感覚 其の四
今回は女の子が主人公です。過去作品を読んだことのある方は、誰だか察しがつくと思います。
私は、いたって普通の子供だった。
特にこれといった問題を起こすことも無く、成績も普通。見た目は自分ではよくわからないけれど、とにかくいろんなことが普通だった。
目立たないわけではない。けど、目立ちたいとも思わなかった。ただ、平凡な人生を無難に生きていければ、それだけでよかった。
そんな私は、彼氏いない歴=年齢だった。別に人付き合いが悪いわけではなかったと思う。男の子の友達だってまあまあいたし。でも、付き合うほど親密な関係になる人もいなかった。
彼と出会ったのは、いつだったっけ。あんまり記憶に残っていない。でも、結構気にしていたんだと思う。日常のワンシーンを思い出そうとするだけで、そこに彼がいたような気になれるから。
不思議な人だった。つかみどころがなくて、目立たないのに、記憶には残る、そんな感じの。
その分だけ「付き合ってください」と言われた時には状況が良く理解できなくて大変だったな。でも、不思議と嫌だとは思わなくて、オーケーしていた。それからの日々はすごく楽しかった。
彼はいつも、「誰かが何かをしていると生きているって思えるんだ。」って言ってた。初めはよくわからなかったけれど、「つまり、君がそばにいてくれるだけで僕は幸せなんだよ。」って笑顔で言ってくれるのを見ると、「ああ、よかった」って思えたんだ。
第一印象は暗かった。でも、笑顔がかっこよくて、なんか包容力があった。一緒にいると安心できるような。
こんな日が永遠に続いたら、普通だった人生とおさらばして、楽しい人生を送れるかもしれない、って本気で思ってた。
ある日から、彼の態度がだんだんおかしくなってきた。いつも惚けたような顔をしていて、ボーっとしてた。話しかけても、三回目でやっと気づいてくれた。
「君のことで頭がいっぱいなんだよ」
そう言ってくれてはいたけれど、だんだん違う世界に飲み込まれていくみたいな感じがした。このままどこかに行ってしまうんじゃないか、いつか消えちゃうんじゃないかって。
笑顔の中に、「冷たさ」が混じってきた。目を見るだけで凍り付いてしまいそうな。獲物を狙う、冷徹な目。
いつの間にか、彼を不気味だと思うようになっていった。
夜。窓の外には、深い闇。
彼が私を呼ぶ。
「ごめんね、僕は君のことが好きで好きでどうしようもないみたいなんだよ。」
そういった彼の笑顔はとても冷たく、声を上げてしまいそうになった。
「大丈夫。すぐ楽になるから。」
彼が手を伸ばす。首に手をかける。
力が入っていくのが分かった。私は、死ぬんだろうか。
意識が薄れ始める。このまま死んだら、きっとひどい死に顔になっちゃうな……
「本当に、君のことが大好きだったんだよ。」
最後に見せてくれた笑顔は、今までのどんな笑顔よりも、
暖かかった。
やっぱり私は、彼が好きなんだな。
意識が、消え……