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伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~  作者: タック
第八章 魔法のある生活

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竜装騎士、村に冷蔵倉庫を作ってしまう

「ふぅ。倉庫整理は大体、終わりましたね~」


 額の汗を拭う仕草をして、労働後っぽい良い笑顔をするウリコ。

 ここはウリコの店の横にある、食材などを保管している大きな倉庫前。

 エルムが修行で帰ってこない間に、先に冷やしたらまずい物などを分けておいたのだ。


「メッキゴーレムちゃんもお手伝いありがとうね」


『マッ!?』


 隊長ゴーレムは喋れないので、ジェスチャーで抗議をした。

 まず、自分はメッキゴーレムとは呼ばれたくない。

 いくらミスリルを表面にしか使ってなくても、さすがに言い方ァ!?

 あと、お手伝いというよりも、座ってジュースを飲んでいただけのウリコは、ほとんど何もしていないのに『労働による汗は爽やか、素っ晴らしいな~』みたいな雰囲気を醸し出しているのは何故か!? 働いたのはゴーレムである自分だけ!


 その心情を詰め込んだ――。


『マッ!? マッ!?』


 なのである。


「ふふっ。も~、私にそんなに感謝しなくてもいいよ~。村を支える縁の下の力持ちコンビだし、通じ合ってるからね!」


『……マ(なに言ってるんだコイツ)』


 隊長ゴーレムは考える事を止めて、遠く遠くの空を見つめた。

 宇宙とは、創世とは、始まりの神とは――。

 思考を深淵へと追いやる事によって、逆に俗世のことを考えないようにした。


「あ、何かメッキゴーレムちゃん止まっちゃった。ま、いっか! 後はエルムさんが帰ってくるのを待つだけですね。氷魔法がないと、どうにも作業は進まないですし」


 一仕事終えた気分になったウリコは、防具屋に戻ってカウンター裏で隠れてドライフルーツをパクつこうと目論んでいた。

 しかし、その前に一人の女性が大きな胸を揺らしながら現れた。


「あらぁ? ウリコ、魔術師はここにもいるのよぉ?」


「あ、あなたは――オルガさん!?」


「なにそのオーバーなリアクション。さっきも、ふつ~に厨房にジュースを取りに来て顔を合わせたじゃない……」


 ガイとカップルのお姉さん――オルガであった。

 既に“厨房の人”として忘れ去られている感じだが、彼女は(れっき)とした魔術師である。

 冒険者の中では、中の下といった感じだが。


「とにかく、この倉庫に氷魔法を撃って冷やしたいんでしょう? せっかくだから、あたしにも試させてよぉ~?」


「うーん、確かにエルムさんの帰りが遅くて暇ですが。むむぅ……。ま、いっか。テキトーにパパッとやってみちゃってください!」


「お姉さん、久々に魔術を使っちゃうわぁ」


 何も考えてない笑顔のウリコと、たまには良いところを見せようと張り切って、木製の杖を振りかざすオルガ。

 倉庫内に丁寧な呪文が響き渡る。

 シットリと歌うように紡がれ、力ある言葉が編み上げられ、魔術が発動した。


「――我放つ、“氷塊地走り(アイス・ウェーブ)”!」


 広い倉庫の床の中心に、ハリネズミのような形をした氷が疾走する。

 移動の最中に周囲に拡がり、地面を氷塊が浸食していく。

 しばらく進んだ後、それはピタリと止まる。


「どうかしらぁ? 少し時間が経てば、それなりに冷えてくると思うけどぉ」


「ほほぅ……なかなかやりますね、オルガさん――と思ったら、何かもう溶け始めていませんか?」


「あらぁ? やっぱり、あたしじゃダメねぇ」


 倉庫内の温度が下がってきたと思った矢先、魔術で作り上げた氷塊がポタポタとしずくを垂らし始めたのだ。

 これでは冷蔵倉庫としては長続きしない。


「オルガさんが数分に一回、氷魔術を使って冷やし続けるとか~……」


「あはは、むりぃ~」


「ですよね~」


 割とダメ元だったので、のほほんとする二人。

 そこに、あの男が走り込んできた。

 そう、二人の顔見知りである、あの男――。


「待たせたな! オレ様の出番か!」


「あ、あなたは――!?」


「そう、オレは――ゆ、床が滑って!? ちょ、待てよ!? 待てよー!?」


 暇だからノリで付き合ってリアクションをするウリコと、特に期待もされていない登場のガイ。

 ガイは溶け始めた氷魔術を踏んでしまい、足をツルッと取られて滑走。

 そのまま食材の木箱に突っ込んで爆散した。

 ウリコは遠い目をして敬礼。


「なにやってるんだ、お前ら……」


「あ、エルムさん!」


 後ろからフラッと本命のエルムが現れた。

 どうやら突然の雰囲気に付いていけないようで困惑しているようだ。


「ガイに聞いたらココだって言うから、一緒に来てみたら……。いきなりアイツが『オルガに良いところを見せてやるぜ!』とか熱く叫んで、考えもなしに走って行って……」


「あ~、なるほど。それでエルムさんと現れたワケですね。……人間、暇だとすっごい無意味な行動とかしたくなりますよね」


「ウリコが言うと妙に説得力あるな」


 完全放置されている気絶中のガイを横目に、溜め息を吐くエルム。

 指先から小さな火を出しながらも、倉庫内を観察していた。


「そういえばエルムさん、指から火が漏れ出てますよ? 超不審者ですよ?」


「これが魔法の修行なんだ。最初はきつかったが、そろそろ慣れてきた」


 強大な魔力を持つエルムにとって、小さな力を出し続けるというのは、例えるなら荒々しい滝を蛇口から捻ってコントロールするようなものである。

 それを平然とこなせるようになった今、修行の第一段階を終えたという事だ。

 ガラテアを修復するにはまだ足りないが、習熟度は常人の数百倍といったところだろう。


「……ということは、ここを冷蔵倉庫にするんですね! ついに! やっと! さぁ、地面に向かってババーンと極大氷魔法を撃っちゃってください! 最大出力(・・・・)で!」


「いや、最大出力で撃ったら村全体が永久凍土になるぞ。俺が何のためにコントロール重視の修行をしてきたのかと、小一時間ウリコに問い詰めたくなるのだが……」


 倉庫内、食料を保存するだけの範囲を冷やさなければならない。

 そのためには一定範囲だけを凍らせ続ける術式が必要だ。

 強力かつ限定範囲。


「後は床というのも、下手に触れてしまう可能性があって危ないな」


 いくらコントロールした極大魔法とは言え、直に踏んでしまうと色々と問題が出てしまうだろう。

 ついさっき、貴い犠牲によって判明した事実だ。


「……となると、あそこらへんがベストか」


 考えをまとめたエルムは、指揮者がタクトを振るように指を動かした。

 フッと消える炎。

 反対に揺り返すように指を振ると、今度は先端から氷の結晶がキラキラと現れた。


「わぁ、きれい……」


「お前の姿を借りるぞ、ブレイス――」


 エルムは氷の微細結晶を纏いながら“紫”モードにチェンジした。

 三角帽子を片手で押さえながら、フワリと短めのマントを宙に舞わせる。

 そして手には杖代わりの神槍。


()は希望を捨て、第九圏へと堕ち沈み、永久誘う処女の囁きを謳歌する神曲。

 至るべきは反転地球、堕天御座(おわ)す反逆陥穽(かんせい)

 四つの裏切刻み、老人像の涙を以て、ユダ噛み砕く悪魔王(ルチフェロ)の背へと突き進め――」


 エルムの中の魔力と魂が混合され、魔法の元素であるエーテルが精製されていく。

 その量は膨大、常人では絶対に手の届かない大海のような力。

 しかし、そこからがいつもと違っていた。

 詠唱によってエーテルの方向性が定められ、性質が固定され、まるで一個の生命体のように命令を遵守する魔法へと変貌していく。


血縁背信(カイーナ)祖国背信(アンテノーラ)賓客背信(トロメア)主従背信(ジュデッカ)

 ()の罪人に代祷を、言霊による封緘を、神による途絶の氷を!

 俺に力を寄越せ――“限定永続氷獄リミテッド・コキュートス”!」


 天井に向けて放たれた改変極大氷魔法。

 それを見たウリコが抗議の声を上げた。


「ちょ、ちょっとエルムさん! どこに撃ってるんですか! なんで真上に!?」


「いや、これでいいんだ。狙いは正確。さぁ、天井で均一に拡がれ」


 淡いライトブルーの光を放つ氷はパキパキと、まるで植物が根を張るかのように増殖していく。

 やがてそれは天井を埋め尽くしていった。


「冷気を落とすのなら高いところからの方が都合がいいし、下に配置すると危ないからな。転んだ誰かさんのおかげでよくわかった」


「なるほど……。そこまで考えて、天井に極大魔法を撃ち放ったんですね」


 深い考えに感心して頷くウリコ、横のオルガも同じ魔術師として目を丸くしていた。


「すごぉい……。極大魔法という強い力を、繊細にコントロールしているぅ……。あんなに均一に拡がって、永久凍土みたいに溶けない氷……。輝いてステキねぇ……」


 ついにはエルムの魔法にウットリし出したオルガ。

 ガイは気絶していてよかったかもしれない。


「やりましたねエルムさん! これで色々な食材を長期保存できます! 次はダンジョンお弁当作戦を進めて――」


「いや、まだ食材自体をどうやって手に入れるかを考えていない。さすがに村の自給自足だけでは無理なものもあるしな……」


 ボリス村はエルムの地形改善によって、様々な作物が信じられない速度と量を取れるようになってきていた。

 しかし、それでも広い世界に数多にある食材と比べればまだまだである。

 何か良い手はないか――と考えていると、倉庫の外が騒がしくなっていた。


「エルム辺境伯、エルム辺境伯は居られるかー!」


 それは以前やり取りをした、隣領のニジン伯爵からの早馬だった。

 次回、エルムは辺境伯として、隣のニジン伯爵領へと向かいます。


 ついにエルムは正式な辺境伯として認められるようです。

 ここまで結構かかりましたね。

 最初にエルムは王国から不遇の扱いをされて、バハさんから助言を受け、心が死んでしまう前にナムゥ大陸を脱出。

 ボロボロのフリーとなって辺境のボリス村に辿り着き、最初は村人とも距離感があったりしても、何だかんだの正直な性格と優しさで認められて村人として生活(普通には暮らせませんでしたが)。

 そこから様々な出会いや、助けなどをして村長となり、そしてついに辺境伯!


 昔の仲間であるブレイスとも再会して、魔法の扱いも一段階パワーアップしてやれる事も増えました。

 次はダンジョンの不味い携帯食問題を解決するために、大規模な食材調達が必要となります。

 エルムはどうやって(合法的な手段で)食材調達するのか、お楽しみに!

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『星渡りの傭兵は闘争を求める』



【書籍情報】
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『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
エルムたちの海でのバカンスや、可愛いひなワイバーン、勇者の隠された過去など7万字くらい大幅加筆修正されています。
二巻、発売中です。
ガンガンONLINEで連載中のコミカライズは、単行本四巻が10月12日発売です。
よろしくお願いします。
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