【記念幕間】竜装騎士、ウリコとデートをする
前書き
※たぶん書籍版一巻あとのお話です。
「――というわけでエルムさん、デートに行きましょう!」
「は?」
心地良い暖かさの日中、エルムは予定もなく自宅でまどろんでいた。
そこに突然やってきたウリコの一言であった。
「だから、デートです! デートー!」
「そうか~」
年頃の女子からデートに誘われても、エルムはテーブルに頬杖をついて落ちついていた。
ウリコの魂胆が大体読めているからである。
「それで、どこに行くんだ?」
「ダンジョンですよー!」
「なるほど、デート名目の素材取りか」
「あ、あはは~。平たく言っちゃえばそうですね~」
照れくさそうに笑うウリコは話を続けた。
「ほら、エルムさんが村に来たばかりのとき、ダンジョンに潜って色々と装備を取ってきてくれたじゃないですか」
「あったな」
「そのとき、どんな感じだったのかなーってずっと気になっちゃってるんですよ。エルムさん、“魔王の薬ですっごい姿になったあの人”と戦ったときの技もすごかったし! きっとダンジョンでもすごいんだろうなーって!」
「いや、あのときの技はダンジョンじゃ使わな――」
「ゼロ・グングニルー!! って叫んでカッコイイですよね! 略してゼログニ!」
あの叫びは力を引き出すために必要なのだが、面と向かって言われると少し恥ずかしい。
加えて、ウリコは迫真のポーズだ。
戯画的なエフェクトや効果音の再現で、『ゴゴゴゴ』とか『バチバチーッ』と口真似までしている。
「や、やめてくれウリコ……」
「ふっ、なんてこたぁねぇぜ! 俺は不死殺しを持つただの村人だぜ~~!!」
キリッとした表情で、自分でアレンジしたセリフを決めるウリコ。
「なんかオーバーになってないか……!? 的確に俺の羞恥心を削ってくる……」
「フッフッフ。ダンジョンに行くのなら、私のお口は閉じるかもしれませんよ~?」
「わかった、行く……一緒にダンジョンに行くから……。まったく。何事も大雑把、オーバーなのはよくないぞ……」
「わーい、やったー!」
***
エルムは、手早く終わらせるためにダンジョン一層目を選択した。
いつもの勇者、マシュー、子竜は、村にやってきた絵描きのモデルを引き受けて別行動中だ。
「いや~、ワクワクしますねー!」
「ウリコ、たしかジ・オーバーと一緒にダンジョンに潜ったことがあるんじゃなかったか?」
ダンジョンの中をやけにテンション高めで進むウリコに対して、エルムは違和感を覚える。
いくら非日常空間とはいえ、複数回来たことのある場所で楽しいのだろうか? ――と。
「ふふっ、今回はエルムさんと一緒だからですよ~!」
「俺と? それはどういう――」
ウリコは頭の三角巾をフワリと揺らしながら、背の高いエルムの顔を覗き込んだ。
「実はロリオバちゃんと話したんですよ! 一緒にダンジョンに潜ったときは、なんかロリオバちゃんの神剣でオーバーキルすぎて、すっごい大雑把にドッカーンって敵をやっつけちゃって、見た目的にちょっとやりすぎかな~って……」
「まぁ、それは伝説装備を使うと普通はそうな――」
「エルムさんもさっき『大雑把、オーバーなのはよくないぞ』って言ってましたしね。たしかにそうだと思いました。そういうのは、よくないですよね!」
「え……」
エルムの戦闘スタイルも、能力が高すぎるためにほぼ大雑把でオーバーになってしまう。しかし、自分の言葉を引用されては『俺の戦闘スタイルもそうだ』と言い出しにくくなってしまった。
「それに比べてベテランの風格漂うエルムさんなら、きっとダンジョンでもスマートに戦っているんだろうなーって、ロリオバちゃんと話が盛り上がっちゃいましたよ~。そこで今日は、そういうスマートさを見学したいな~と思いまして!」
「あ、ああ……スマートさだろ……任せておけ……」
冷や汗をかいて、目を逸らすエルム。
ボリス村での最大級のピンチが訪れていた。
そして、このタイミングで目の前に現れる雑魚スケルトン。
「あ、エルムさん! 敵が現れましたよ! やっつけちゃってください!」
「よ、よし……」
エルムは“零式神槍グングニル”を構えながら悩んでいた。
この槍は伝説装備であり、間違いなく雑魚スケルトンに振るえばオーバーキルだ。
このままだとどうしようもないため、選択肢としては現在の“白”モードから、別のスマートな攻撃手段を持つモードへチェンジするというのがある。
対雑魚戦といえば、魔法に特化した“紫”だろう。
しかし、大体の攻撃魔法が極大クラスなので、一掃するようなオーバーキルになってしまうのは目に見えている。
残る五色は青緑灰赤黒だ。
エルムがその中から選んだのは――
「これだ――“緑の創作業着クラフトモード”!」
なにかと使う機会が増えてきた緑のエプロン姿である。
手慣れた様子で、とある薬品を調合。
エルムは、これでスマートにスケルトンを倒せると確信していた。
きっと“緑”モードのモデルとなったハンスも、草葉の陰から応援してくれているに違いない。
「喰らえスケルトン! 最小範囲で倒してやる!」
「おぉ、なんかエルムさんがスマートっぽい攻撃を!」
エルムが薬品の瓶を投げつけると、スケルトンの身体に当たってパリンと割れ、中身が飛び散った。
「以前作ったエリクサーと同じ物だ。アンデッドに対してダメージがある」
「なるほど! 回復効果が、逆にアンデッドをサクッとスマートに昇天させちゃうわけですね! ……って、なんか――」
テンション高めの解説をしていたウリコだったが、敵の姿を見て遠い目になっていた。
視線の先のスケルトンはジタバタともがき苦しみ、グロテスクに身体を崩れさせていた。
タンスに小指を当てた以上の絶叫を上げながら、なんとも言えない臭いまで振りまいている。
「なんでしょう、この臭い……」
「骨と魔力が溶けていく臭いだな」
死にかけの蝉のように暴れたあと、スケルトンは『やっと楽になれた……』という表情で、プシュ~と成仏していった。
エルムはそれで勝利を確信して、ウリコにドヤ顔を向けていた。
「どうだ、ウリコ」
「うーん……あんまりスマートじゃありませんね……」
その言葉にエルムはピシッと固まった。
考えとしては、最小範囲、最効率でスケルトンを倒すという行為がスマートだったのだが、なぜかウリコはそう感じなかったらしい。
悔しいがエルムは目標には届かなかったと察して、真顔に戻った。
しかし――
「さすがエルムさん」
「……え?」
「先に失敗例を示しておいて、次に本当のスマートというやつを見せてくれるんですよね!」
「あ、ああ。もちろんだとも……」
エルムは、ウリコに背を向けてから、メチャクチャ焦った表情を表に出していた。
もう常識的に考えて、なにがスマートなのかわからなくなってきていた。
効率などではない、スマートさとは――スマートさとは――……。
「はっ!?」
そこでエルムは、急に六百年前のことを思い出していた。
それは“灰の心士衣服タキシードモード”のモデルとなった男の言葉である。
『いいかい、エルム。それっぽく立ち振る舞えば、人間はスマートだと思い込んでくれる。過程はどうあれ、その結果さえそれっぽく見せればいいのだよ』
「――当時はわからなかったが、今のこの危機的状況ならわかる気がする! ありがとうラット! きっと六百年後のこのシチュエーションを予想してくれていたんだな!」
「エルムさん、急にどうしたんですか?」
「……ごほんっ。なんでもない」
過程はどうあれ、結果さえスマートなら問題ない。
エルムは外見がスマートな“灰”のタキシード姿へとチェンジした。
そこへタイミングよくやってきた、新たなスケルトン。
「シャル・ウィ・ダンス?」
エルムは有無を言わさず、踊るようなステップでスケルトンに近付き、その白すぎる骨の手を掴んだ。
「え、エルムさん……なにを……?」
さすがのウリコも状況が把握できないのか、目をぱちくりさせていた。
モンスターのスケルトンでさえ困惑している。
「決まっているだろう。ダンスバトルだ」
なにが決まっているのかエルム本人もわからないが、ダンスでバトルを開始した。
スケルトンが攻撃してこないように手で手をガッチリと拘束。
同時に、踊っているようにしか見えないが、身体を揺さぶる超震動を与えて内部から崩壊させていく。
「す、すごい……鼻歌交じりで、スケルトンと華麗な舞を……」
「――フィニッシュ!」
エルムは大きくポーズをしたところで、スケルトンに膨大な魔力を流してサラサラの粉状に分解する。
「ぶ、ブラボーですエルムさん! とてもスマートです、感動しました!」
やっているのはただのオーバーキルだが、どうやらウリコからしたら踊りで満足させて成仏させたように見えるのだろう。
なんとかなったとエルムは一安心した。
かなり手間はかかるが、そのままボス部屋まで何十回も“ダンスバトル”を繰り返して進んで行く。
「はぁはぁ……。や、やっと最後のボス部屋だ……」
魔力や体力の消費より、精神的に疲労困憊のエルムであった。
だが、これでやっと解放される。
そう思いながらボス部屋の扉を開けて、エルムは思い出した。
「あ……」
「エルムさんが、どうやって巨人キュクロプスをスマートに倒すのか楽しみです!」
仁王立ちしていたのは巨大なボスだ。
巨大ということは、エルムとはサイズ的にダンスなどできるはずもない。
立ち尽くして遠い眼をするエルム。期待に眼を輝かせるウリコ。
妙にダンジョンの中の一瞬が長く感じられた。
「………………よし」
満面の笑みのエルムは“白”モードに戻って、神槍を手に取った。
「え?」
「――“必中せし魂壊の神槍”!!」
まばゆい光がキュクロプスを貫き、一片も残さず消滅させた。
いつも通りの見事なオーバーキルである。
***
地上に戻ってきたエルムは、申し訳なさそうにウリコに謝っていた。
「すまん、ついに我慢できなくなった……。白状すると、本当は村で最初にダンジョンに潜ったとき、メチャクチャ大雑把に極大魔法でフロアを一掃した……」
「もう、それならそうと言ってくれればよかったのに~」
「なんか……俺の戦いを見るのを楽しみにしてたみたいだから、言い出しにくくてな……」
そんなエルムに対して、ウリコはいつもの明るい笑顔を向けていた。
「大丈夫です。少しの見栄で嘘を吐いたのはお互い様ですから!」
「うん……?」
「さってと、ボスからドロップした防具をお店に並べないと~」
――本当はウリコが、二人きりの時間がほしかっただけで誘ったダンジョン。
しかし、途中で気恥ずかしくなって色々と嘘の理由をこじつけてしまったのだ。
そんなことも気付かない鈍感なエルムを置いて、頬をほのかに赤く染めたウリコは防具店の方へと走っていったのだった。
あとがき
なろう版とは違う、ちょっと可愛らしい書籍版基準のウリコでした!
想定している時間軸的には、書籍版一巻と二巻を繋ぐような話ですね。
一巻がまだの方は、この可愛い感じのウリコを気に入って頂けたなら、今から購入しても遅くないですぞ~!
なんとイラストで肌色成分が多い物があったりもします……!
もちろん、ほのぼのしたシーンや、格好良い戦闘シーンも!
(魔王の薬ですっごい姿になったあの人というのも新要素で、一巻部分で読めます)
というわけで、その続きとなる12月10日発売予定の二巻!
今回は書き下ろし約七万文字だったり、残りの全ページも担当さんがバシバシ改稿指示入れてたりと、かなり満足感あるものとなっているはずです。
様々なものを込めて書いたので、ご期待頂けると幸いです。





