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弁当七番勝負! ウリコの愛情タップリ弁当!

 ――ウリコが弁当を販売する当日。

 酒場で佇むエルムは、前日に食材調達などを手伝わされると思っていたのだが、何もなしで当日になってしまった。

 そこで心配になってウリコに話しかけることにした。


「お、おい。大丈夫か……?」


「ふふふ……エルムさん? 今、私に『大丈夫か?』と聞きましたね?」


「ああ……。食材も集めず、弁当を作った気配すらないからな……」


 ウリコはニィッと口角を吊り上げた。


「ふふ……ふーっふっふっふっふっふ!! 今までの弁当勝負、ご苦労様でした。ええ、素晴らしいお弁当ばかりでしたとも。――最後、この私に倒されるとも知らずに!」


「突然、何を言い出してるんだ」


「うわ~……。見て見てエルムぅ。ウリコの奴、ぼっちをこじらせて悪役ムーブしてるよ?」


 いつの間にかチョコンと座っていた子竜も呆れながら、しかし……どこか面白がっていた。


「おっと、そんな可哀想な子を見るような目をしても無駄ですよ! 私は商売人の娘! こういう勝負で負けるはずがないのですよ!」


「……といっても、材料も調理もなしにどうするんだ?」


「よくぞ聞いてくれました! 聞いてくれないと本当に私が可哀想な子になっちゃいますからね! さぁ、食材も調理もなしに、どうやって弁当を用意していたか! 実は以前から在庫として存在していたのです!」


「……在庫?」


 ウリコが取りだしたのは、干し肉と黒パンと飲料水がセットになった“冒険者携帯食”である。

 以前よりこれは不味くて不評。さらに酒場や弁当もあるので最近は売れなくなってきていた。


「それは確かに言い張れば弁当かもしれないが……売れるのか?」


「売れないでしょうね。――しかし、私には裏ワザがあります! 私にしかできない、私だけの、私を勝利させる必勝の裏ワザが!」


「……何か嫌な予感がする」


 頭痛がしてきたエルムをよそに、ウリコは胸を張って宣言した。


「今からこの携帯食……いえ、愛情タップリ弁当に“5割引シール”を貼ります!」


「5割引……」


 その場に居た冒険者たちの注目が集まった。


「さらに――次回ご来店の際に使える割引券を付けましょう! おおっと、この割引券は! ※弁当の評価点を10入れると追加で割引です。と書いてありますよー!?」


「えぇ……」


「どうですか……一緒にお弁当を作る仲間なんていなくても、これなら必勝ですよ!」


 エルムだけではなく冒険者たちも、ウリコのことを可哀想な目で見始めた。


「そこまでして組を作れた奴らに勝ちたいんだな……」


「卑怯で汚いけど泣ける……」


「……友達いなくても強く生きろよ、ウリコちゃん……」


 いたたまれなくなったのか、ウリコは大声をあげて反論する。


「な、なんで皆さん菩薩のような目で私を見てるんですか!? 別にペアを組めなくて、夜な夜な枕を濡らしたとかないですからね……本当ですよ!? 元から普通に勝つ気でいましたから!!」


 冒険者たちは口々に『こんなんで弁当勝負が終わっちまうのか……』とか『他の奴らは色々考えてたのになぁ』と呟きつつも、身体は正直なので弁当のようなモノを次々と購入していった。

 次回使える割引券は、ウリコの店の商品すべてに適用できるのでメリットが大きいのだ。


「ふふふふふ、金こそ愛でありパワーです! 弁当勝負のラスト! 店の主である私――ウリコちゃんは一人でも……そう、一人でも最強と証明されますね……!」


 そう言いつつも、ウリコはどこか強がっているように見えた。




***




 ダンジョンに潜っている冒険者エドワードのパーティー。


「毎日お弁当を楽しみにしつつ、ついに六層目ですが……」


 暗いダンジョンの中、休憩時間だというのにエドワードは珍しく憂鬱になっていた。

 手の中にある原因を眺める。


「いつもだと販売している方々の説明にワクワクしながら、箱を開けるまでのドキドキを味わえたのに……」


 今日の“愛情タップリ弁当”は、弁当箱には入っていない。

 干し肉、黒パン、飲料水がヒモでくくり付けられただけの粗末なシロモノだ。

 最初から何も期待できない。


「エドワード、食わんのか?」


 横に座っているシャルマは気にしていないようで、代理で買ってきてもらった愛情タップリ弁当のヒモを解き始めていた。


「いえ、食べますけど……。そりゃ拙僧だって冒険者なので、この携帯食には助けられてきましたよ。この仕事をしていれば最悪、食料なしで行動することだってありましたし。でも……」


「今までの弁当が眩しかった――か?」


「はい……」


 これまでの六日間を走り抜けてきた弁当たち――


 何もないところから手探りで始めた、三位一体弁当。

 弁当という未知の領域に踏み込むのは大変だっただろう。


 二人の信頼を表現した、魔王の弁当。

 限られた食材だが、その表現方法はアートといっても良いかもしれない。


 弁当という概念を一段階引き上げた、最高級バハムート十三世弁当。

 中身だけでなく、弁当箱へのこだわりも感じられた。


 食べる冒険者のことを考慮した、東の国弁当。

 無垢なる思いが優しさを与えてくれた。


 戦闘面に特化している一風変わった、魔剤弁当。

 普段できない戦闘経験によって、多くの冒険者の意識が拡張された。


 そして――


「ですが、六番目の弁当――この愛情タップリ弁当は空虚です。何も込められていません……。もし、これが一位になってしまったら……。いえ、普通は割引券のために評価点を10入れるので、確実に一位になるでしょう」


「ふむ、民草とは、そういうものか」


「そういうものです……。これでは可哀想だと思います」


 二人は味気ない黒パンを囓る。

 保存のために水分もなく、硬くて不味い。

 楽しむためではなく、生きるための食事。


「誰が可哀想だというのだ? まんまと金に踊らされた冒険者か? それとも真面目に弁当を作った人間か?」


「……いえ、こんなもので優勝してしまう、あの少女がです」


 エドワードは、三角巾をなびかせながら働くウリコのことを思い出した。

 どんなに人相が悪い冒険者が来ても、どんなに汚れた冒険者が来ても、どんなに落ち込んだ冒険者が来ても――明るく平等に受け入れてくれる存在。

 ボリス村になくてはならない少女だ。


「拙僧は会ってからまだ日が浅いのですが、店で見るウリコさんは、とても良い子です。それなのに、つまらない意地で、思いのほか自らの影響が大きくトントン拍子――その結果つまらない勝利を手に入れてしまってはあんまりです」


「ふん、なるほどな。……だが、それも杞憂に終わるだろう」


「えっ!? でも、弁当勝負は終わってしまうのでは……?」


 シャルマはいつもと変わらぬ表情で眉間にシワを寄せながら、少しだけ口元を微笑ませた。


「いや、余は知っている。まだ一人、余の友が残っていることをな」




 ウリコ。

 愛情タップリ弁当。

 販売416BP。

 評価2078BP。

 ――合計2494BP。


 かなりの冒険者が複数買いをして、ほとんどが評価点10を入れるという結果になった。

 在庫が余っていたというのもあり、他の組より数を用意できたというのも大きい。

 現在一位。

 二位に二倍差をつけている。


***


 現在の順位。

 一位――ウリコ、愛情タップリ弁当。2494BP。

 二位――魔法猫組、魔剤弁当。1232BP。

 三位――爺孫組、東の国弁当。1121BP。

 四位――魔王軍組、魔王の弁当。551BP。

 五位――元冒険者組、三位一体弁当。163BP。

 六位――強制カップル組、最高級バハムート十三世弁当。149BP。

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