低ランク冒険者たち、Fランクの竜装騎士をパーティーに入れてしまう
ボリス村に冒険者パーティー第一号がやってきた。
Dランク聖騎士のガイ、Dランク女魔術師のオルガ、Fランク戦士のマシュー。
三人は村に到着するなり、のどかさに驚いていた。
リーダーの聖騎士ガイが、重鎧をカチャカチャ震わせながら怒りの声をあげた。
「おいおいおい、なんだこの村は。Sランク防具がドロップするダンジョンがあるって聞いてきたのに、ただの田舎くせぇ辺境村じゃねーかよ!」
それに同意する女魔術師オルガは、ローブに包まれた大きな胸をプルプル揺らしながら頷いた。
「そーねぇ。そんなすごいダンジョンなら、今まで知られてなかったのもおかしいし……。やっぱ騙されたんじゃないのぉ?」
「くそっ、おいマシュー! てめぇのせいだぞ!
実家と取引していた、信用できる商人からの情報とかホラ吹きやがってよぉ!!」
ガイとオルガの目が、一人の気弱そうな少年に向けられた。
彼はマシュー。
短い金髪で、チェーンメイルを装備した、まだあどけない13歳。
小さな身体をビクリと萎縮させながら、謝罪の言葉を絞り出す。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!
でも、あの商人さんは嘘を吐くような人じゃないし、持っていたSランク武器も素晴らしくて……」
「あぁ!? 黙れ、口答えするな!
テメェみてぇなFランクのザコを入れてやってるだけ感謝しろボケッ!!」
聖騎士ガイの平手打ちが、マシューの顔面に当たった。
マシューはヨタヨタとよろけるが、声をあげずに我慢した。
これは特別なことではない。
普段からこうなのだ。
マシューは、逃げずに踏ん張り続ければ、きっとわかり合えるという人の善性を信じていた。
「もー、ガイ~。マシューなんて叩いても時間の無駄よ。疲れたし、さっさと宿屋でも探しましょうよぉ」
「おぉ、そうだな。オルガ。宿屋でしっぽりと……」
「はいはい。とりあえず、ご飯も食べたい~。
こんな田舎でも食べ物くらいはマシなのがあるでしょ」
パーティーは、村の唯一の宿屋であるウリコの店へと向かったのであった。
ウリコの酒場──。
部屋を取って、テーブルに座る三人。
なぜか神妙な顔で、口数が減っていた。
「……なぁ、オレの見間違いかもしれないが、畑仕事してるゴーレムがいなかったか?」
「アタシもそれ気になってた……。
しかも、村人の中にやたら高そうな装備を持ってる奴らも……」
この村の異様さに少しずつ気が付いてきたのだ。
内心、もしかしたら本当に、とてつもないダンジョンがあるのでは……と考える程に。
しかし、マシューへの謝罪はしない。
本人たちは、殴るのも別に悪い事ではない、むしろ愛のムチに感謝しろとか思っているのである。
古典的なクズ人間。
「お、ダンジョンの攻略法とか書いてある張り紙があるぜ? うさんくせぇなぁ」
ガイは掲示板に貼られていたエルム式攻略法を発見するも、疑いを持っていた。
普通、飯の種となるようなダンジョン攻略情報なんて、ライバルである冒険者に無料で開示したりしないからだ。
情報屋から買うか、ギルドで共有するものである。
だが、署名に気が付いた。
「……げっ、勇者がこれを作ったって本当かよ!? すげぇな……」
本当はエルムが作成したのだが、冒険者へのネームバリューが強いのは勇者なので署名をしてもらったのだ。
エルムの名前は隠してある。
「こ、こりゃSランク装備のお宝は、本当に本当かもしれないぜ……へへ……。
どうやらお荷物Fランク戦士がいて、いまいち活躍できなかったこのパーティーにも、やっと運が回ってきたらしいぜ」
「でもぉ~、ヒーラーいなくて大丈夫? アタシ、攻撃魔術しか使う気ないしぃ」
このパーティーはバランスが悪い。
盾役である聖騎士のガイ、遠距離アタッカーである女魔術師のオルガ、近距離アタッカーである戦士のマシュー。
実はオルガは回復魔術が使えず、回復手段がないのだ。
短期戦ならともかく、ダンジョンの1階層はそれなりに複数回の戦闘が行われるため、ヒーラーか回復薬の類を仕入れなければいけない。
「そうだな……ヒーラーでもパーティーに誘いたいところだが……。
どこかに手っ取り早く、外見でヒーラーとわかる奴がいれば──お!?」
ガイの目に、ひとりの人物が映った。
金属杖のようなものを持つ、紫色の法衣を着た男。
「あら、イケメン」
「おい、オルガ……。チッ、まぁいい。
アイツをパーティーに誘ってみるか。
おい! おい! そこのお前!」
ガイの声に反応した法衣の男。
「俺か?」
「ったく、お前以外にいるかよ。察しろよ。
でさぁ、オレたちのパーティーに入れてやるよ?」
「パーティー……? ああ、そうか。冒険者がきたのか」
「ん? 後衛職のテメェも冒険者だろう?」
法衣の男は、少しだけ考えたような仕草をしたあとに、にっこりと柔和な笑みを見せた。
「うん、まだこっちの大陸に出てきたばかりでね。Fランクだと思う」
「かーっ、Fランクかよー。ハズレか~!
こっちは新進気鋭のDランク二人と、お荷物のFランク戦士のパーティーだ。
で……回復魔術は使えるのか? 初級のヒーリングくらいはいけるよな?」
「大丈夫だ、問題なく使える」
「じゃあ、それだけでいいから、オレたちのパーティーに入れよ。
寄生で美味しい思いをさせてやるからさぁ?」
「そうだな、とても興味がある。
俺は竜装騎士のエルムだ。
よろこんでパーティーに入れさせてもらおう」
「竜装騎士? 聞いたことのない職だな?
ま、いっか。回復役なんて脇役だ、それなりに空気としてがんばってくれればいいぜ」
法衣の男──エルムは、ガイたちのパーティーに加入した。
ガイとオルガは気が付いていなかったのだが、帝都にある老舗武器屋の息子であるマシューだけは感じ取っていた。
その手に握られているのはただの杖ではなく、人間業では作れないような槍だと。





