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2   今度こそ間違わないように

 

 はて、秋祭りにプレゼントなどもらっただろうか?

 リリアンは自室に戻って、クローゼットの中を見て歩く。

 見慣れたドレスに、特別な記憶のものはない。


「モリー。王家からのプレゼントは初めてよね」

「そうでございます。素敵なドレスでしたね」

「・・・・・・そうね」


 はてと、リリアンはまた首を傾げる。

 前とは違うのね。

 これは大変だわ。

 なにが起きるのか、予想も付かない。それでも夢はきっと道標に違いない。

 ノックの音がして、メリーが扉を開けると、部屋に兄が入ってきた。


「僕はそろそろ学園に戻らなくてはならないが、リリアンはいつ戻る?」

「お兄様と一緒で構いません」

「もう体は辛くないのか?」

「はい。もう平気ですわ」

「それなら、明日戻る。準備をしておくように」

「はい、お兄様」


 クローゼットを閉めて、夢でみたあれこれを書いたメモ帳を、鞄に入れ準備する。

 寄宿舎もあるが、リリアンは通学している。

 屋敷から学園まで、それほど遠くはない。通うのが大変な生徒が、寄宿舎に泊まっているらしい。




 シェル王子殿下とは、幼い頃から親しくしている。兄が幼くしてシェル王子殿下の相談役兼側近になってからは、リリアンもよく王宮に招かれていたが、シェル王子殿下は年下のリリアンに、少し意地悪をしていた。


「リリアンとは婚約者だが、年頃になるまでシェルとは呼ぶな」


 それはゲームの罰ゲームだった。

 ボードゲームで勝った者が負けた者に命令するという子供の遊びだった。

 勝利したシェル王子殿下は最下位のリリアンに、そう命令した。


「シェル、あまりにも酷いわ」


 リリアンは、その言葉にショックを受けた。

 お互いに名前を呼び合う仲だったのに・・・・・・。


「これからは、シェルではなく、シェル王子殿下と呼ぶがいい」

「酷いわ、シェル」

「ほら、言ってみろ。シェル王子殿下だ」

「・・・・・・シェル王子殿下」

「それでいい」


 果てしなく遠い距離を感じてしまう。


「リリアンにシェル王子殿下と呼ばれるのが好きなのだ。結婚したら、またシェルと呼ばせてやろう」


 なんと酷い仕打ちだろう・・・・・・と落胆したが、シェル王子殿下と呼ばれるのが好きだと言われたのなら、愛される呼び名で呼ぶのが正しいのだろう。

 ゲームの罰ゲームだし・・・・・・。

 リリアンは、シェル王子殿下に言われてから、素直にシェル王子殿下と呼び続けている。

 本当は気安くシェルと呼びたい気持ちを封印して・・・・・・。

 シェル王子殿下が、リリアンを大切なレディーとして扱ってくれる事は嬉しかった。

 兄とも仲の良い殿下は勉強でも剣術でも兄と競い合って、強さは同等だ。どちらも強く、勇敢だ。

 リリアンはシェル王子殿下も兄のことも大好きだった。





「リリアン、会いたかった。体はもう大丈夫なのか?」

「おかげさまで、すっかり良くなりました」


 学園に着くと、兄に生徒会室に連れられた。

 この学園の生徒会長はシェル殿下だ。陰で暗躍しているのは兄らしいが、すべてシェル殿下の功績にしている。側近も大変な仕事だ。

 兄と同等ではいけない。シェル王子殿下はこの学園で一番偉くなくてはならないから、その手助けを兄がしている。


「グラナード、お茶を淹れてくれるか?」

「お茶なら、わたしが淹れてもいいでしょうか?」

「リリアンが淹れてくれるのか?」


 殿下が嬉しそうな声をあげる。


「はい」


 リリアンは茶葉のお店で茶葉の勉強をしている。

 もちろんお茶の淹れ方も、そこらの高校生や大人より上手い。

 腹下しの時に飲むお茶や風邪を引いたときのお茶を淹れることができる。

 医療茶葉認定医に合格して医師免許も持っている。


「ここにある茶葉では普通のお茶しか淹れられませんが」


 シェル殿下が微笑む。


「リリアンのお茶は旨いからな」

「褒めていただきありがとうございます」


 褐色の紅茶を淹れて、三人でお茶を飲んでいると、アウローラが生徒会室に顔を出した。


「あら、もう体は平気なのかしら?」

「・・・・・・ええ、おかげさまで」

「毒舌のリリアンも病気になるのね?いつも私を虐めるから罰が当たったのね?」

「・・・・・・」

「あら、まだ声が出ないのかしら?病気を移さないでよ。リリアンの毒舌病になんか罹ったら、不幸だわ。すごく醜いわ。私にもシェル様にも近づかないでちょうだいな。その醜い顔を見せないでくださいな・・・・・・ああ、嫌だわ、傍にいられるだけで怖気が立つわ。さっさとどこかに消えてくれないかしら?」

「・・・・・・」


 突然、始まった毒舌の嵐に、リリアンは口を閉ざした。

 リリアンは一度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 挑発に乗っては駄目よ。

 顔を見るだけで、嫌気が差す相手だが、彼女に振り回され、首を落とされた。

 お父様やお母様、お兄様はきっと悲しんでくれたと思う。

 もう二度と同じ過ちは犯してはならない。



 アウローラの目の色は漆黒で、髪はやはり漆黒だ。髪は長いが癖毛でウエーブがかかっている。

 この国では漆黒は珍しいが、昔から漆黒の瞳と髪をした女性を魔女として嫌っていた時期があると図書館の文献で読んだ事がある。

 魔女が本当にいるのかどうかは、リリアンは知らないが、リリアンはやはりアウローラのことは、苦手だった。


「シェル様、ご機嫌はいかがですか?」


 婚約者のリリアンもシェル王子殿下のことを名前で呼べないのに、この女は、気安くシェル様と呼ぶ。そのことに、まず腹を立てて、その呼び名を許しているシェル殿下に不満を感じる。

 前世では呼び名のことで喧嘩をして、シェル殿下が怒りだした。


「今日からリリアンが出てきたから、気分が浮かれているな」

「あら、虫けらのような女性ごときに、シェル様のご機嫌が変わるなんて、王子様らしくないわ」


 アウローラはクスリと笑って、生徒会室に入り込み、シェル殿下の横に図々しく座った。


(虫けら?このわたしが?・・・・・・挑発に乗っては駄目よ。ここは聞かなかったことにしなくては・・・・・・)


 引き攣る顔に笑顔を貼り付け、リリアンは平静を保ち、綺麗にお辞儀をした。


「シェル王子殿下、お見舞いの品ありがとうございました。秋祭りに是非、踊っていただきたく存じます」

「気に入ってくれたか?」


 シェル王子殿下は嬉しそうに微笑んだ。


「ええ、とても綺麗なドレスで、一気に病気が治った気がしましたわ」

「それは良かった。あのドレスは、僕がデザインした物なのだよ。喜んでくれて、すごく嬉しい」

「まあ、殿下がデザインを?」

「一度作ってみたくてね。出入りしているデザイナーに教えてもらった」

「シェル様、私にはプレゼントはないのですか?」

「お見舞いの品だと言っただろう」


 アウローラは不満げな顔をして、頬を膨らます。

 同じ年齢とは思えない幼稚な反応に、リリアンは、アウローラから視線を逸らした。


「それでは、殿下、お兄様、そろそろ授業が始まりますので、お暇いたします」


 リリアンは深く頭を下げて、生徒会室から出て行った。




「リリアン、シェルのドレスはどんなドレスなの?」


 教室に戻ったリリアンの元に、アウローラはしつこく付きまとう。


「教えないわ。殿下も教えなかったでしょう?」

「ケチね」

「ケチでもいいわ。わたしに話しかけないで。あなたは子爵令嬢でわたしは公爵令嬢よ。普通は遠慮するものでしょ?無礼だわ」

「でも、もし、私がシェルと結婚したら、王妃よ」


 この子はいったい何を考えているのだろう?

 一瞬叫びそうになったのを、意思の力で押さえつけ、深呼吸を一つする。

 ・・・・・・この子、殿下のことを呼び捨てにしたわ。

 なんて礼儀のなってない子でしょう。

 ・・・・・・怒っては駄目よ。

 首を切り落とされる未来は変えなくてはいけないのだから・・・・・・。


「夢は眠ってから見るものよ。幻覚が見えているのかしら?」


 リリアンは、席を立つと、窓辺に歩いて行った。

 近づいてくるアウローラを避けるために、また移動する。

 ちょうど教師が入ってきて、アウローラも諦めたのか自分の席に着いた。


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