竜装騎士、忠義の魔法使いを思い出す
「ふぅ。十一階層のボスも何度か討伐を繰り返して、攻略法も安定してきたな」
「うむ。それもこれもエルム殿の魔術によるサポートのおかげだ」
「僕と、勇者のアネキが全力を出せるようにしてくれて、いつもありがとうございます! エルムのアニキ!」
ダンジョン十一階層のボスを倒したエルム、勇者、マシューの三人。
ケガを魔術で回復させながら、何気ない雑談をしていた。
「そういえば、エルム殿の魔術はどこで教わったのだ? 何やら普通のものとは違うような……」
ジッと見詰める勇者に、“紫”モードのエルムは気軽に答えた。
「ブレイス・バート流ってところだな」
「ぶ、ブレイス・バート!? 人類史の中でも五指に入る魔術師! ――いや、魔法使いではないか!?」
表情を固まらせてエルムは、しまったな~と内心思った。
ブレイス・バートは六百年前のエルムの仲間だ。
当時でもトップクラスの魔法使いだったので、後生に名が残っていてもおかしくない。
エルム自身は、現代の魔術分野に興味がないのでやらかしてしまった。
「まさかブレイス・バートの魔術が受け継がれていたとは……。魔導書からの知識だろうか? それとも子孫などが密かに生きていて、エルム殿の師として?」
「そ、そんなところだな」
直接本人から教わっていたとは言えない。
上手く勘違いしてくれて助かった。
勇者だけではなく、マシューもキラキラと眼を輝かせているのが心にチクチクくる。
「……といっても、俺は優等生じゃなかった。魔術は苦手だから、ブレイス・バートの名を出すって程でもないさ」
「いやいや。エルム殿の魔術は、普通の人間を遙かに凌駕しているぞ……?」
「魔力量で誤魔化してるだけさ。本当のブレイス・バートの魔術――いや、魔法は絹糸で布を織るかのように繊細で、美しくて、多様性に満ちている」
エルムはそれを間近で見てしまっていたために、自らの不出来な魔法と比べて、苦手意識が生まれてしまったのだ。
「……もし、エルム殿と、六百年前のブレイス・バートが戦ったら、どちらが勝つのだろうな」
「六百年……か、無理な話だな。ブレイス・バートの種族は猫獣人、寿命的に生きているはずもない」
エルムは、自分の知る中では一番魔法の扱いが上手いブレイスを懐かしみ、浸っていた。
エルム、ハンス、ブレイス、バハムート十三世など七人の……いや、六人と一匹の懐かしい旅を。遙か遠き日々を。
――そして彼に最後に言いたかった言葉を。





