竜装騎士、作った攻略法で村人を兼業冒険者にしてしまう
エルムが農作業用ゴーレムを修理してから、村人たちの生活は楽になった。
細かい作業はまだまだだが、力仕事や単純な長時間労働はゴーレムに任せられる。
村人たちはエルムに感謝しつつ、余暇を過ごしている。
それを見てエルムは、みんなの幸せを微笑みながら眺めていた。
「最近は、みんな楽しそうにしているな。
何かおもしろい本とか、ゲーム盤でも流行っているのだろうか?」
「あれ? エルム、知らないの?」
エルムの肩に乗っているバハムート十三世。
最近では村のみんなも慣れたのか、外に出てもペットか何かの認識で持てはやされている。
「ん? なにか知っているのかバハさん」
「村のみんなは兼業で冒険者をやっているんだよ」
「……は?」
「ほら、エルムが作った攻略法を書いた紙、酒場に貼り付けておいたでしょ?」
エルムは思い出していた。
勇者と共にダンジョンに潜って、各階層の攻略法をまとめた羊皮紙のことを。
まだ浅い階層のしかないが、それを酒場に張り出して、冒険者を呼び込む準備を進めていたのだ。
「貼り付けておいたけど……。
いや、でも冒険者なんてきついことを村人たちができるなんて……」
信じられないといった表情のエルムの前に、三人のパーティーが通りかかった。
アタッカーのショーグン、シーフの道具屋、盾職の元村長。
「……は?」
「おぉ、小僧か。どうしたんだ。拙者たちをそんな驚いた目で見て。
今からダンジョンに潜るところだというのに」
「だ、ダンジョン? その三人で?」
「元村長が敵を引きつけ、道具屋が行動を妨害、そして拙者が刀でズンバラリンと斬る!
完璧なコンビネーションではないか?」
「……いや、なんか聞いてるといけそうな雰囲気があるけど、ショーグン以外は戦闘ができそうには……」
というところでエルムはハッと気が付いた。
彼らが何を装備しているか。
「ま、まさか……Sランク装備!?」
「くくく、その通り! ウリコがレンタルをしてくれてな。
村人たちは装備パワーでごり押しして、余暇で冒険者をやっているのだ!」
エルムは右を見た。
そこには切り株に座って雑談をしている農夫たち。
腕にはパワーガントレット、首にはハヤブサのスカーフ。
エルムは左を見た。
井戸端会議をしている奥さんたち。
子供と手を繋いでいるかと思ったら、子供サイズのクリスタル棍棒。
「え? え? なにこれ……」
「いや~、エルム様々ですな! あの攻略法のまとめ方は素晴らしい!
では、村長の仕事もなくなったので、暇つぶしとしてダンジョンのミノタウロスの攻撃を受けてきますじゃ!」
元村長は年甲斐もなく赤ら顔で興奮しつつ、エルムに手を振って走って行った。
ショーグンと道具屋も、その後を追ってダンジョンへと吸い込まれていく。
「えぇ~……」
残されたエルムとバハムート十三世。
「まぁ、ここに住んでいた村人が、この場所にあるダンジョン装備とも相性がいいというのもあるかもね。
中の結界で蘇生も容易だし、平気なんじゃないかな、エルム」
「そ、そうかもしれないけど……。なんか、すごい光景だな」
取れすぎるSランク装備によって、総冒険者状態。
収穫の忙しい時期になれば落ちつくかもしれないが、かなり異様な光景だ。
「それにしてもウリコは大胆なことをするな。
Sランク装備をレンタルか……。
持ち逃げとかを考えていないところが、田舎らしいというか、何というか……」
「田舎は狭いから、持ち逃げしたら村八分か、さっきのクリスタル棍棒でミンチにされて埋められるからね」
「あ、なんか今ダークなことを言わなかったか、バハさん」
「気のせいだよ、エルム。
……ふぁ~あ……ウリコのところでお昼寝でもしようかな~……」
誤魔化しているのか、本当に眠いのかバハムート十三世はアクビを一つ。
「そのウリコなら、今日は防具屋を休みにすると言っていたぞ」
「へ~、防具屋を休みにするなんて珍しいね。具合でも悪いのかな?」
「そうかもしれないな。あとでお見舞いにでもいこうか」
そんなのんびりとしたやり取りで、ダンジョンの前を通り過ぎようとする二人。
──バッタリと出会った。
「あ、エルムさんじゃないですか」
「う、ウリコ……待つのである。我、もうさすがに疲れたのである……」
ツヤツヤした表情のウリコと、その後ろで倒れそうになっている幼女メイドのジ・オーバー。
今、ダンジョンから出てきたのだ。
全身、Sランク装備に身を固めながら。
「お前もか、ウリコ……!」
「いやー、エルムさん様々ですね! お休みの日の楽しみが増えました!」
エルムと勇者が作ったダンジョン攻略法は、村人にアトラクション感覚で大好評。
結果的に、初心者の冒険者が来ても平気という証明にもなったのだ。





