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伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~  作者: タック
第六章 帝都暗殺計画

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皇帝、暗殺のパレード

※皇帝視点

 帝都挙げての賑やかな皇帝の生誕パレードが始まっていた。

 帝国軍音楽隊の演奏が鳴り響き、大勢の騎士達が練り歩く。

 そのメインストリートの周りには、民衆が今か今かと待ちわびていた。


 帝国の象徴であり、最強の存在──皇帝シャルマ・ジーオ。

 男性は孤高の強さに憧れ、女性は氷のような冷たい目で見下されると熱を帯びたため息を漏らす。


 彼の乗る二輪戦車(チャリオット)が登場すると、ワァッと民衆が沸き上がった。

 ミスリルとゴールドで彩られた華美な二輪戦車で脚を組みながら座し、つまらなさそうにほおづえを突いている皇帝シャルマ。

 その態度、傲岸不遜(ごうがんふそん)

 だが、それが至高の存在、皇帝というものである。

 民草が頂点と認め、全てを任せても安心と思える最強の存在。

 そこに親しみや、共感は必要ない。

 ただあるのは皇帝という最高位の立場。


 それが今までの生誕パレードだったのだが──。


 皇帝シャルマは憮然とした表情ながらも、片手を天に伸ばした。

 民衆たちは、どよめいた。


「こ、皇帝陛下が動いたぞ!?」


「お手を上に……!? 何が起こるんだ!?」


 一見オーバーに見える民衆の反応も、今までの長き歴史から見れば当然なのである。

 皇帝が民衆の前で、無駄な行動をすることなどありえなかった。


「あ、アレは!?」


 皇帝が手を振った。

 苦虫を噛み潰したような引きつった表情だが、皇帝シャルマが手を振ったのだ。

 民衆たちは驚愕した。

 周りを囲む騎士達もざわつき、音楽隊の演奏も一瞬止まった。

 全員の視線が皇帝に向けられる。


「……チッ」


 皇帝は舌打ちをして、バツの悪そうな表情で手を振るのを止めた。

 そのまま何事も無かったかのように、パレードは再開されたのであった。

 シャルマの元に駆け寄ってくる、親衛隊の騎士デイム。


「陛下、お耳に入れたいことがあります……」


「なんだ、デイム? 余は……にこやかに手を振ることも許されぬのか?」


「い、いえ、そのことではなく……どうやら帝都の北。

 ……ここからまだ遠くですが騒ぎがあったようなのです」


 皇帝はアクシデントだというのに、ニヤリと犬歯を見せた。


「ほう……丁度、退屈していたところだ。余興として楽しめそうだな」


「避難なされた方が──」


「余が背を向ける? 意味のわからぬことを言うのだな。

 それに──」


 皇帝は北の空を見つめていた。


「ククク……嬉しい事に、もう拝謁でもしにきてくれたというのか」


 視線の先には、空飛ぶ巨岩があった。

 それは羽ばたき、ただの岩ではないというのを周囲に知らしめていた。

 殺意を込めた目でギョロリと睨み付けている。

 ──巨大な災害級モンスターだ。


「う、うわぁ!? なんだアレは!? こっちに向かってくるぞ!」


「陛下! お逃げ下さい!」


 民衆や騎士たちが慌てふためく中、皇帝シャルマだけは堂々と構えていた。

 むしろ退屈ではなくなり、生き生きしている。


「民草と非戦闘員は下がらせろ。

 親衛隊の魔術師は余の援護、残りの騎士は民草の守りに当てろ」


「陛下!? まさか戦う気ですか!?」


「当たり前だ。

 平和ボケで忘れているかもしれぬが、皇帝というのは政治のためにいるのではない。

 名も無き救世主と縁を結び、連綿と続く帝国最強としての兵器血族(エンペラー)だ」 


 代々、皇帝の家系は嫡男が不思議な力を受け継ぐ。

 人外とも言える怪力と耐久力。

 その特性で帝国を守護していたのだが、比較的平和になった世界では知るものは少なくなっていたのだ。


「余が負けるとき、それは皇帝の座を降りるときよ」


 皇帝は立て掛けてあった、巨大な剣を掴み取った。

 両手でしか扱えないような鉄塊を、軽々と片手で持ち上げ、鞘を振り捨てる。


 それに合わせてか、皇帝の頭上にまで来ていた巨大な災害級モンスターが視線を向けてきた。

 騎士たちは恐れおののいた。

 それが何か知っていたのだ。


「あ、あれは……まさか、岩を食らって生息しているという石凶鳥ガーゴイル!?

 そんなバカな……なぜこの地域にいるんだ……!!」


 ガーゴイル。

 分厚い岩の肌を持つ巨大な怪鳥。

 その空飛ぶ素早い動きと、硬い皮膚で冒険者のパーティー程度では対処できないと言われている。

 軍隊でどうにかしようとしても、ある程度ダメージを与えると空に逃げられてしまうために、討伐が非常に難しいモンスターだ。

 そのために災害級モンスターとして認定されている。


「う、うわぁーッ!?」


 さっそく、逃げ遅れた騎士の一人が急降下してきたガーゴイルに一飲みにされてしまった。

 近くで見ると遠近感が狂うような大きさの石の鳥だ。

 そしてまた一瞬で羽ばたき、空へと舞い戻っていった。


「なるほどな。これは厄介な相手だ。

 ──余を怖がって、最初からはこちらを狙わないと見える」


 皇帝は根拠無しに自信満々で言い放った。

 皇帝からしたら世界は自らのために存在している。

 自信に満ち溢れていて当然なのだ。

 そして──それに見合った実力がある。


「親衛隊魔術師、ガーゴイルを魔術で拘束して引きずり下ろせ。

 地面に這いつくばらせるのは1秒でいい」


「ハッ、皇帝陛下の仰せのままに!」


 控えていた魔術師たちが、杖を振りかざす。

 数十もの拘束用の魔力の縄が、空中のガーゴイルに絡みついていく。

 バランスを崩したガーゴイルは地面に激突。

 だが、そのくらいのダメージでは無意味。

 鋭い足の爪を地面に突き立て、逆に拘束している魔術師を軽々と引っ張ろうとしていた。


「よくやった、褒めて遣わす。

 あとは──皇帝である余の仕事だ!」


 皇帝シャルマは戦車から物凄い速度で飛び降り、そのままガーゴイルに向かって剣を一閃。

 ガーゴイルの背後にスタッと着地。

 振り返らず、スタスタと仕事を終えて歩いて行く。


「切れ味は鈍っていないようだな──斬鉄剣」


 使い慣れた相棒の剣。鉄をも切り裂く魔剣に呼びかけながら、フッと笑った。

 ガーゴイルはキレイに真っ二つ、ズシンと巨体を沈ませていたのであった。


 それと同時に皇帝は思い出していた。

 唯一、自らよりも強いかも知れない、計ることの出来ない存在を。

 心優しき青年、初めて出来た友──エルム。

 彼なら災害級モンスターと、どう戦っただろうか。

 いや、村に行く約束をしたのだから、そのときに聞けばいいのだ。

 これも良い土産話になる。

 いくらでも、何でも話せる大切な友エルム。

 そう表情を緩ませていた皇帝。


「陛下、ご無事ですか?」


 親衛隊の騎士デイムが駆け寄ってきた。


「ああ、災害級モンスターなど恐るるに足りん」


「そうですか──ですが陛下──」


 デイムはニヤッと笑いながら、その手に隠し持つのは鋭い短剣。


「それでデイム、民草の避難誘導は──ぐっ!?」


「一番怖いのは人間ではないでしょうか?」


 デイムの短剣は、皇帝シャルマの身体に突き刺さっていた。

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