竜装騎士、カッコイイ戦闘用ゴーレムを作って男性陣と盛り上がる
エルムは“緑の創作業着クラフトモード”にチェンジして、壊されてしまった畑仕事用ゴーレムを修復し終えた。
そのとき、ふと思いついた。
「また今度なにかあると大変だから、戦える隊長ゴーレムでも作っておくべきか……?」
畑仕事用のゴーレムは、農作業をするためにリソースを割いており、同時に戦闘用とするにはSランクモンスターの魔石では性能が足りないのだ。
そこで、戦闘用として別のゴーレムを用意したらどうかと考えついた。
さっそく、村の広場で戦闘用ゴーレムを作ろうとすると──。
「エルム、話は聞いておったのだ!
せっかくの隊長機なら強いやつがいいのである!」
休憩中らしい、メイド服のジ・オーバーが寄ってきた。
なぜか目をキラキラと輝かせている。
「うーん、強いやつがいいといっても、ダンジョンの魔石だと……」
「フゥーハハハ! エルム、まだまだ甘いのである!
以前に倒した、SSSランクの隕鉄蟲の魔石を使えばいいのである!」
「あ~、確か回収してあったな……」
エルムがノガード大陸にきた初日、ウリコを襲っていたモンスター。
SSSランクの隕鉄蟲。
ミスリルより硬い装甲が特徴だ。
「いや、でもあれって、あとで聞いた話だとジ・オーバーの部下だったんだろう……? 時間が経ちすぎて蘇生もできないし……」
「よいよい、存分に使うがよいぞ。
何というか、隕鉄蟲のやつは昆虫族だけに何を考えてるかわからなかったし。
強さを求めておるようであったから、テキトーに使っちゃうといいのである」
「えぇ……。そんなテキトーでいいの?」
たまに部下への扱いが雑になる魔王を横目に、エルムはマジックボックスから隕鉄蟲の魔石を取りだした。
小さなクリスタルのような石が、キラキラと輝いている。
どうしようか……と眺めていると、どこからともなく子竜がやってきた。
「エルムたっだいまー」
「お、バハさんお帰り。どこかに遊びに行ってたのか?」
「うん、ちょっと別大陸まで、猫とじゃれ合いにね」
「猫か……。そういえば、猫獣人の彼らは元気にしているだろうか。
俺がもっと上手くやれば、どうにかなったかも知れない出来事だった」
「あー、アレね。
所詮、どんなに装備で強化されても、人間は神様じゃないからね。
いくら力が強くても、心はガラスのように脆く弱いままさ。キミも疲れていた。
力があるから全てを救えなんて言ったら、それこそ本当の愚か者を責めた方が早いよ」
バハムート十三世は、だからこそ人間を太古の昔から観察したり陥れたりするのは楽しい、と内心邪悪に微笑んでいた。
「まぁ、あの猫獣人たちが感謝しているのなら、他の人間は何もいえないよ。
エルム、それこそ野暮ってものさ。
さてと暗い話はここまでだ。
話を戻すけどー……、ゴーレムのコアとして、魔石を使うか悩んでたのかい?」
「ああ、どうも戦闘用ゴーレムというのに、良い想い出がなくてな……」
「それじゃあ、魔石本人に聞いてみよう」
「……え?」
子竜はエルムに飛び乗り、持っていた魔石に顔を近づけた。
「ふんふん、なるほど。
どうやら強いゴーレムなら大歓迎とのことだ」
「……バハさん、魔石の意思がわかるのか?」
「なんとなくね~」
こんな感じで戦闘用の隊長ゴーレムを作るのが決定してしまった。
まずは本体。
強度をさらに高くした竜骨レンガを使って、身体を形作っていく。
「あ、エルムエルム。ゴーレムくん、身体は金属がいいって言ってる」
「金属……ダンジョンで少量取れたミスリルでもコーティングするか」
全長三メートルほどの四角くゴツゴツしたレンガの身体が、あっという間に黄銅色のミスリルゴーレムへと変化した。
太陽の光を反射する金属の巨体、それは確かに強そうだった。
そこに村人たちもやってきた。
ギャラリーの中からズイッと一歩前に出てきたのは、目をキラキラ光らせるショーグン。
「ほう、小僧。これはなかなかの出で立ちよ。
だが、まだ足りないものがありよるのぉ……」
「足りないもの……?
まともなショーグンなら、良いアイディアを出してくれそうだ。
何でも言ってくれ」
「刀が足りぬ! でっかい刀!
あとカッコイイ兜、できれば鬼のような面頬とかだ!」
「……あんまりまともじゃなかった」
そう言いつつも、エルムは巨大なミスリル太刀と東方兜を作った。
ミスリルゴーレムは夢に出てきそうな大鎧武者のようになった。
今度はそれを見ていた道具屋の店主が、ズイッと一歩前に出てきた。
「エルムさん、刀だけでは不安が残りますぜ。
メインウェポンだけじゃなく、サブウェポンっていうのも必要だ」
「あなたは土地購入のときにお世話になった道具屋の店主さん……。
たしかに道具のプロであるアナタの言葉は説得力がある」
「イエス! なので、南方にあるという、爆発する粉を詰めたモノなんてどうだ!
消耗品はいいぞ! ロマンだぞ!」
「爆発する粉……火薬。なんかまた技術水準が……」
そう言いつつも、エルムは火薬を生成。
子供の身体くらいの大きさもある、手投げ式のグレネードを作った。
それを隊長ゴーレムの腰に数本装着。
ミスリル太刀、鬼のような形相、吊されている手投げ式グレネード。
作った本人のエルムがもう突っ込みたくて仕方がない。
だが、その場にいた者たちの男子ハートには火が付いたらしい。
「乗れるようにするってのはどうだ!」
「エルム、鋼鉄の翼を付ければ実質的に竜だよ。うん、ボク的にも竜認定!」
「我としては、眼前の敵をドドドドドッと蜂の巣にするガトリング岩石ランチャーが欲しいのである!」
数々の無茶な注文。
もうなるようになれ、という投げやりな状態になっていたエルムは作る作る作る作る……。
──そして完成した。
「おぉ……コイツぁすげぇぜ。さすがエルムさんだ」
ミスリル太刀、鬼の形相、手投げ式グレネード、コックピットハッチ、鋼鉄の翼、ガトリング岩石ランチャー、腕にパイルバンカー、両肩にトリプルドリル、正義回路、その他オシャレパーツ。
隊長ミスリルゴーレムは仁王立ち。
どっしりと構え、一歩も動かずに誇らしげな威厳を放っている。
それを見上げていると、意外と作ったエルムからしても、まんざらでは無いと思ってきてしまった。
「ふふ、ボリス村の守護神を作ってしまった。
今日から俺のことは天才ゴーレム技師と呼んでくれ」
その直後わかったのだが、ゴテゴテ付けすぎて動けなかったので、倉庫に格納されることとなった。
お蔵入りである。
恥ずかしいセリフを言ったエルムは、三日ほどウリコたちにイジられ続けた。