異界の災害級、最強の上位竜種に進化する
眼前に存在するのは、人語を解するドラゴン。
ブレイスや勇者など、一部の者だけがその恐ろしさを理解していた。
「な、なんだよ。ただ見た目が変わっただけかよ。脅かしやがって……」
「ガイ、油断してはいけない!」
敵の外見だけで判断していたガイは、それまでと同じように防御をしようと盾を構えたのだが――
「なッ!?」
ダンジョンイーターは、数分前とは比べものにならない敏捷性で距離を詰めてきた。
巨大な物体が高速で迫ってくるなど予想もできず、当然のようにガイは吹き飛ばされ、勢いよく後方の壁に激突した。
あまりの威力に大量の砂ぼこりが巻き上がる。
幸い、先に盾を構えていたので、骨を何本か折って装備していた防具が全損する程度で済んだ。
「ごふ……ッ! なんで外見がドラゴンになっただけで、急に強くなってやがるんだ……」
一瞬、呆気にとられていた他のメンバーだったが、チャンスを逃さずにダンジョンイーターの攻撃後の隙を突き、その巨体に対して一斉攻撃を仕掛ける。
マシューはハンマーで強打し、オルガは魔術で大岩を飛ばして、コンは上段に構えた刀を実直に振り下ろし、レンは魔術で氷弾を放ち――なぜか勇者だけは盾を構え、数歩離れた場所で観察していた。
「どうやら、本当にまずい状況のようだな……」
『なるほど、ニンゲンの攻撃が痛くない。こう使うのか、エーテルというモノは』
いくつもの攻撃音が重なり、空気が激しく振動した。
しかし、そこには四人の攻撃を受けても、平然としているダンジョンイーターの姿があった。
今までは破壊不能の表皮で防げても、その衝撃によって内部はダメージを受けていたのだが、どうやらそれすらも感じていないようだった。
ダンジョンイーターは、そのまま長い巨躯を振り回すように回転させて、まとわりついていたアタッカーたちをはじき飛ばした。
「ぐぁぁッ!?」
各自、何とか致命傷は避けたが、軽くないダメージを受けている。
離れて回避していた勇者は冷静に状況を分析した。
「アレは……外見だけでなく、本当の上位竜種へ進化したのか」
「上位……竜種……?」
「そうか、コンたちは知らないのか。普段、実際に見られるのは人語を話せない下位竜種に限られているからな」
一般的な竜といえば、一部の国に存在するワイバーンなどの下位竜種である。
野生にも存在していて、ドラゴンの鱗を使った装備などでも有名だ。
一般人からしたら、こちらが現実的なドラゴンといえる。
「そして今、目の前にいるのが、伝説などで知られる人語を解するドラゴン――上位竜種」
数百年前、魔王が複数同時出現して暗黒時代となった頃から、神々や上位の竜は人間の前から姿を消した。
現在、この付近にいる上位竜種はバハムート十三世や、エルムが召喚する竜軍団くらいである。
普通の人間が知らないのは当然なのだ。
「で、でも……ワイバーンだって、パーティーを組めば狩れるくらいの強さだろう? それが上位になったくらいで……」
「上位竜種の一部は、神に匹敵する絶大なる力を持っている。このダンジョンイーターがどれほどのものか見極めようと思ったが……どうやら一筋縄ではいかない相手らしいな。やつはエーテルを操る」
「エーテル?」
「――それはつまり、魔法級の攻撃を覚悟しなければならないということですよ」
今まで後ろで見ていた紫の魔法使い――ブレイスが前に出てきていた。
横にはショーグンが、すでに刀を抜いて構えている。
「まったく。この歳になって、こんな相手と死合えるとは思わなんだ」
「儂、ショーグン、勇者で時間を稼ぎます。他は下がっていてください」
「ふっ、また伝説の魔法使い殿とパーティーを組めるとは光栄だな」
前衛を務めるのは勇者だ。
盾を構え、片手剣をギュッと握りしめる。
その頭部まで覆う全身鎧は、決して伝説装備には及ばないが、人類の板金技術の中ではトップクラスともいえる一品である。
特殊な能力は付与されていないが、皇帝御用達の質実剛健な作りだ。
『そこの小さな三匹、この身体の練習台に丁度良さそうだ』
「ふんっ。いくら上位竜種でも、人間を舐めると足元をすくわれるぞ。――もっとも、ミミズには足が無いのだがな」
『ほざけ、ニンゲン!』
挑発されたダンジョンイーターは、ガイを倒したときのように恐ろしいまでの俊敏さで突っ込んで来た。
その行動を読んでいた勇者は、手に持っていた盾と片手剣を投げ捨てる。
そしてダンジョンイーターの牙に向かって猛ダッシュした。
『なに!?』
勇者は鋭い牙を間一髪――スライディングで下方に躱した。
そのまま勢いを殺さず、巨大なアゴ下辺りに潜り込み、立ち上がって両手を掲げるようにしてダンジョンイーターをガッシリと掴んだ。
巨大な肉を下から万力で締め上げるようにしているため、両腕が深くめり込んでいる。
「勇者に身体の大きさなんて関係ない! どぅりゃああああッッ!!!!」
信じられない質量差を、しかもダンジョンイーターはエーテルで地面に吸着していたのに――勇者は全身全霊をかけて上方に投げ飛ばすことに成功した。
ここは天井が高いフロアなのだが、それでも巨躯は上壁に届いて激突した。
「臨機応変な余裕の盾役、さすが勇者ですね」
「そう褒めるなブレイス殿……。しかし、今の無茶で面白いほどバッキバキに骨にヒビが入った。あとは任せる」
「あはは……。では、それなりに任せてください――“氷獄”!」
ブレイスは既に詠唱しておいた極大氷魔法を放つ。
世界樹の杖から一直線に進む青白い光が、周囲の触れていない壁面すら凍結させる。
それが打ち上げられている最中のダンジョンワームに直撃して、天井ごと凍り付かせた。
普通のモンスターなら、ひとたまりも無いだろう。
しかし、一瞬にして、その身体を包む巨大な氷塊はパキパキと割れ始めていた。
氷獄を食らったダンジョンイーターは無傷だったのだ。
『ふ、ふふふ……。そうか、これが笑いという感情か。極大魔法、名と見た目が大仰な割に何ともなくて思わず笑ってしまった』
「その場の状況だけ見て嘲笑うのは、まだまだ知恵が浅い証拠ですね。戦局とは数手先を読むものです――“煉獄”!」
ダンジョンイーターは巨大な炎に包まれたが、相変わらず無傷のままだった。
起こった現象といえば、表面の氷が溶けて水蒸気が立ちこめるくらいだ。
『次から次へと……それも無意味……。温度差による装甲の破壊を狙ったのだろう?』
「いいえ、ただの布石です」
ダンジョンイーターの眼前に、銀色の閃光が瞬いた。
水蒸気で見えにくいが、それは――
『ニンゲンだと!?』
「破ッ!!」
跳び上がっていたショーグンは真一文字に刀を振るう。
空中であっても、一分の体幹の狂いもない見事な刀捌き。
金属を震わせる音を響かせながら、ダンジョンワームとすれ違って着地した。
「ショーグンに一撃を入れてもらうための極大魔法でしたが……ダメですか」
「うむ」
その手に持っていた刀が中央からポキリと折れていた。
「ウリコからSランクの刀を借りてみたのだが、これでも拙者には脆すぎるようだ」
『……な……に。さらにエーテルで強化した、この身体に傷を付けただと……』
若干だが、ダンジョンイーターの表皮に切れ目が入っていた。
たったそれだけのことなのだが、驚愕に値する。
この強固な表皮を傷付けるということは、伝説装備級の威力を――複数人で一瞬とはいえ発揮したのだ。
それはつまり、このあとに控えている存在はさらに強いということだ。
余裕がなくなったダンジョンイーターは、残りの氷の拘束を砕いて落下。
ショーグンに身体を叩き付けようとするも、軽々と避けられてしまった。
『嫌な予感……というやつがする……。次のニンゲンが来るまでに、早く勝負を付けなければ……』
このときダンジョンイーターが逃げなかったのは、自分が負けるという明確なイメージを持てなかったためである。
上級竜種以上の者など、世界規模のイレギュラーだからだ。
しかし、それは確実に一人存在した。
「もう遅いですよ、ダンジョンイーター。これまでの二十四時間、すべてがこのための布石ですから」
そう言ってブレイスは後ろに下がった。
代わりに入り口の方から歩み出てきたのは――
「待たせたな」
最強の竜装騎士エルムだった。
書籍版発売まであと4日!
下記のリンクから試し読みができたりするので、とりあえずイラストだけでも見に来てくれたら嬉しいです。
可愛いし格好良いので。
あとは活動報告でも語ってたりするので、お暇ならそちらも!





