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プロローグ・1   転生したのでしょうか?

 


プロローグ


 その日は、透き通るような青空で清々しい日だった。

 木々には花が咲き、甘い香りがする。

 リリアン・ホワイト・ツールスハイト公爵令嬢はいい香りを吸い込む。


「ハイキングでも行きたいわ」


 そう呟いた途端に、意識をなくした。

 リリアン・ホワイト・ツールスハイト公爵令嬢は、わずか16歳で斬首刑にて死刑になった。





1悪夢



1   転生したのでしょうか?





「お嬢様、お気づきになりましたか?」

「メリー、旦那様にお知らせを」

「はい」


 侍女のメリーが部屋から飛び出していった。


「・・・・・・モリー、なんだか長い夢を見ていたみたいよ」

「リリアンお嬢様、5日も意識を失いずっと眠っていたのです。家の者も私たちも心配しておりました」

「5日も眠っていたの?」


 リリアンは目を開けて、部屋の中を見回す。

 わたしの部屋だ。

 夢は酷い夢だった。

 囚われの身になり斬首刑にされた。

 ギロチンがぶつかる瞬間までは記憶はあるが、その後の記憶はない。


「わたしは生きていたの?」

「まだ夢を見ていらっしゃるのですね」


 侍女のモリーが、リリアンの顔を濡れたタオルで拭ってくれた。


「リリアン、やっと目を覚ましたか?」


 父親のミュースト・シュルス・ツールスハイト公爵がホッとしたように娘の頭を撫でる。


「ああ、良かったわ。ずっと心配していたのよ」


 母親のビュルネルがやっと目を開けた娘を抱きしめる。


「わたし、どうしたのかしら?」

「シェル・コテ・エパシオ殿下にお目にかかっているときに、突然倒れたのだよ」


 兄のグラナードがリリアンの手を握る。


「酷い熱を出して、ずっと意識が戻らなかったのだよ」

「・・・・・・お兄様」

「これでシェル殿下も安心なさるだろう」


 父がリリアンの額にキスをして、微笑む。


「モリー、医者に診てもらえるように手配を頼む」

「畏まりました。旦那様」


 モリーが部屋から出て行った。


「わたし、斬首刑で死んだんじゃないの?」

「何を言っている。どんな悪夢を見ていたのだ?」


 はてと、リリアンは考える。

 あれは夢なのか?それとも本当だったのか?

 我が儘いっぱいに悪役令嬢を振りかざし、好き放題に振る舞って、最後はシェル王子殿下に剣を向けた不敬罪で、公開処刑を言い渡された記憶がある。

 無意識に首に触れる。

 首、付いているわね?

 やっぱり夢だったのかしら?

 それにしてもリアルな夢だった。


「シェル殿下は目の前で倒れたリリアンを抱き留めてくださったのだよ」

「殿下がですか?」

「とても心配して、毎日遣いの者を寄越して、リリアンの様子を心配なさっていたのだ」


 兄は、ポンと手を打つと、「誰か、リリアンが目覚めたと遣いを」

 従者が一人、「はい」と答えて、走って行った。

 医師がやって来て、リリアンの診察をして、「もう大丈夫だ」と言った。


「腹に優しい物から、少しずつ食べさせるように」

「はい」


 モリーが返事をして、リリアンを囲んでいた家族は、リリアンの部屋から出て行った。



「モリー、今日は何日かしら?」

「9月の1日ですよ」

「なんですって?」

「長いこと眠っておられたから月も変わります」


 わたしが首を落とされたのは、確か3月だったような気がする。花が綺麗に咲き、甘い花の香りがしていた。

 時間が戻っているの?


「さあ、お嬢様、リンゴをすりおろした物ですよ。どうぞお口をお開けください」


 リリアンが、口を開けるとスプーンに少し載せられたすりおろしリンゴを口に入れられる。


「9月の秋祭りまでに元気になられるといいですね」

「・・・・・・秋祭り?」

「そうでございます」


 9月の秋祭りで子爵令嬢のアウローラに葡萄ジュースをかけたのよね。

 子爵令嬢のくせに生意気に、シェル王子殿下にダンスを申し込んだアウローラに嫉妬して、綺麗なドレスを葡萄色に染めてやったのよね。

 あれは我ながらやり過ぎだったわ。

 今度は、シェル王子殿下に不快な思いをさせないように、レディーらしく振る舞わなくては・・・・・・。なんと言っても生まれながらに、婚約者に決められている。

 リリアンはこの国の色のアメジストの瞳と珍しいアメジストの髪をしている。

 ツールスハイト公爵の一族にしか生まれない特別な色だ。

 戴冠式にはめる、王冠の中央に大きなアメジストが埋め込まれている。その色と同じ瞳を持つ者が王妃になると代々伝えられている。

 滅多に生まれないが、祖先に同じアメジストの髪と瞳を持った者が王家に嫁いでいる。



 ロタシオン王国第一王子シェル・コテ・エパシオ殿下は、兄と同じ18歳で、王都にあるエンボロス王立学園に通っている。兄はシェル殿下の側近となり、いつも共に行動しているが、リリアンが危篤と知り殿下が自宅に戻るように命じたのだった。

 シェル王子殿下は高等部の3年生で、リリアンは高等部の1年生だ。

 生意気にシェル王子殿下にダンスを申し込んだアウローラもリリアンと同じ高等部の1年で、同じクラスだ。なにかとライバル心を抱いて、リリアンを挑発してくる。

 元々おとなしい性格をしたリリアンも、シェル王子殿下へのあまりのアウローラの激しいアプローチに頭に来たのだ。

 幼い頃から仲の良かった婚約者に手出しをされれば、頭にもくる。

 リリアンは、無意識に首を撫でる。

 付いているのが不思議な気がする。

 せっかく生まれ変われたのなら、婚約破棄してもらい、リリアンは自由に生きたいと思い始めていた。

 アウローラがいいなら、どうぞのしをつけてさしあげます。



 リリアンはやっと医師から、普通食と入浴を許されて、モリーに手伝ってもらいながら、お風呂に入った。明るめのアメジストの色の髪を綺麗に洗ってもらい、体も隅々まで洗って、香油を塗ってもらうと、心に気力が増してきた。

 モリーが、リリアンの長い髪をタオルで拭い、櫛で梳かす。

 日射しがあたると、アメジストの髪はピンク色のように輝く。


「お嬢様、とても美しいですよ」

「ありがとう。モリー」


 久しぶりにネグリジェではなくワンピースを身につけ、レースの靴下をはき、窓辺に置かれた机に向かって、夢で見たあれやこれをメモ帳に書いておく。

 死刑囚にはもうなりたくない。

 公開処刑など、ツールスハイト公爵令嬢として恥でしかない。


「まずは秋祭りね」


 秋祭りは学園の広間で舞踏会が行われる。

 葡萄ジュースは飲まないようにしなくちゃ。間違っても付いてしまったら、大変な事に発展する。


「リリアンお嬢様、宮殿から遣いが来たようです。グラナード様がお呼びです」

「ええ、モリー」


 リリアンは上品に階段を降りて、応接室に入っていく。


「リリアン、来たか。シェル王子殿下からお見舞いの品らしい」


 兄が対応していた。

 そういえば、お父様は宮殿の仕事に戻り、兄がリリアンの様子を見ていたことを思い出す。


「わたしにですか?」

「さあ、受け取りなさい」


 宮殿の従者は、大きな箱をテーブルの上に置いた。


「ありがとうございます。すぐにお茶の準備をいたします」

「いえ、お気持ちだけいただいておきます。それではお届けしましたので」


 従者は丁寧に頭を下げて、帰って行った。


「なんでしょう?」

「開けてみなさい」

「はい、お兄様」


 リリアンは、リボンを解き、包みを解いて箱を開けていく。

 母もじっと見ている。

 箱を開けると、美しいドレスが入っていた。

 封筒に、手紙が一枚入っていた。


『秋祭りに一緒に踊りたい。このドレスを着てきてくれるかい?』


「なんてお優しい心遣いでしょう」


 母が殿下の優しさとドレスの美しさに感動している。

 リリアンは箱からドレスを取り出して、体にあてがう。


 とても綺麗。


 白いシルクのドレスに、胸元はレースで彩られ、アクセントに高価な真珠が散りばめられている。ふわりと広がるスカートの部分には柔らかなレースが重ねられている。レースにはダイアのような細かなビーズが縫い付けられて、光が当たるとキラキラ光る。


「リリアン、靴も入っているよ」

「お母様、ドレスを持っていてくださいますか?」

「いいですわよ」


 母の手にドレスを預けると、銀のシューズを手に取った。靴には宝石が飾られている。 リリアンの瞳と髪の色と同じのアメジストとシトリンが輝いて見える。


「とっても素敵ね」

「学園に行けるようになったら、お礼を言うのだよ」

「はい、お兄様」


 母は侍女を呼んでドレスをハンガーに掛けてもらい、宝石の靴も預けた。


「これは王家からのプレゼントです。何かあってはいけません。金庫の中にしまってください」

「畏まりました」


 モリーとメリーが、大切に運んでいる。


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