エルムVS青の人魚アナスン2
エルムは一か八かの賭に出た。
両手を前に突き出して、魔法ではなく、直接的な魔力だけを放つ。
(くっ、うまくいかない)
一度目は振動が現れるも、水に阻まれてダメージを与えられるようなものではなかった。
すぐにそれをフィードバックして調整する。
魔力自体は水に影響することはわかったので、次は水を抵抗としてではなく、水を味方に付けるためにコントロールする。
(水は敵ではない……味方だ……むしろ自分の手の延長線上にあると考えた方が良い……)
手の平から小さな渦が生まれた。
そのキッカケをイメージして、増幅、調整を超高速で繰り返す。
それは普通の魔術師なら数十年、それだけに費やして辿り着くような境地だろう。
エルムの秘められていた天才的センスと、暴力的なまでの魔力で、強引にそれを実戦に耐えうる極地へと導いていく。
(水禍よ、いけ!!)
魔力の流れは、巨大な水流となってアナスンを飲み込んだ。
それは海底の砂をも飲み込んで、周囲の視界を奪うほどだった。
『土壇場でやりますねぇ、お兄さん。でも――』
どこかから聞こえてくるブレイスの声は、余裕が見え隠れしていた。
『モンスターならこれで十分に倒せたでしょう。しかし、アナスンは最強の人魚です。これくらいの水流では全く効きません』
ブレイスの言うとおりだった。
アナスンは多少体勢を崩して、視界を奪われていたが、ダメージ自体は食らってはいない。
エルムが放った一撃は攻撃にすらなっていなかったのだ。
――しかし、それでよかった。
(俺は攻撃として放ったんじゃないからな!)
アナスンの視覚をすり抜けて、エルムはその場から移動していた。
『おや、お兄さん。空気を吸いに海上へ移動しましたか……? いや、違う!? なぜ海底の方へ移動しているんですか!?』
エルムは答えだと言わんばかりに、海底にある巨岩に魔力を注ぎ込んだ。
そして、水を操ったときと同じ原理で、巨岩をアナスンに向けて大砲のように放った。
『もしかして、最初は目くらまし!? 本命はアナスンが苦手とする土属性の攻撃ですか……!?』
(アナには悪いが、その通りだ)
アナスンは巨岩に潰されて、その幻影は霧散した。
「ふぅ、もう青モードなしで水の中はこりごりだな」
エルムは心底面倒そうな表情だった。
どうやらアナスンを倒したことで、息ができる陸地にステージが変化したようだ。
「たぶんアナはまだ現代でも生きてるだろうし、今度会ったらこれを土産話にでもするか」
そう言いながら、エルムは次の戦いに備えるのであった。





