殿下は相変わらず、アウローラにべったりくっつかれて、暢気にお茶を飲もうと勧めてくる。
「いいえ、片付けに参りました」
殿下も無神経だわ。婚約者の前で、そんなに別の女性といちゃつくなんて。わたしの気持ちは考えてくださらないのね・・・・・・?
「甘いお菓子を食べたから、もういっぱいお茶が飲みたいわ」
「そうだね。口の中が甘くて、リリアンお茶を淹れてくれるか?」
「畏まりました」
生徒会室の奥に入ると、小さなキッチンに立ち、お湯を沸かす。
新しいカップを取り出して、振り向いた。
「お兄様もお飲みになりますか?」
「僕もいただくよ。リリアンのお茶は美味しいからね」
兄の後ろで、シェル殿下にもたれかかるアウローラの姿が見えた。
今にも口づけをしそうな距離にいる二人を目にして、リリアンの胸が切なく痛む。
わたしはシェル殿下のことを好きでした。
・・・・・・好きすぎて暴走してしまった。
見なかったことにして、素早くお茶を淹れていく。
お茶を蒸らしている間に、テーブルの上のカップを取りに行くとアウローラは勝ち誇ったような顔で、リリアンを見た。
挑発されているのかしら?
斬首刑を言い渡された時も、確かに挑発されて、過ちを犯した。
シェル殿下への気持ちは、封印しよう。
カップを集めて、戻って行く。
温めておいた新しいカップに、紅茶を注ぐ。
いつもと違う香りに、リリアンは紅茶のポットを開けて、香りを確かめ、口に含み、すぐに吐き出した。何度もうがいをした。
「お兄様!」
「リリアンどうかしたのかい?」
「誰か、茶葉に触れましたか?」
「気付かなかったが・・・・・・」
「このお茶には眠り草が含まれています」
「なんだって?」
「誰かが茶棚を触りませんでしたか?」
「アウローラが茶菓子を探して、そこら中を引っかき回していたが」
「・・・・・・あの子は危険です」
今淹れたばかりのお茶を捨てる。
「お茶は淹れられません」
リリアンが頭を押さえる。
「リリアン大丈夫か?」
「少し、吸い込みすぎましたが大丈夫です。殿下にお茶は淹れられないとお伝えください」
リリアンは、茶葉を袋に入れると、後は、綺麗に洗っていく。
カップは磨くように拭き、ポットは伏せて乾かす。
茶葉の淹れられたお茶の缶を取り出し、においを嗅ぐ。
やはりいつもと違う香りが混ざっている。
眠り草の薬草は、少し苦みのある香りがすることが多い。主に病院で使われる薬草だ。取れる場所も限られて、普通のルートでは手に入らないようになっているはずだ。
キッチンから台拭きを持ってテーブルに向かう。
「殿下、テーブルを片付けてもよろしいですか?」
「どうしてお茶を淹れてくれないの?」
アウローラが不満げに頬を膨らます。
クッキーの缶の蓋を閉めて、それをアウローラの前に置いた。
「どうぞ、お土産に持っていってください。明日のお茶菓子でしたが、中途半端な量ですので、出すことができなくなりましたので」
「あら、いいの?」
アウローラは嬉しそうな顔をして、クッキーの缶を両手で持った。
「シェル様。いただいていいの?」
「構わないよ」
リリアンは、菓子くずで汚れたテーブルを台拭きで綺麗に拭くと、キッチンに戻っていった。
「お兄様、キッチンの棚に鍵をつけていただけませんか?殿下を危険に晒したくはありません」
「すぐに対処しよう」
「帰りは茶葉店に寄って帰ります。マリアンヌ先生に、この茶葉を見ていただきます」
「リリアンがいてくれて助かった。殿下に何かあれば大事になっていた」
「私は医療茶葉認定医を授かった医師です。殿下の体を守るのも私の仕事の一つですわ。では、
私は先に戻ります」
リリアンは兄に告げて、殿下には「お先に失礼します」と告げて、いかがわしい茶葉の入った袋を持って生徒会室から出て行った。