ラブイエローリーブス(2)
結局、朝まで熟睡できずに、オレは寝不足だった。
髪を直す涼子を残して一階に下りてキッチンに向かう。涼子に宣言した手前、食事の用意はオレの役割だ。
トーストとサラダを用意して、それから卵を割る。見た目の悪いスクランブルエッグが出来上がった。
涼子はなかなか下りてこないので、オレは眠気覚ましに外の空気を吸おうと思った。
キッチンからは、直接、庭に出られるようになっていて、オレはそのドアを開いた。
乗り付けたプレリュードが玄関の前に停まっている。朝露に濡れて、光りを反射していた。
ワックスがよく効いている。磨き込んだボディーは露が付き易い。
見回すと、当たり一面が濡れていた。
昨日の夜の水音は、この露かもしれない、と一瞬だけ思った。この程度の水分が、どうやって滴るような音になるのか想像出来なかったが。
「圭吾、何しているの?」
食堂の窓を開けて涼子が叫んだ。振り返ると、涼子が笑顔で手を振った。
「目を覚ましていたんだ」
オレは、そう言うと涼子のもとに戻った。
「今日は何処にいく?」
そういう涼子の手元には、薄い雑誌が広げられていた。
「なんだ、それ」
「るるぶ」
オレはため息をついて涼子の隣に座った。
「遊びに来てるんじゃないぞ」
不思議そうに涼子は顔を上げた。
「大丈夫よ。まだ一週間以上もあるんだもの。探し物は後ですればいいわよ」
そうなのか?
「せっかく、こんないいところに来たんだから、温泉に行きたいわ」
昨日、入っただろ?
「今日は、露天風呂に行きたい」
オレはため息をついた。責任感の無さは若者の特権だ。
午後の三時に戻ってくると、車が一台停まっていた。昨日とは違う。軽自動車だ。
黒いアルト。管理人かな?
オレは玄関を鍵で開けると中に入った。
食堂のほうから、おばちゃんが一人、現われた。
「いらっしゃい。緒方さんから聞いています。遠いところをわざわざどうも」
「いえ、こちらこそ。お世話になります」
おばちゃんの名前は鈴木。鈴木さんのアルトかよ。どうでもいいが。ちらっと涼子を見ると、「言うな」と目が言っていた。どうせおっさんだよ、オレは。
「用があったら呼んでくださいね。むこうで掃除してますから」
そう言うと、おばちゃんは行こうとした。オレも二階に上がろうと歩き出した。
「あ、そうだ」
「何か?」
足を止めて振り返る。
「幽霊に気を付けて」
夕方までにしたことといえば、この屋敷の改装をした建築屋に電話して見取図を送ってもらうように手配したことだけだ。Eメールに添付して明日までに送ってくれるという。
それだけし終えると、オレはキッチンに向かった。部屋では涼子が本を読んでいた。
働けよ、少しは。
キッチンに入ると、おばちゃんが帰るところだった。日は暮れかかり、あたりは真っ赤に染まりつつあった。
「血の赤ね」
おばちゃんが、聞き捨てならない一言を言って、立ち上がった。オレは思わず呼び止めた。
「血の赤って?」
「深い意味は無いよ」
じゃあ、言うなよ、思った。
「そういえば、サカモトさんを発見したのは・・・?」
「そう、このあたしよ」
「それは大変でしたね」
「まったく、大変よ。二階のあの部屋を開けたら、嫌な匂いがしたのよ。首なんか吊っているから、それはもう嫌な匂いで」
「遺書か何かなかったんですか?」
「あったわよ。何もかもあの日のままなのよ、あの部屋だけは。サカモトさんには家族が無かったでしょう?だから、引き取り手も無くてね」
「そうでしたか?とすると、遺書もあの部屋に?」
「そう。誰も彼も気味悪がって。遺書といっても遺産とかそういう関係のものでもなかったし、あたしもね、掃除はしたけど、それ以上のことは勘弁してもらいたいわね。あの部屋だけは、昼間でも入りたくないわね」
「それは、どうしてですか?」
「行ってみればわかるわよ」
それだけ言うと、ちらっと腕時計を見て、それから窓の外を見た。夕暮れがせまり、空は血の赤に染まっていた。「ムンクの叫び」の空の色。ムンクは夕暮れの空が、血に染まった空が街を覆いつくすのを見て、そして叫びを聞いた。
「もう、帰らなくちゃ」
そういうと、そそくさとハンドバッグをつかみ、通用口から表へ出た。
「明日と明後日は来ませんから。ごゆっくりどうぞ」
そう言うと、おばちゃんはドアを開けた。
「あ、そうですか。ご苦労様」
それが聞こえたのか、おばちゃんはさっと、振り返った。
「気を付けるのよ。ひきこまれないように」
いちいち気になることを言うなよ。
ポトフを作って、それからピラフの素をフライパンに飯と一緒に入れた。
涼子は、すでに食堂に来ていた。
「まだ?圭吾」
「もうすぐだよ」
「お腹減った」
「じゃあ、手伝え」
涼子がやってきて、それから邪魔をした。手伝っているつもりだったのかもしれないが。
食事が終わり、再び夜が深く屋敷を包みこんだ。
次の日も、朝からオレ達は観光に出かけた。
涼子の脳天気さに、少し慣れ始めていた。しかし、昨日の夜も前日と同じような水の音で、オレは目が覚めた。時計は午前二時。一人で寝るのは嫌だったから、二日目も涼子のベッドに潜り込んでいた。その涼子は、昨日もよく寝ていた。
オレは、カーペットを擦る音と、水の滴る音が気になって眠れなかった。
少し早めの昼過ぎに帰ってきて、オレはパソコンを立ち上げた。日曜だというのに、建築屋は丁寧な文章とともに、屋敷の設計図を送ってきていた。
ただ、問題は、それがCADでデザインされたもので、開くソフトがわからなかったことだ。オレは、とりあえず、それを諦めた。
「涼子。午後からはどうする?」
「そうね、近くに見晴らしのいい所があるんだけど」
「そうじゃなくて、仕事だよ。仕事はしなくていいのか?」
涼子は、いたずらっぽく笑った。
「圭吾。結構まじめね」
「茶化すなよ」
「チャカ?」
それじゃあ、てっぽう、だ。業界用語で拳銃を「チャカ」という。
「サカモトが首を吊っていた部屋、見なくていいのか?」
涼子は、頷いた。
「まだいいわ。そういう時期じゃないもの」
どういう時期なんだか。
遠くへ出かけるのはやめにして、近くを散歩することにした。
車で乗り付けられる側は鬱蒼とした森だったが、屋敷の裏手には小川が流れていて、見晴らしがいい丘があった。
「すごい、すごい」
涼子がはしゃいで飛び跳ねていた。山の上から遠くの街が見えた。
「東京かなあ、あれ」
涼子が指差す先を見ると、はるかかなたにビルが立ち並んでいるのが見えた。
「高崎かなんかじゃないのか?」
「高崎?」
「群馬の都市だよ」
「へえ」
オレもよくは知らないが。その時、オレは来た道をのぼってくる人影に気が付いた。
「誰か来るみたいだぞ」
涼子に声をかけると、涼子も振り返った。
「彼女ね」
よく見ると、その人影はスカートを履いていた。
「女だな」
「そうじゃなくて、サカモトさんの恋人」
なんで知っている、と聞きかけて口を閉じた。愚問だ。どうしてか、ではなく、自然に涼子は知っているに過ぎない。思い込みだと思うが。
「こんにちわ」
向こうもこちらに気が付いて、手を振った。オレも手を振り返した。彼女が近くまでやってくると、オレは自分達を自己紹介した。
「わたしは、市岡春奈と申します」
涼子は満足そうに頷いた。
「ええ、知っています。よろしく。黒崎涼子です」
不思議そうに市岡が涼子を見つめた。
「オレ達は、サカモトさんが仕舞い込んだままにしているデザイン画を探すために来たんです。篠原さんに頼まれてね」
「そうでしたか」
市岡は、高崎の方を見た。たぶん、高崎。
「彼は、あれを隠したのだと思います。ひょっとしたら焼いてしまったのかも」
「焼いた?」
「ええ。怒っていましたから」
「誰に?」
「もちろん、篠原ですわ。彼、あの人の強引なやり方が気に入らなかったようで」
「強引なやりかたって言うと、例えばどんな?」
市岡は、急にはっとしたようにオレを見た。それで、質問には答えてくれないだろうな、と直感した。かわりに市岡は、こう言った。
「彼が死んだのが三ヶ月前」
「ええ、そうでしたね」
すると、涼子が言った。
「春奈さんが篠原さんの会社を辞めたのは、いつですか?」
市岡が明らかに気分を害したような顔で涼子を見た。こらこら、勝手に人の記憶を読むなよ。
「二ヶ月前です。資料を読んだの?」
涼子は首を振った。
「いや、涼子は霊能者で・・・」
市岡は、まずオレの顔をまじまじと眺め、それから涼子を薄気味悪そうに見た。
「冗談でしょ?」
「いや、それが本当なんです。オレ達は、サカモトさんに恋人がいたなんて話は、まったく聞いてない」
屋敷に戻ると、涼子は市岡の手を引いて二階に上がった。あの、特別室だった。
「ここへ、入るの?」
嫌そうな顔で市岡が言った。あらためて見れば、美人で二十代の後半。オレにはぴったりの恋人になりそうな・・・。
「圭吾」
急に涼子がオレに振り返った。
「あ、いやいや」
「どうしたんですか?」
「なんでも、ないです」
オレはポケットからキーを取り出して、その部屋のドアを開いた。ドアの隙間から、闇がこぼれ出した。
「カーテンが閉まっているみたいだな」
オレは、その部屋に入った。ものすごく、空気が冷たく感じられた。
「なんだ、この部屋は」
エアコンの音はしていないから、冷房がかかっていたわけではない。とにかく、カーテンを引き開けた。さっと光りが差し込んだ。
「圭吾、あんまり勢いよく歩かないほうがいいわよ」
涼子が、心配そうに言った。
「なんで?」
「さっき、幽霊とぶつかったわ」
ああ、これだから。
「圭吾の後ろに髪の長い人が立っているわ」
オレは思わず振り向いたが、そこには派手な彫刻の窓があるだけだった。
「女か?」
「何言っているのよ。サカモトさんよ」
「ああ、そうか」
信じられない顔で、市岡はオレ達の会話を聞いていた。
「涼子さん。あなた、本当に見えるの?」
涼子は頷いた。
「背の高い色白の男の人。きれいな顔立ちね。右手で胸のポケットを触るのは癖かしら。何か、言いたがっている。でも、今は駄目」
「何故だ?」
オレが尋ねると、涼子はオレを無視して市岡を振り返った。
「春奈さんだけに話したいって言っている」
市岡は、そのまま泊り込むことになった。
最初から、近くのホテルに泊まるつもりで来たらしい。理由は、よく分からない。女心は単純で、そして複雑だ。オレには理解できない。陳腐な言い方が許されるなら、恋人を失った悲しみを乗り越えようとしているのかもしれない。だが、それもオレの推測に過ぎない。
「デザイン画は見つかってないのね?」
市岡が言い、オレはそうだと言った。
「この建物の見取図を建築屋に送ってもらったんだけど、CADソフトじゃないと開かないらしくて」
CADとは「コンピューター支援デザイン」の頭文字だ。それ以上のことは知らないが。
「そうなの?私がやってみようか?」
市岡は、あっさり言った。
「出来るんですか?」
夕食後、涼子は一人で部屋にこもっていた。頭痛がする、とか言いながら。
「もちろん。パタンナーの仕事って、CADが使えないと話にならないのよ」
「ほう。知らなかった」
「データは何処?」
「あ、そこのパソコンに・・・」
市岡は、自分のノートパソコンを持って来ると、データを転送し、それから圧縮してあったデータを解凍した。
「DXFデータね」
それがなんなのか、さっぱり分からなかったが、聞かなかった。聞いても仕方ない。余計にわからなくなるだけだ。
「開けるのか?」
「もちろん。ほら、出来た」
画面に、文字と線が現われた。
「それじゃあ、そのまま印刷してくれ」
「このまま?」
「何か問題が?」
「CADデータって、原寸大で描かれているのよ」
あ、縮小してくれ。
必要な図面だけをA4で出力し、ようやく四枚の紙に見取図が書き込まれた。
オレと市岡は、それをじっくりと見つめていた。何処かに、何かを隠せるような秘密の部屋があるんじゃないか、と思っていた。
「ところで、三階には入ってみたの?」
そう市岡が言った。
「いや。まだだ。何があるんだ?」
「言ってみれば物置きなんだけど。改装されない昔のままなのよ」
「そうだったのか。気にはなっていたんだが」
「じゃあ、デザイン画をちょっと探してみましょうよ」
「そうだな。涼子は寝ているし」
「懐中電灯は無い?」
「車の中になら入っている」
「それじゃあ、取ってきて始めましょう」
「オーケー。でも、始めるなら、あの部屋からだ」
特別室に入ると、夕方に入った時よりも、さらに気温が下がっていた。開けっぱなしにしておいた窓からは、月の明りが差し込んで、幻想的とすら言えた。
「寒いわね」
市岡が言い、オレは部屋の電灯をつけた。ぱっと明るくなった。
「サカモトさんが亡くなってから、この部屋に入ったことは?もちろん、夕方のは除いてだが」
「無いわ。篠原は、わたしが入るのを許さなかった」
「彼は、君がサカモトさんの恋人だと知っていたのか?」
「ええ」
「じゃあ、どうして?」
「デザインを盗まれると思ったんでしょう」
部屋の中には、大きな洋服ダンスが一つ。彫刻入りの、古めかしいやつだ。おそらくは、合板ではない、本物の木で出来ている。ベッドが一つ。キングサイズ。部屋の真ん中にはテーブルが置かれていて、これもウッドのアンティーク。
テーブルの上には花瓶が一つ。テーブルクロスは白のレースだった。
「遺書があるはずなんだが」
「ジャケットの中じゃない?」
オレは壁に掛けられていた何着かの服に近寄った。
「これも、彼がデザインしたのか?」
「そうよ」
そう言った途端に前触れもなく、電灯が消えた。市岡が小さく悲鳴をあげた。
「ちょっと待ってくれ」
オレは、ポケットから懐中電灯を取り出してスイッチを入れた。ぽっと明るくなった光りの輪の中に、オレは顔を両手で覆った市岡と、その後ろに何か白っぽい人の影を見た気がして、一瞬、びくっとした。
「どうしたの?桜井さん?」
「大丈夫だよ、市岡さん」
オレはすぐに気を取り直すと、市岡の手をとって、部屋から連れ出した。
「ブレーカーが落ちたんだろう。下に行こう」
白い影のことは、市岡には言わない事にした。見間違いに決まっている、オレはそう思った。何かが見えるかもしれない、つまり、この場合幽霊のことだが、そう思っている心の働きで人間は見えるはずのないものを見てしまう。それは壁の染みだったり、枯れ草だったり、白内障だったりする。
幽霊の存在を信じているものほど、そういう傾向は強いが、信じてはいないと思っている人間も見ることがある。信じたくないだけで、本当は幽霊がいるかも、と思っているからだろう。
ただの怖がりのことだ。つまり、オレの事か。
小さく折り畳んだ見取図を広げ、ブレーカーの位置を探し出す。それは一階左翼の工房の奥にあった。廊下の電灯はついたままで、オレは懐中電灯をポケットに仕舞った。
「あの部屋だけヒューズが飛んだようだ」
「何故かしら?」
「さあ。しばらく使っていなかったらしいから、何処かで漏電しているのかもしれないな。改装したとはいえ、もともとが古い家だから」
「そうね」
それっきり、黙ってオレ達は階段を下り、それから廊下を通って工房に入った。そこの明りもついた。
「整理されているな」
工房、だとかそういう響きだと、陶芸家なんかの工房を思い浮かべてしまう。跳ね飛んだ塗料や本人にしか分からない配置の道具類。だが、その部屋は掃除が行き届いていて、庭に向かって大きな窓が並び、昼間なら明るくて気分がいいだろう、と思われた。
「彼は潔癖な人だったわ」
そこを通り抜け、配電盤を探し出した。
「これか」
落ちたブレーカーを元に戻す。
「せっかく下りてきたことだし、ここも一通り探すことにしようか?」
「そうね」
なんとなく、すぐにはあの部屋に戻りたくなかった。ちらっとだけ見た白い影。それがオレの想像の産物だったとしても、気味が悪い事には違いなかった。
部屋中を探したが、イラストの類は何一つ発見できなかった。ひょっとすると、篠原や他の社員が、それっぽいものを全て持ち返ったのかもしれない、と思い始めていた。ミスったものや、気に入らなくてお蔵入りにした作品すら出て来ないというのは、いくらサカモトが潔癖でもおかしい。
オレは、疲れてソファーに腰をおろした。ちらっと時計を見ると、十二時を指していた。
「どうして自殺なんかしたんだろうな」
オレは、まだ探していた市岡の背中に向かって言った。返事を期待してはいなかった。だが、彼女は答えた。
「彼は自分の才能に限界を感じていたわ」
「限界?」
「ええ。時代の寵児とかなんとか言われていたけれど、彼はたまたまそこにいただけ、そう感じていたみたい」
「そこにいたって言うと?」
「彼のデザインした服が、たまたま時代にマッチしたのね。でも、流行はすぐに変わってしまう。流れ去る時間はとても早い。昨日のアイデアは今日には、もう古いの」
「でも流行は繰り返すっていうじゃないか」
「ええ。でも、まったく同じじゃない。似てはいても、素材も違うし、それを着る人も違う。最初のきっかけを花に求めるのも、過去のデザインに求めるのも、それほど違わないの。結局、そこから何を作り出せるかなのよ」
「そうか。だが、死ぬほどのことだったのかな?」
「それは分からない。でも、彼は自分の仕事に誇りを持っていたし」
「ああ。でも、長いことしていたら、何にでも限界が来るだろう?それを乗り越えられないような人だったって思うかい?」
「いいえ」
「じゃあ、どうしてだろうな」
市岡は、探していた手を休めて、オレを振り返った。
「わたしね、ひょっとしたら篠原が何か言ったんじゃないか、そう思っているの。彼が死んだのは篠原のせいなんじゃないかって」
「どういうことだ?」
「あの日、この別荘にはサカモトと私がいた。お手伝いの鈴木さんは来ない日だったし」
「バケーション?」
「いいえ。パタンナーの仕事には、デザイナーの考えを忠実に製品に反映させることも含まれているの。だから、綿密な打ち合わせが必要なの」
「なるほど、そういうものなのか。あの日っていうのは、サカモトさんが死んだ日か?」
「そうよ。わたしには戻ってからも続きの仕事があったし、お昼には電車で東京に戻ったわ。彼が死んだって聞かされたのは、三日後だった」
「鈴木さんが発見したんだってな」
「ええ。サカモトが車で送って行ってくれたの。駅までね。その時、わたしは篠原社長の車をみかけたのよ」
「車?」
「そう。銀色のベンツ。でも、その時はね、同じ型だって思っただけ」
「篠原はなんて?」
「もちろん、行って無いって。でも、あの日、社長が事務所にいなかったことは確かよ。何処にいたかは分からないの」
オレは腕を組んだ。
「つまり、篠原が殺したって?」
「そこまでは・・・。でも、社長が言ったことがきっかけで自殺したのかもしれないわ」
「何故?」
「リョー・サカモト・デザインは、破産寸前だったの」