5 クリスマス
アウローラとアウローラの子は、宮殿で火葬された。
以前は燃えなかった体が、今度は燃えた。普通の人が燃えるように、遺骨が残った。その遺骨を粉々にさせて、川に流された。
町で起きていた、紙幣が木の葉になる事件もなくなり、町は平和を取り戻した。
リリアンはケーキ作りとクッキー作りに夢中になり屋敷には絶えず甘い香りが満ちている。
「お兄様、お味はいかが?」
「リリアン、美味しいが、こう毎日、ケーキは食べたくないぞ」
「甘みは控えているので、大丈夫ですわ」
「そういう問題ではなくてな、飽きてしまう」
「まあ、もう飽きてしまったの?クッキーも召し上がって欲しかったのに」
「どれだい?」
リリアンは微笑み、可愛らしい器に入ったクッキーを差し出す」
「殿下にプレゼントしたいのですけど、どれが美味しかったか教えていただきたくて」
グラナードは微笑む。
「どれも美味しい。リリアンの好きなものを贈りなさい」
「迷っているから、お兄様に伺っているのよ?」
「なんて愛らしいんだ。リリアン。殿下に差し上げるのが惜しくて仕方ない」
「わたしはお兄様の妹よ」
暖かいお茶を淹れて、兄の前に置く。
クリスマスには殿下を招いて、クリスマス会を開くことにした。お料理はシェフが作ってくれるが、ケーキはリリアンが作ることにした。コックが使わない時間に使いなさいと母に言われたので、シフォンケーキを前日の昼食後に作る予定だ。同時にクッキーを焼きたい。
殿下と屋敷のみんなに一枚ずつ渡したい。クッキーの本を開いて、美味しそうなクッキーを探していく。
幸せそうなリリアンを見ているとグラナードも穏やかになる。
クリスマスの前日に学校は休みになる。宿舎に泊まっている生徒たちがクリスマスに家に戻れるように組まれている。
その休日に、リリアンはクッキー生地を作って、型抜きしてオーブン皿に並べていく。大量に作って、違うタイプのクッキーも作っていく。ココアパウダーを混ぜ込んで、プレーンの生地と合わせて渦巻きを作る。絞り出しのクッキーも作って、オーブン皿に並べ行く。
「あとはケーキだわ」
卵を分けて一番難関の卵白と対決する。腕が吊りそうで、まだ慣れない。やっとふわふわになり角が立つ。
リリアンは初めて作ったイチゴソースでマーブルを作るシフォンケーキを作る予定だ。
「お嬢様、どうですか?」
シェフが様子を見に来てくれた。
「どうかしら?」
「いい具合ですね」
「本当に?」
「わたくしはお嬢様に負けないように、シュークリームを作りましょう。お客様に分けたら少しになってしまいますので」
「あ、シェフ。いつものケーキを作ってください。わたしのケーキは殿下に渡したいの」
「入れ物の箱は用意なさっていますか?」
「忘れていたわ」
「それなら、こちらにありますので、どうぞお使いください」
「ありがとうございます」
「さあ、オーブンが空きましたのでケーキからどうぞ」
「はい」
作りたてのケーキをオーブンに入れる。
「シフォンケーキの真ん中の穴の中に、乳製品のホイップを入れて、周りをクリームで覆うと豪華になりますよ」
「クリームは買ってないの」
「うちの冷蔵庫にありますので、どうぞ使ってください。クリームを塗るのは、パーティーの直前がよろしいかと思います」
「ありがとう。やってみます」
「どうぞ、わからなくなったら、こっそりお聞きください」
リリアンは微笑む。
「お願いするわ。まだオーブンの使い方がわからないの」
「料理や菓子作りは経験ですので、何度も練習が必要です」
「いろいろ教えてください」
「畏まりました」
シェフはオーブンの温度の微調整をしてくれる。
焼き上がって冷ましたクッキーを一つずつパッケージに入れていく。多めに買っておいたので、十分に足りた。ケーキは逆さまにして冷ましている。明日、型から出したらホイップを泡立て、飾り付けるつもりだ。
大きなクリスマスツリーがダイニングに飾られて、お客様も揃った。
殿下もマリアンヌ先生も来てくれた。両親と兄がテーブルに着いて、食事が始まる。
シェフの手塩にかけたパーティー料理はいつもより豪華で、美味しい。
次々に料理が出されて、使用人が食べ終えた食器を片付けてくれる。
「とても美味しいわね」
「うちのシェフの料理はいつも美味しいのよ」
リリアンは家で働いてくれている皆を自慢できるほど好きだ。
みんな働き者で、いつもリリアンや家族の事を考えてくれる。
食事が終わると、リリアンは席を立って、キッチンに入って行くと、お茶を淹れる。
入ったお茶は使用人が運んでくれる。この家でお茶を淹れるのが一番上手なのはリリアンだからリリアンは、自分からキッチンに入っていく。
お茶が入ると、リリアンは席に着く。シェフが立派なケーキをテーブルに置いた。
「お嬢様、切ってみますか?」
「教えてくださるの?」
「もちろんでございます」
お湯で温めたナイフで、ケーキを切っていく。途中でナイフを暖めて。また切っていく。
「リリアン、上手だ」
殿下が拍手する。
リリアンが微笑む。
「お皿に取り分けましょう」
リリアンが切ったケーキをシェフがお皿に分けていく。
「手を洗ってくるわ」
リリアンはキッチンに入って、手を洗うと、急いで席に戻った。
「リリアン、いつの間に上手になったんだ?」
殿下がリリアンの顔を見て、微笑んだ。
「今、シェフに色々教わっているの」
「そうか」
「このケーキも教わって手伝わせてもらったの」
「リリアン、やはり私より上達しているわ。すごいわね」
マリアンヌ先生も感心している。
「わたしには先生がたくさんいるのよ」
「毎日ケーキを食べさせられることも、今日で終わるのかな?」
「お兄様、内緒よ」
グラナードはクスクス笑う。
「リリアンは努力家なのだな」
恥ずかしそうに微笑むリリアンに、殿下は微笑み、ポケットの中から小さな箱を取りだして、そっと渡す。
「プレゼントだ」
「開けてもいいのかしら?」
「いいよ」
宝石箱を開くと、ルビーとダイアのネックレスだった。
「つけてもいいかな?」
「はい」
殿下は箱からネックレスを出すと、リリアンにつけた。
「とても似合う」
「ありがとうございます」
淡いピンクのワンピースを身につけていたリリアンに、そのネックレスはとても似合った。
両親も兄もマリアンヌ先生も拍手をしてくれた。
「お茶が冷める。ケーキを食べよう」
父がパーティーの続行を口にした。
皆でケーキを食べて、お茶を飲んでパーティーは終わった。
リリアンは急いで、手作りのクッキーを一枚ずつ、渡していく。
両親は喜び、マリアンヌ先生も「上手よ」と褒めてくれた。
両親は部屋に戻り、マリアンヌ先生は帰って行った。護衛の騎士にも渡し、コックや使用人、付き人や侍女に渡していった。
みんなが微笑んでくれて、リリアンは嬉しかった。
今、こうして生きていることが嬉しくて、生き返らせてくれた長老にもクッキーを渡したかった。
場所を応接室に変えて、兄と殿下が座っている。
「お茶を淹れてきますね」
リリアンは二人を残して、キッチンに戻っていった。
冷蔵庫から殿下へのプレゼントを出して、箱に入れる。
ワゴンに、お湯の入ったポットと茶器を載せて、プレゼントも載せていく。
部屋をノックして、扉を開いた。
「すぐにお茶を淹れますね」
新しい缶を開けたので、香りがいい。
殿下の前に置き、兄の前に置き、自分の席の前にも置く。
「殿下、私の手作りのケーキです。受け取っていただけますか?」
「ありがとう」
殿下がケーキを受け取ってくれた。
「見てもいいか?」
「もちろんです」
テーブルの前に置かれた紅茶のカップを避けると殿下は箱を置いた。
白いシンプルな箱を開けると、ホイップで飾られたシフォンケーキが現れる。真っ白く塗られたトップに、『メリークリスマス シェル殿下』とチョコレーの文字が綺麗な筆記体で書かれている。
「これは新作か?」
兄がケーキを見て、頷く。
「新作と言うことは、グラナードは食べてないのだな」
「これは食べてないな」
「少しアレンジしただけですけど」
「今、食べてもいいか?」
「食べられますか?」
「全部、僕のものだ。スプーンをもらえるか?」
「すぐにお持ちします」
リリアンはすぐにキッチンに走った。
少し大きめのスプーンと小さなスプーンも、色々持ってきた。お湯につけたナイフとお皿もトレーに載せて。
「切り分けますか?」
「いや、丸ごと食べる」
「お腹は大丈夫ですか?」
数種類のスプーンを見せると、殿下は一番大きなスプーンを手に取った。
「大丈夫か?」
兄も心配している。
「おやつは別腹だ」
別腹は存在しないが、そう言いたくなる気持ちもわかる。
殿下はどんどん食べていく。
「おお、すごいな。中はマーブルになっているのか?」
「はい。イチゴジャムをこした物です。お砂糖は控えめになっているので、それほど甘くないかと思いますが・・・・・・」
「リリアンはケーキもクッキーも上手だな」
「まだ習い始めたばかりなの」
「それでも美味しい」
殿下はあっという間に食べてしまった。
「美味しかったぞ」
「ありがとうございます」
濡れた布巾で、殿下の手を拭うと布巾を受け取り、自分で手を拭き、口元も拭う。
「すぐに召し上がっていただけるなんて思っていなかったので、とても嬉しいです」
殿下が食べたケーキの箱を片付けて、紅茶のカップを手前に置き直す。
今度は紅茶をゆっくり口にする
「紅茶も香りがいい」
「今日、新しく缶を開けたのです」
「リリアンは今日のために色々準備していたからな」
「お兄様、内緒ですわ」
「そうか、色々準備をしてくれたのか」
「殿下もネックレスを購入して、準備してくださったのですね」
「本当は指輪を贈りたいが、まずはネックレスからだ」
「大切にいたします」
リリアンはネックレスを包むように手で押さえた。
大切な宝物だ。
「殿下は、今日は泊まられますか?」
「そのつもりで来た」
「では、部屋の準備をして参ります」
兄はワゴンを押して、部屋から出て行った。
殿下の手が、リリアンの肩を抱き、そのまま抱きしめられた。
「しばらく、こうしていてくれ」
「はい」
前世では一度も抱きしめられたこともなかったのに、こんなに幸せでいいのかしら。
またどこかに落とし穴が空いていたら、どうしましょう。
リリアンは幸せだったが、まだアウローラの存在が怖かった。




