6 呪い(1)
アウローラは、長老の家で一人椅子に座っていた。
テーブルの上に置かれた紙に魔方陣が描かれ、魔方陣が輝いている。
心臓を抉り出され、燃やされ、遺骨まで砕かれ、川に流されたアウローラは、亡霊となって蘇った。可愛いシェルは死んでしまった。亡霊になって、憎しみだけで蘇った。
シェル様とリリアンの婚約が許せない。
シェル様が私を選んではくれなかったことも悲しい。
リリアンの美しい髪も瞳も羨ましく、妬ましい。
生まれた家が伯爵家や公爵家だったら、リリアンのように美しく聡明であったに違いない。貧しい家に生まれ魔術を使えても、そんなに役には立たない。魔術で身を立てることなどできはしない。
恨めしい。
リリアンに呪いを。
机の上の魔方陣が光った。
クリスマスを終えた後、リリアンは殿下の腕の中で気を失った。
「リリアン」
急な高熱にシェルは「グラナード」と大きな声で呼んだ。
「どうかなさいましたか?」
「リリアンの様子が変だ。急に体熱くなってきて、呼吸が荒い」
グラナードはリリアンの額に触れて、あまりの熱さに驚いた。
「殿下、部屋まで運んでいただけるか?僕は医師を呼ぶ」
「頼む」
殿下はリリアンを横抱きにすると、ゆっくり立ち上がった。
開けられたままの応接室から出て、二階へと上がっていく。
すれ違う使用人に、リリアンの部屋を開けてくれと頼む。使用人は今まで笑顔でいたリリアンが苦しそうにしている姿を見て、慌ててリリアンの部屋を開ける。
リリアンの侍女が驚いた顔をした。
「熱を出している。急いで準備を」
「畏まりました」
ベッドを捲り寝られるようにする。
「着替えさせますので」
「僕は外にいよう」
「すみません」
モリーは殿下に頭下げ、素早く動く。熱いお湯を準備したマリーが、次にタオルとネグリジェを準備する。
「お嬢様、メイクを取りますね」
モリーが素早く、メイクを取り、綺麗なお湯で顔を拭き、ワンピースも脱がせていく。
汗が浮かんだ肌をタオルで拭い、ネグリジェを身につけさせる。
体温計を持ってきて体温を測る。40℃を軽く超えている。
「メリー、氷枕を」
「はい」
熱が高いときは掛布をかけない方がいい。
使ったお湯を捨てて、今度は冷たい水が入った桶を持ってくる。タオルで濡らし、額に載せる。
「呼吸が荒いですね」
ノックがして「リリアンの具合はどうだ」と殿下の声がする。
薄手の掛布をお腹の上にのせて、扉を開いた。
「40℃以上の熱があります」
「アウローラ、やめて」
手で払う仕草を見せる。
「アウローラがいるのか?」
「目の前にいる」
意識はあるようだ。
殿下は部屋の中を見回す。
「アウローラ、いるなら、リリアンに手出しをするな」
「私と結婚してくれなかった。いきなり切りつけられ、心臓をつかみ出され、刺され、燃やされ、冷たい水に流された。恨めしい」
リリアンの声ではなかった。アウローラの憎しみのこもった声だった。
「リリアンの体を解放しろ」
「呪い殺してやる。あははは」
「私から出て行って」
リリアンは手で追い払おうとしている。
「これは呪いでしょうか?」
「医師ではなく神父を呼んで、聖水で清めてもらわなくては」
「殿下、お嬢様を見ていてください。すぐに旦那様に伝えてきます」
モリーは部屋から飛び出していった。
「シェル様、ずっとお慕いしておりました。私と結婚してください。リリアンは閉じ込めますので」
「嫌よ。アウローラ出て行って」
「おとなしくしていろ」
リリアンの体がビクビクと痙攣している。




