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伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~  作者: タック
第九章 勝負! 日替わりダンジョン弁当!

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弁当七番勝負! エルムのダンジョン弁当!

 酒場で投票結果が発表され、ウリコが一位になった。

 弁当を作った者と、冒険者の両者から何とも言えない微妙な雰囲気が漂っていた。


「ど、どうしたんですか皆さん……? 私はちゃんと勝ったし、皆さんも金銭的にお得だったはずです……」


 一位のウリコは不安げな表情をして、周りを見回していた。

 正攻法ではない勝ち方に、本人も何か引っかかるものがあるのだろう。

 そこにエルムがやってきて口を開いた。


「いや、ウリコ。それは間違っている。――お前はまだ勝ってはいない」


「エルムさん……?」


「最後に俺と戦ってもらおうか。これが七番目の勝負だ」


 エルムは白銀の鎧にエーテルを通して、“緑”モードにチェンジした。

 エプロンをひるがえし、堂々とした仕草で厨房へと歩いて行く。


「な、なんでエルムさんが勝負するんですか!? 特別な役職で参戦できないはずじゃ――」


「最初から一度も、特別な役職だから参戦しないとは言っていないぞ? ……それに、ウリコに本当の弁当というものを見せてやりたくなってな」


「……そ、そうですか! エルムさんも私を勝たせたくないんですか! いいですよ、受けて立ちましょう! しかし、ここからの得点差をひっくり返すのは、いくらエルムさんでも無理です!!」


「それを決めるのは俺じゃない。食べる奴ら次第だ」


 ウリコの意地を張った声を背に、エルムは厨房へと辿り着いた。

 慣れた手つきで調理を開始する。

 特別なことはしない。

 普通にご飯を炊き、ウインナーを炒め、卵をかき混ぜて焼き、鶏肉をから揚げにする――

 リズムよく、無駄のない動作で弁当箱の中が埋まっていく。


「栄養も考えて野菜……見た目で彩りも欲しいな」


 村で採れた野菜を使った根菜の煮物、ほうれん草のバター炒めを残りのスペースに詰め込んでいく。


「よし、完成だ」


 それは他の弁当と違って奇抜さの欠片も無い“普通”の――

 エルムのダンジョン弁当だった。




***




 次の日の早朝、エルムは日課のダンジョン攻略を終わらせてから、弁当販売に移った。

 弁当カウンターの内側に立つエルムに対して、既に勝ち誇っているウリコが近付いてきた。


「ふふふ……この弁当勝負、一人で売るというのは大変ですよ? 途中で奥から弁当を補充するにもタイムロス。さらに抜け出して追加の弁当を作るということもできません! さぁ、どうしますか、エルムさん!」


「いや? 普通に今日のパーティーメンバーに手伝いを頼んだが?」


「なっ!?」


 エルムの手伝いとしてやってきたのは――


「悪く思うなウリコ……これもわたしのけじめなのだ」


「まぁ、お兄さんに頼まれちゃやりますよね」


「はい、お兄さ……じゃなくて、エルムのアニキの頼みなら!」


 さっきまで一緒にダンジョンに潜っていた勇者、ブレイス、マシューだった。

 エルムはパーティーを組んでモンスターを倒す傍ら、事情を説明して手伝ってもらうことにしたのだ。


「ルールでは、誰が売るかは触れられていなかったはずだ。なに、ちゃんと弁当を作るのは俺一人でやるから安心しろ」


「ま、まぁ確かにその通りですね……。しかし、私と違って普通の値段で、そこまで爆発的に売れるはずがありません! 売れ行きに絶望してください!」


「いや、それはどうかな……?」


 エルムの含みがある声のあと、すぐに弁当販売が開始された。




 最初は余裕タップリで遠くから見ていたウリコも、お昼頃には焦りが見え始めてきた。


「な、なんでこんなにお弁当の減りが早いんですか……!? まさか、私のように半額で!?」


「いや、ちゃんと弁当の適正価格で売ってる。――ただし、勝手に割引されてしまうけどな」


「割引……?」


 ウリコは並んでいる客が握っているものに気が付いた。

 それは昨日、自分がバラ撒いた――


「私の“愛情タップリ弁当”に付いていた割引券!?」


「困ったもので、店のすべてに使えるから勝手に割引になってしまうんだ」


 手元に割引券があれば、すぐ使いたくなるのは当然である。

 しかし、エルムの弁当の売れ行きが異常なのは、それだけが理由ではなかった。

 割引券を持っていない冒険者が、空の弁当箱を持ってカウンターに並んでいるのだ。


「エプロンの兄ちゃん、おめぇの作った弁当すげぇ美味かったぜ! 何というか、不思議と懐かしい気持ちになるし、一分の隙もないような絶妙なバランスの味だ!」


「それは何よりだ」


「周りの奴らにも美味かったって言ったら、みんな買いに行くってすっ飛んでいっちまいやがった。オレも、もう一回食いたいからな。売り切れない内にまた来たってわけだ!」


 ウリコは耳を疑っていた。


「り、リピーター……? この短時間に、一種類のお弁当を飽きずに……」


「奇をてらわず、普通に美味しいというのは飽きないものだ。ウリコもお昼ご飯に食べるか?」


「そ、そんなはずは……。いいでしょう、ためしに私も一個購入して食べてみましょう……。たった2BPだけでも入ってしまいますが、評価点を入れなければそこまで順位に影響はないはず!」


 エルムから弁当箱を受け取ったウリコだったが、そのずっしりとした重みに驚いた。

 それは限界までスペースを考えて詰め込まれたおかずの成せる技。

 基本的に同じ弁当箱の大きさなら、重い方が有利なのは当然である。


「くっ、重さくらいで……!」


 ウリコはテーブルの席に座り、弁当箱をパカッと開けた。

 最初に飛び込んできたのは、素朴だが、目に嬉しい美しさだった。

 フンワリと優しそうに佇む玉子焼き、どんな温度でも食欲をそそるから揚げ、遊び心のあるタコさんウインナー、味の染みていそうな根菜の煮物、鮮やかな色を添えるほうれん草のバター炒め。

 身構えていたものを一瞬で崩すように、そこにあるのは自然と受け入れるしかないと思わせるほどの“弁当”だった。


「い、頂きます……」


 意地を張ることすら許されない、箱の世界に詰められた小さくとも大きな存在。


「……美味しい」


 ウリコが口にしたおかずは、どれもが想像通り――いや、その少しだけ先をいく味だった。

 から揚げを食べれば、想像していた以上に食べたかったから揚げ。

 ほうれん草のバター炒めを食べれば、想像していた以上に凝縮された野菜の旨み。

 すべての一品が奇をてらわずに、しかし作り慣れたであろう丁寧なおかず。

 エルム自身のために作ったのではなく、食べ者の気持ちを素直に考えた弁当。

 どこか懐かしい、人間の原風景にあるような存在――


「あれ……なんで涙が……」


 ウリコは食事のルーツを思い出してしまっていた。

 幼い頃に亡くなった母が作ってくれた、ウリコのための料理。

 家族のために丁寧に、愛情と美味しさが詰め込まれた幸せな食卓。

 とても優しい母の味。


「ああ……そうか。もしかして、私が本当に作りたかったお弁当は……」


 ――瞬く間にエルムのダンジョン弁当のポイントが積み重なっていき、暫定一位のウリコに肉薄してきた。

 あとはもう購入した冒険者が帰ってきて、評価点を入れるだけで順位が逆転しそうだ。


「さてと、そろそろまた数組のパーティーが戻ってきそうなタイミングだが――」


 エルムがそう口にした瞬間、酒場の扉が強く開け放たれた。


「た、大変です……うぐ……ッ!」


 今にも死にそうな声。

 それは抑えた肩口から、大量に血を流していたエドワードだった。


「だ、大丈夫ですか!?」


 異常事態だと気が付いたウリコは勝負のことを忘れ、血で汚れるのも気にせずエドワードに肩を貸していた。


「せ、拙僧のことより……ダンジョンが……」


「ダンジョンがどうかしたんですか……?」


「――ダンジョンが崩壊するかもしれません!!」

 下の方に書籍版へのリンクを貼ってみました。

 活動報告にも、一ヶ月後に発売する書籍版のあれこれを書いてみたので暇つぶしにでもどうぞ!

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【新作です! タイトルを押すと飛べます!】
『星渡りの傭兵は闘争を求める』



【書籍情報】
j0jdiq0hi0dkci8b0ekeecm4sga_101e_xc_1df_
『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
エルムたちの海でのバカンスや、可愛いひなワイバーン、勇者の隠された過去など7万字くらい大幅加筆修正されています。
二巻、発売中です。
ガンガンONLINEで連載中のコミカライズは、単行本四巻が10月12日発売です。
よろしくお願いします。
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