竜装騎士、副官に初任務を与えてしまう
副官は皿洗いに向かおうとしたのだが、エルムが何やら準備を始めている事に気が付いた。
「おや? エルムさん、どこかに出かけるのでしょうか?」
「ああ、これは村のダンジョンに潜るための支度をしているんだ。一日に一層しか進めない仕組みでな」
「なるほど、面白いダンジョンですね」
エルムは村に来る冒険者のために、ダンジョンの攻略法を練っていた。
しかし、ここ数日は帝都にいたために進捗がゼロだ。
その遅れを取り戻すために、戻ってきてすぐにでもダンジョンに入りたいのだ。
ちなみに一日一回となる基準は、日付変更時ではなく、ダンジョンに入った瞬間からカウントされる。これも今すぐにでもダンジョン攻略を進めたい理由の一つである。
「ちょっと勇者、マシューと一緒に行ってくるよ。今のダンジョンの法則的に、数時間で帰ってくると思う」
ダンジョンの内部は五層、十層といったキリの良い数字で内部の様子が大きく変わる事が多い。今、エルムが進んでいるのは十一層なので、大体の攻略難度がわかるのだ。
「おーい、ウリコー! ちょっとマシューを借りていくぞー!」
「オッケーです! 私じゃ無理な武器関係は、また戻ってからマシュー君にお願いします!」
エルムは少し大きな声で武器防具屋のある方へと問い掛け、ウリコの元気な返事が返ってきた。
酒場と、武器防具屋のスペースが隣り合っているので、こういう場合は便利である。
「さてと、何の問題もないみたいだな! 久々にダンジョンに出っぱ――」
その時、村人が酒場に飛び込んできた。
慌てた表情で、よっぽど急いでいたようだ。
「た、大変だ! 隣領の伯爵様がやってきただ!!」
「……えぇ。今からダンジョンに潜るところだったのに。時間を遅らせたくないなぁ。伯爵は何の目的で来たんだろう?」
「あ! エルムさん、丁度良かっただ! どうやら伯爵様は、村の査察に訪れたようなんですよ! 誰かに案内させろと仰っただべ!」
「うーん……。査察か~。別に普通の村だと思うし、見て驚いたり困るようなモノもないし平気かな。案内は~……、誰か俺以外で対応してくれる奴がいればな~……」
エルムは、この村の主要な人物を思い浮かべた。
ショーグン、ああ見えても血気盛んなので少し怖い。
ジ・オーバー、賢い子なのだが幼女である。
オルガ、伯爵を誘惑しそう。
ガイ、無理。
ウリコ、絶対無理。
「……となると、元村長辺りか~。ご老体にムチを打つ事になってしまうし、気が引けるな……。しょうがない、やっぱり俺がダンジョン探索を中止にして――」
「お待ちください、エルムさん」
そこにスッと、手のひらに泡を付けたままの副官がやってきた。
メガネを指でクイッとしようとしたのだが、泡の存在に気が付き、上手く手首の部分でクイッと。
「どんだけメガネをクイッとしたいんだ」
「村の案内は、ワタクシにお任せください。必ずや、御役に立って見せましょう」
「おぉ!? 副官! 助かる! どこにでもある普通の村だから安心だと思うけど、一応メモを書いておくよ。困った時に読んでくれ」
まるで子供の使い、なんて簡単な任務だ――と勝利を確信した副官。
しかし副官は忘れていた。
酒場に来る道のりだけでも、このボリス村はおかしいモノだらけだったという事に。





