竜装騎士、またダンジョンのフロアを焼き尽くしてしまう
村にあるダンジョンの入り口フロア。
その一角に魔方陣が描かれた床があった。
「お兄さん、なんですかこれ?」
「ああ、これはダンジョンの各フロアに繋がっている転移装置だ」
エルム、勇者、マシューは慣れた様子で転移装置に乗り、ブレイスは恐る恐る尻尾を逆立てながら足を踏み入れた。
するとパーティーメンバー全員を光が包み込み――。
「にゃっ!?」
「……驚くと変な声が出るところは変わってないな、ブレイス」
――クリア済みのダンジョン十一階層に転移したのであった。
ブレイスはキョロキョロと辺りを見回して、本当に高度な転移を一瞬にして行ったと目を丸くしていた。
「そういえば、ブレイスは現代のダンジョンをあまり知らないのか。丁度良いからマシュー。復習の意味も込めて、ダンジョン知識を教えてやってくれ」
「あ、はい。わかりましたエルムのアニキ」
金髪の少年マシューは頼られたのに気分を良くしたのか満面の笑みだが、ブレイスはそれが気に入らず不機嫌になった。
「マシュー……って言いましたか、キミ。儂のお兄さんをアニキ呼ばわりとか、ありえないんですけど……?」
「むむ、僕が何と呼ぼうと勝手じゃないですか……! エルムのアニキは、エルムのアニキです!」
「ぐぬぬ……!」
「お前ら、若干キャラがかぶってるのな」
『どこがですか!!』
エルムのツッコミに、マシューとブレイスの声がかぶって聞こえてきた。
こんな時だけ気が合って……と呆れるしかない。
そこで一人、黙っていた勇者がやっと口を開いた。
「二人に取り合われてモテモテだな、エルム殿。よし、わたしはその隙にバハ殿をもらおう」
「勇者もそんな事を言ってないで二人を止めてくれ……」
初めてのパーティー組み合わせで、最初からかなり不安な展開だった。
エルムは喧嘩する仔犬と仔猫のような二人を引き剥がし、代わりにダンジョンの解説を始める事にした。
――まず、先ほどのようにダンジョンへの侵入は、初回以外は転移装置によって行う。クリア済みの階層を選択できる。
本来、転移というのはかなり高度なモノなのだが、ダンジョンに限っては密閉空間に充填された魔力や、転移場所固定されているために難度が下がる。装置自体も古代の高い技術力が注ぎ込まれているというのもある。
フロアに侵入人数制限がかかる場合があるため、パーティーは数人が好ましい。
突入後にカウントが開始され、再突入できるのは二十四時間後。
今のところフロアは狭く、日帰りダンジョンと呼ばれている程だ。
基本的に道中に雑魚、最後にボスを倒してクリアとなる。
次回からクリアパーティーは、次のフロアも転移装置で選択できる。
倒される頻度の低いフロアは敵が強くなり、アイテムドロップも高くなる。
これにより、初到達の最深フロアは非常にハイリスクハイリターンとなっているのだが、エルムが最初に吹き溜まり掃除を行うために気が付く者はいない。
五層ずつでフロアの様子が大きく変わる。
ダンジョン内のモンスターは本物ではなく、ダンジョンが記憶している実体ある投影物。
倒したらすぐに消滅してしまうため、皮を剥いだり肉を持ち帰ったりはできない。
代わりに魔石や、関連したアイテムをドロップする。
ダンジョン内で死亡しても、蘇生を補助する結界があるために比較的簡単に生き返れる。
「あとは噂だと、異界に繋がる門を見たとかもあるな」
「へ~、最近のダンジョンは色々あるんですね~。昔は呪われた魔術師が作ったダンジョンに数十日の遠征をしたりとかでしたね~」
「懐かしい……駆け出しの頃の話だな」
「それじゃあ、手早く終わらせちゃいますか~♪」
「そう、手早く一般パーティーと同じようなやり方で倒して攻略法を……って、おい、手早くってブレイスまさか――」
ブレイスはトネリコの杖を両手で掲げ、念じ、呪文によって魔法を構成し始めた。
「偉大なる大地の精霊よ。その果て無き御身によって矮小なる者共の器を計りたまえ――“大地疾走する母なる眼”!」
ブレイスが杖の先端を石床にコツンとぶつけると、命令付与されたエーテルが地中をソナーのように駆け巡った。
呪文によって大地の精霊の助けを借りた魔法は、フロア全てをモンスターごと把握してから戻ってきて、脳内に地図を表示した。
続けて地図上の赤い点――モンスターに向かって詠唱を開始した。
「荒々しい雷の精霊よ。その煌めく御身によって鈍重なる者共の器を穿ちたまえ――」
「おい、ブレイスちょっと待つん――」
「“贄の避雷針達へと向かう迅雷”!」
フロアの入り口から、奥に向かって細長い電が複数放たれた。
それは壁を器用に曲がり、目に見えない位置にいるモンスターたちを次々と貫いていく。
「お兄さん、やったよ!」
ドヤ顔で猫耳をピコピコ動かすブレイスだったが、エルムは呆れ顔をしていた。
「あのなぁ、俺達は普通のパーティーでもできる攻略法を作るのが目的なんだ」
「瀕死でスタン状態にしてるけどダメ~?」
「ダメだ、そんな事は普通できない……! ……はぁ、仕方がない。明日また来よう。詠唱破棄――“煉獄”!」
エルムは説教をしながら、片手間に炎極大魔法を放ち、フロアのモンスターを消し炭にした。
その二人の規格外のやり取りを遠い目で見つめるマシューと勇者。
「なんなんでしょう、あの二人」
「そうか、マシューはまだエルム殿の強さをあまり見ていなかったな。じきに慣れる」
「いや、極大魔法に慣れるのは無理だと思いますよ、勇者のアネキ……」