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伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~  作者: タック
第九章 勝負! 日替わりダンジョン弁当!

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竜装騎士、魔法の修行で対消滅させる

「というわけで、修行の第二段階ですよ、お兄さん」


 村の近くの修練場。

 今回も満面の笑みを浮かべているブレイスと、これから何をやらされるのかと警戒しているエルムがいた。


「ブレイス、俺は何をすればいいんだ? ずっと指から火を出し続けるのもなかなかきつかったが……。色々な意味で……。特に人の視線とか……」


「あー、ごめんなさい。確かにアレは外から見て恥ずかしい感じでしたね。お兄さん、照れて村に行きにくいみたいでしたし。……見てるこっちは楽しかったですが」


 耳をピコピコさせながらテヘペロと舌を出すブレイスに、エルムはジト眼を向けた。


「何か言ったか、ブレイス?」


「あはは、眼が怖いですよ、お兄さん。――というわけで、次は諸々に配慮した簡単な修行です。他の人が見ても外見上の変化がないし、制限無しで自由に行動もできますよ」


「なるほど、それは良い。気が利くじゃないか」


「十秒に一回、“煉獄”と“氷獄”を体内で同時構成して、対消滅させます。それをエンドレスで」


「……は?」


「バランスをミスって対消滅させられなかったら、体内から爆発して大変な事になりますが、まぁお兄さんなら平気でしょう。十秒に一回、一分に六回、一時間に三百六十回、一日に――」


「マジか」


「マジです♪」


 不死身のエルムでなければ絶対に無理な修行方法だろう。

 現に五分後、爆発音と共に大変な事になった。


「――周囲への被害はなさそうですね~、さすがお兄さんです」


 どうってことはない、という意味でエルムは倒れながらサムズアップ。

 辛うじて、そういうお茶目ができるくらいの右腕は残っている状態だ。

 パーツが足りなくて、物理的に喋れない状態でもある。

 とても他人には見せられないモザイク必須のスプラッタな姿なので、やはりなるべくは失敗させない方がいいだろう。……そう考えながら一瞬で元の状態に復活した。




* * * * * * * *




 それからしばらくの間に、修練場に人が増えていった。

 最初は約束通りに来てしまった双子。


「ブレイス様! 魔法を教えて!」


「うーん、魔法は失敗すると普通の人間は死んじゃうんで、まずは魔術からですね」


「ちぇ~、残念だわ~」


 ブレイスにたしなめられる少女――レン。

 本当は魔法を使えるようになる才能を持っているのだが、ブレイスはそれを話さなかった。

 普通なら褒めて慢心するくらいは良しとするのだが、魔法の場合は(おご)ってしまうと冗談ではなく死んでしまう。

 命の軽かった混沌の時代でもなし、エルムのような不死身でもない。

 精神的に強くなるまでは魔法は教えない。

 それを羨ましそうに眺めていた双子の片割れ――コンが声をあげた。


「あ、レンはもう教えてもらえるのか! ズルい! コンにも剣術を教えてよ!」


「ん~、(ぼく)が教えるより、お兄さんに任せた方がよさそうですね」


「お、俺!?」


 いきなり指名されたエルムは、危うく体内から爆発するところだった。

 一瞬の油断が命取りである。

 さすがに不死身でも体内から爆発はしたくない。

 子供達のトラウマになるのは確実だ。


「お兄さんも普通に修行するより、何かをしながら修行した方が難易度が高くなって成果が出やすいですよね? うん、そうしましょう。コンに修行を付けてあげてください」


「くっそ、ブレイス……! もしかして最初に双子を誘った時から……!」


「計画通り♪」


「ブレェェェェイスゥゥゥ……!!」


 体内で必死に魔法の生成と対消滅をこなしているエルムは、今際(いまわ)(きわ)のように叫んで抗議するしかなかった。

 嬉しそうにトテトテと近寄ってくるコン。


「じゃあ、エルム! さっそく、打ち合おう!」


「うぐぐ。わ、わかった……。まずはコンの習熟度を確かめないとだしな……」


「あれ? でも、エルムは槍使いだよね?」


 エルムは『そうだ』と答えながら、神槍を収納して、用意してあった木刀を手に取った。


「扱いは下手だが、剣も一応は使える」


「へ~、でも、それじゃあコンの方が勝っちゃうんじゃない? 何かエルムも修行中でバテバテだし、隙だらけに見えるよ?」


「そうかもな。期待外れだったら謝る。さぁ、打ち込んでこい」


 エルムは片手で胸を押さえながら汗を流して、もう片手で木刀をだらりとぶら下げているような不格好な構え。

 それに対して背の低いコンは木刀を上に構えていた。

 何も混じりけも無い、一直線の純粋な一撃を放つつもりだ。

 自分という存在をぶつける挨拶のようなもの。


「コンはモンスターだって倒せる腕前なんだ! 油断して怪我をしても知らないよ! やぁーッ!!」


 猫獣人特有のしなやかさで、全身を跳ねさせるように使いながらの突進――振り下ろし。

 確かに一流の剣士でも、子供だと油断していたら手痛い事になるだろう。

 だが、エルムは軽々と木刀で受け止めた。

 しかもよく見ると、その受け止めた部分は――。


「……え!? 軽々と受け止め……しかも柄頭で!? ウソだろ、隙だらけだったのに……」


 エルムは木刀の柄頭――いわゆる木刀の一番後ろの尻の部分で受け止めていた。

 ほんの数センチしかない狭い部分で、少しでもズレて滑らせたりすれば、エルムの顔面直撃コースだったはずだ。

 それを軽々とやってのけたのだ。


「隙だらけに見えたのは、俺の動きを想定できていなかったからだ。相手が速ければ速い程、その可能性は広がって隙という部分は小さくなる」


 エルムはコツンと木刀を押し返して、再び距離を保った。


「すげぇ! 今までのどんな大人よりも動きが速かった!」


「しかし、困ったな……。近接戦の基礎は教えられても、その先の剣術となると俺が深みを教えられるか自信がない。あとでショーグンも呼ぶか……」


「やった! こんなすごい人達に修行してもらえるなんて、レンとコンはやっぱり特別な存在なんだ!」


 また“特別な存在”という言葉が出てきた。

 双子にとって、それが大切な言葉なのだろう。

 エルムは口で教えるよりも、村で暮らして自然と答えを出してもらうのがいいだろうと、今は何も言わないでおいた。




 双子の次に集まってきたのは、見慣れた三人組だ。

 まず、噂を聞きつけてやってくるも、開始数分でスタミナ切れで倒れているガイ。


「ハァハァ……エルム……いや、エルムさん、エルム師匠……。な、なんかオレの時だけ修行が厳しくねぇか……?」


「ガイ、お前の場合は厳しく叩き込まないと三歩で忘れる。魔王軍の鳥魔将軍より物覚えが酷いからな」


「……楽して強くなれる修行コースはない?」


「ない。――いくぞ!」


 盾職で一番大事な体幹とスタミナを鍛えるために、バシバシと打たれ続けるガイ。

 エルムとしても、ガイ相手だとちょっと気楽にやれるのだが、面倒くさいので言わないでおいた。

 その近接戦の修行を眺める、魔法修行のメンバー。

 ブレイスの修行を受けるオルガとマシューの姿があった。


「あらぁ、あっちは楽しそうねぇ」


「ですねー。ガイさんも何だかんだで久しぶりに鍛錬ができていますし。今までも真面目だったら少しは上達してたかもですよ」


「あはは~。アタシも耳が痛いわぁ……」


 オルガは元々、集中力は高かったので、魔力の底上げを重点的に行っている。

 爆発的に増やす方法はないのだが、身体の隅っこに有効に使えていない魔力があって、それを掘り起こすような感覚だ。

 基礎鍛錬さえしていれば、決してDランク冒険者に甘んじてはいなかっただろう。

 才能はある方だ。


 一方、才能の塊であるウェポンマスターのマシューは、かなり強引な修行をしていた。


「ところでブレイスさん……本当にこれで魔術が使えるようになるんですか?」


「マシューはウェポンマスターだよね? それなら魔術用の杖を使えば、魔術師の立ち回りもできる……ような気がする。まぁ、失敗して暴走させても、(ぼく)と立ち位置がかぶってる奴が潰れたら嬉しいですし♪」


「なんか僕にだけ極端に攻撃的ですよね、ブレイスさん……。そんなにエルムのアニキと呼ぶのが気に入りませんか?」


 不満げに睨み付けるマシューと、目の笑っていない笑顔のブレイス。


「いや~、マシュー? 全然気にしてはいませんよ。合法的に暗殺できても、優しいお兄さんは悲しんじゃいますし」


「まったく、この猫獣人はなんなんですか……」


「はーい、そこ。師匠に無駄口を叩いたので、古の魔法学校直伝、魔力切れまで魔術を使って強制気絶コースです」


「……実家の武器屋のお父さん、お母さん。果たして僕は生き残れるのでしょうか」


 半泣きになるマシュー。

 ブレイスはボソッと、誰にも聞こえない程度の声で『マシュー、キミが羨ましいですよ』と呟いた。

 こうして――日々の生活に楽しい修行が組み込まれたのであった。

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『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
エルムたちの海でのバカンスや、可愛いひなワイバーン、勇者の隠された過去など7万字くらい大幅加筆修正されています。
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