竜装騎士、グレーターデーモンな執事を連れ帰る
エルムは帝都で起きた事件の後、『――さぁ、俺たちの村に帰ろうか!』とノリと勢いで帰還しようとしたのだが、勇者を乗せ忘れていることに気が付いた。
それに本題であった、ボリス村周辺の領主代理の手続きもしていない。
コッソリと帝都に戻って、一通りの仕事をしてから村に帰ってきた。
途中、仕事にあぶれていた“ある魔族”もプラスで――。
「はぁ~……。やっとボリス村に帰ってこられた。ペンを振るうより、槍をぶん回す方がよっぽど楽だ……」
「ふふ。エルム殿、お疲れ様です」
村の入り口の前で、大きな姿になっているバハムート十三世から三名の人物が降りてきた。
首をコキコキ鳴らしながら疲れ顔のエルム、帝都を救えた事に満足で嬉しそうな勇者、それと……謎の執事服を着た灰色の髪で赤い眼の男性。
「驚きましたね……。ワタクシたちが村を破壊し尽くしたはずなのに、もうこんなに復興している。帝都より建築技術が優れているのでは……!?」
「ああ、そういえばお前はアレを指揮していたんだったな」
「あの時は誠に申し訳ありませんでした。深く、深く謝罪するばかりでございます」
執事服の男性は、優雅に手を舞わせるように一礼。
エルムは、それを胡散臭そうに眺める。
「お前、そんなキャラだったか?」
「いいえ、いいえ。今のワタクシは、あくまで執事ですから」
「あ、コイツ。メガネをかけた。チャキッとかけて、クイッとやったぞ」
執事服の男性は、それはもう執事然とした格好と立ち振る舞いを演じていた。
元々、ある役職を補佐する立場であったので、適応が早いのかも知れない。
――と、そこへ白銀の竜の着陸を見たのか、ウリコが宿屋方面から走ってきた。
「エルムさぁーん! ぶべッ!?」
一回、石に躓いて転びながら走ってきた。
相変わらず、どこか抜けている性格なようだ。
「いたた……。あ、お帰りなさい。エルムさん! 勇者さん! 先日、海岸で珍しいモノを拾って倉庫に……って、あれれ? もう一人はどなた様でしょうか?」
「――初めましてお嬢様。おや、お美しい顔に泥が付いていますよ。村の、いえ、国が誇るべき至極の宝石が台無しでございます」
執事服の男性はウリコの耳元で甘く囁いた後、ハンカチを取りだして顔を拭ってあげていた。
耳まで真っ赤になるウリコ。
「な、ななななな何ですかこのイケメンメガネ執事さんは!?」
「都会でスカウトしてきた。宿屋の人員に」
「と、都会すっごぉーい!? こんな歯の浮くようなセリフ、ラブロマンスな本でしか聞いた事がありませんでしたよ!? 乙女力がギュンギュンぢまず! 鼻血が出そ……」
動転したウリコは、もはやなんだかわからない言葉を発していた。
エルムはスルーすることにした。
そのままウリコを置いて、宿屋に向かう。
途中、執事服の男性は、こそっとエルムに話しかける。
「どうですか、エルムさん。オレが身につけた処世術ゥ!」
「よくわからんが、ウリコに対しては効果てきめん……らしい」
「いや~、無職が長かったんで、世知辛い人間社会に揉まれて、おべっかを使えるように頑張ったんすよぉ! 魔王城より怖い。人間社会マジ怖かったっすよ」
ククク、と小悪魔のような笑みを浮かべる執事服の男性であった。
* * * * * * * *
防具屋兼、宿屋兼、酒場という複合施設のようになってきていた店の中には、メイド服を着たジ・オーバーがマジメに働いていた。
どうやら雇い主のウリコより優秀すぎる幼女らしい。
「いらっしゃいませなのじゃ――。あ! エルムだ! おかえりなのだ!」
「ただいま、ジ・オーバー。約束通り、帝都からお土産を持ってきたぞ」
「覚えてくれてたのか! 嬉しいのである!」
ジ・オーバーはワクワクした顔で、エルムが何かを差し出すのを待った。
しかし、エルムは動かない。
代わりに後ろから、あの執事服の男性がひょっこりと顔を見せた。
「お久しぶりです。ジ・オーバー様」
「お、お主のその魔力……まさか! 人間に化けた副官か!?」
「はい、その通りです」
ジ・オーバーは涙ぐみながら、再会を喜んでピョンと跳びはね、嬉しそうに抱きついた。
長年やってきた魔王と副官の関係は、家族のように深かったようだ。





