竜装騎士、救世主として銅像を建てられていた
「も~、ボクの顔面にぶっかけるとか勘弁してよね~……」
「面目ない……バハ殿……」
帝都に到着したエルムたち。
そこは石造りの二階建て住居が整然と並び、大きな劇場までもそびえ立っているのが見える。
ガッシリとした街並み自体が帝国の強さを象徴するような印象なのだが、噴水や植えられた緑で華やかさも演出している。見事に設計された都だ。
その大通りを歩くのは、目立たないように人間少女の姿に変身しているバハムート十三世と、移動中のできごとを平謝りする勇者。
それとエルムなのだが、頭をかきながら相棒に注意をした。
「いや、バハさん。
俺以外の人間は、あそこまで曲芸飛行をしたら酔って吐いてしまうぞ」
「えぇ~、人間って貧弱だなぁ」
白いツインテールの褐色少女は、悪びれもせずにぼやく。
本当はエルムが取られてしまいそうになったので咄嗟に曲芸飛行で妨害したのだが、勇者が吐いてしまって、それが奇跡的な飛行ルートで顔面に吐瀉物を直撃させたのである。
「いえ……わたしの修行が足りず……勇者として情けないです……。
すみませんでした、バハ殿……」
「ふっふーん! わかれば、まぁ許してあげよう!
ボクは心がとても広いからね!」
そう言いつつ褐色少女は、エルムを独占すべく強引に腕を組んで、その大きな胸を押し当てるように密着していた。
エルムは迷惑そうな表情。
「バハさん、近すぎて動きにくい」
「え~!? 普段の姿なら全裸で密着してるのに!」
「なんか誤解されそうな言い方……。
いや、そうじゃなくて、子竜ならサイズが小さくて、肩に乗るくらいだし」
「う~、やっぱり人間の姿は不便だなぁ……」
バハムート十三世は、少女の表情で可愛く落ち込んでしまった。
勇者はそれを見て、自分にも非があると感じて、なにか褒めたりして励ませないかと考えた。
「え、ええと、バハ殿! 外連味のある服を着ていますね!」
「あ~、これ? 王国の方にあった学校の学生服ってやつだよ」
背の小さい褐色少女の身を包むのはブレザータイプの学生服だった。
下半身は白いソックスに、チェック柄のスカート。
上半身はパリッとしたブラウスの上から灰色のブレザーを重ね着している。
「とてもバハ殿に似合っていて可愛いです」
「へぇ、お堅い人間っぽく見えたけど、勇者も女の子なんだね。
いいでしょ~、可愛いでしょ~。
エルムもどうどう? 宇宙一可愛いボクを見てしまった感想は?」
話を振られたエルムは真顔で一言。
「布の服より、鎧の方が強そうじゃないか?」
「……昔っからエルムってそうだよね~。わかっていたけどさぁ~……」
エルムは意味がわからず、首をかしげるだけだった。
一行はそのまま大通りを進むと、大きな広場に出る。
その中央には立派な銅像が建っていた。
「大きな銅像だな~。さぞ有名な人物のなんだろうな」
エルムが見上げる銅像。
重厚な鎧を着て、ヒゲを生やして威厳タップリの中年男性の姿だ。
横には、やたら鋭い目付きで牙をむくドラゴン。
「その通りだ、エルム殿。アレは数百年前の偉大なる救世主の銅像だ」
「へ~、すごい奴もいたもんだな~」
「六人の魔王と、戯れに放たれた災害級モンスター。
それらによって人類は絶滅寸前だった……と歴史にあるのだ。
この名も無き救世主がいなかったら、世界は滅びていただろう」
ふむふむと頷くエルムに、バハムート十三世がコッソリと耳打ちしてきた。
「……ねぇ、エルム。もしかして、あの銅像って昔のエルムじゃ?」
「いやいや、俺は外見ずっと若いままだし。ヒゲだって伸ばしたことはない。
それに横にいる竜だって、バハさんと違って目付き悪くない?」
「たしかにエルムは数百年間も不老不死の青年のままで、この銅像とは違いすぎるけど……。
人間種族の記憶ってテキトーだからね~……」
二人のコソコソしたやり取りを疑問に感じて、勇者が覗き込んできた。
「お二人、どうしましたか?」
「い、いや! なんでもないよ!」
「そうですか? ならいいのですが。
──ということで皇帝の血筋も、救世主の関係者だったらしく、竜への敬意を持ち続けているのです」
「なるほど~、勉強になるな~」
「ぼ、ボクもこの竜を見習わなきゃな~」
世界を救ったのはエルムしかいないと知っていたため、完全に勘違いされた過去イメージ銅像だと気が付いたバハムート十三世。
顔を引きつらせながら、とりあえずの相づちを打つ。
それに眼を光らせる勇者。
「いえ! バハ殿はそのままでも素晴らしい竜です!
現存する上位の竜というだけで、それはもう素敵なことです!」
「あれ? 勇者、キミって竜が好きなの?」
「はっ!? い、いえ、そんなことはないです。一般的にバハ殿が好きなだけです」
急に照れ出す勇者。
それを見てエルムがポツリと呟く。
「なるほど、バハさんの女の子の姿が好きなのか」
「えぇ~……。ボク、エルム以外にはそういう興味ないよ~……」
どん引きするバハムート十三世。
勇者はエルムに冷たい目線を向けた。
「エルム殿、そういう誤解を招くような言い方はやめろ、やめるんだ」
「あ、はい」
気圧されるエルム。
勇者は普段からバハムート十三世に対しては敬語だったな、と思い出した。
そこをいじると静かに怒ると知って、触れてはいけない聖域のようなものを感じたのであった。
まるでさっき話していた皇帝の血族のように──。
「でも、わたしもバハ殿と腕を組んでいいだろうか!?」
「あ、はい」
やはり、ただの可愛いもの好きかもしれない。
バハさんの人間男性バージョンの今回の話もオマケで作ろうと思ったのですが、ただでさえ毎日連載がギリギリなので断念……!
黒髪、色白、長身執事の格好のバハさん(♂)が、今回のシーンで入れ替わりになって……というのを。
うん、色々とやばいな!





