魔王、村への進軍準備をする
※魔王視点
その巨大な城の壁は、常に血に濡れたような光沢を放っていた。
城郭には天を突くかの如き悪魔の巻き角が生え、何者をも寄せ付けない雰囲気。
ここは──魔王城。
魔王ジ・オーバーが支配する、恐ろしき魔王軍の本拠地である。
「フゥーハハハ! あの村を落とす準備も整いつつあるな!」
「ハッ! ジ・オーバー様!」
数多くのSSSランクモンスターをひざまづかせ、玉座に座る一人の魔王がいた。
大きな瞳にまん丸ほっぺ、長い角にシルバーグレーの髪。
真っ平らな胸、ぽっこりと出ているお腹──幼女である。
マント一枚に半裸のような格好の幼女である。
幼女魔王ジ・オーバーは、深淵を思わせる真っ黒い眼をギロリと副官に向ける。
「で、魔将軍とその配下の訓練は進んでいるのであるか?」
「そ、それが……あまり芳しくなく……」
「何故なのであるかッ!?」
ジ・オーバーは怒気を含んだ幼い声を放ちつつ、玉座の横に置いてある机で書類仕事。
手に持っている万年筆を止めずに会話を続ける。
「日々の訓練──つまり魔王軍にとっての仕事を何故こなせぬのだ!?」
「……休みが欲しいと」
「なにぃ!? 休みだとぉ!?」
「はい……僭越ながら、週二日……いえ、週一日でもいいので……」
「ならぬ! 死ぬ気でやり通せば何とかなる!
我も三日間寝ていないが、物凄く眠いが、何とかなっているのである!
だから休むな! 休んではならん! だが大サービスで仮眠1時間、我太っ腹!」
「ハハッ! 有り難き幸せ!」
副官はチラッと……太っ腹というか幼女魔王のぽっこりお腹を見ながら、黒い感情を燃やしていた。
周りのSSSランクモンスターも同じ気持ちであった。
「フゥーハハハ! 苦節数十年、ここまでの魔王軍再建は苦労したのであるな!
正体不明の何かに他の魔王たちは倒され、辛うじて逃げ延びたのは我らのみ……。
うむ、我よくがんばった」
エルムによって7人いた魔王は封印され、今や魔王はジ・オーバー一人となった。
必死に逃げ延び、辺境に城を作り、目立たないように堪え忍んできたのだ。
もちろん人を襲ったりはできないし、物資の調達も最低限。
周辺で不味いが増えやすい“魔界ゴケ”を栽培し、モギュモギュ渋い顔で食べ、酒も殆ど飲めない。
人間の商人と合法的な取引をして、数十年かけて帝国金貨を稼ぎ、武器を買い、訓練を続けて雌伏のときを過ごしていたのだ。
魔王軍のフラストレーションは休み無しという環境も相まって、爆発寸前まで貯まっていた。
全員、どうやったらこの幼女魔王の座を奪えるかという下克上を狙っている。
だが──。
「そういえば、ジ・オーバー様。偵察に行った隕鉄蟲のやつが戻ってきませんが……」
「ふむ。あやつ、魔王軍を抜けたがっていたな。
SSSランクモンスターが倒されるはずもないし……つまり裏切り。
くくく……裏切り者の隕鉄蟲を見つけたら──わかるな?」
「ど、どうするのですか?」
「たわけがぁッ!! 労働からの逃走は死刑である、死刑、死刑ーッ!!」
怒号と共に、ジ・オーバーの魔力が弾け飛んだ。
その場にいたSSSランクモンスターたちは、それにあらがうことができずに吹き散らかされ、壁に激突したり、城の外へ放り出された。
ジ・オーバーは強い。
ただ単純にそれだけで魔王軍のトップに立ち、過労による不満も抑え込めている。
この世界で数少ない、SSSランクの上をゆく存在。
それが魔王ジ・オーバー。
「フゥーハハハ! あのボリス村にあるSランク装備ザックザクのダンジョンさえ手に入れれば、我が魔王軍の資産は増え、さらに規模を拡大!
多角化戦略も可能となるであろう!!」
「う、うぅ……魔王さま、それと……」
吹き飛ばされるも、身体を引きずりながら戻ってきた副官。
最後の報告を続ける。
「どうやら金ほしさに石化薬を売っていた者が内部にいたらしく……人間側がこちらに気付いている可能性もあります」
「なに!? それは不味いのであるな……。
よし! 作戦を早め、全魔王軍──村への進軍準備! 我も出る!」
「魔王ジ・オーバー様、御自らッ!?」
「ククク……我が父から受け継ぎし深淵なる力、その神の領域を見せてやろう……」
──今、エルムがいるボリス村に危機が迫っていた。
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まおーぐん、がんばぇー!





