冒険者、それは誰もが特別な奴ら
それから十数時間、冒険者たちはダンジョンイーターに喰われ続けた。
呆気なく喰われた者もいたし、抵抗した者もいた。
叫んだ者もいたし、無言だった者もいた。
逃げようとした者もいたし、逃げなかった者もいた。
しかし、結果的には腹の中だ。
攻撃の通らない相手に、それ以上のことはできない。
そう理解していた。
――そして最後の第一階層。
もうここ以外に冒険者は残っていない。
石造りのダンジョンに地鳴りが響き、床を食い破ってダンジョンイーターが姿を現した。
その巨体は食後の血生臭さをまき散らしている。
下の階層から、配置された冒険者を喰いながら導火線のように伝ってやってきたのだろう。
一層の冒険者たちは、ダンジョンイーターを見て立ち尽くす。
「ああ、思い出した……」
「オレもだ……」
不思議と彼らは、ダンジョンイーターを見ても落ちついたままだった。
それは一層の冒険者たちだけ、特定条件での精神操作が解かれるようになっていたためである。
「盾役を中心に広がれ! アタッカーは隙を見て攻撃! ヒーラーは軽傷のメンバーの回復を優先しろ! シーフは……一番重要な役目だ。外に知らせに行ってくれ」
「「「「「了解ッ!」」」」」
ダンジョンの中から連絡をするには、もっとも原始的な手段を用いるしかない。
すなわち徒歩で外に出ての口頭説明である。
そうやって外部から助けを呼ぶのだ。
第一層は最終防衛ラインのため、その間に冒険者たちは耐えるしかない。
それらの高度な行動には、精神操作が邪魔であるため、一層の冒険者はダンジョンイーターを目撃したら精神操作が解けるようになっていたのだ。
『ニンゲン……喰らう……』
いつの間にかダンジョンイーターは言葉を発するようになっていた。
人間を食べたため、言語の知識を得たのだろう。
これまでと同じように冒険者を喰らうという意思が、ゲップのような聞き苦しい発音と、汚泥のような臭さと共に吐き出されてくる。
ダンジョンイーターは、盾を持ってガンガン音を鳴らして挑発するパラディン目掛けて突進した。
「来るぞ! 対大型モンスター戦用意!」
『……!?』
盾役へ一直線に向かってくるダンジョンイーターに対して、アタッカーたちは猛攻撃を仕掛けた。
気合いを入れるために叫びながらというのはよくあるのだが、その内容は少し変わっていた。
「うぉぉー! アリシアちゃん好きだー!」
「何を言いながら攻撃してるんだい!? エルム愛してるよー!」
「お前もかよ! じゃあオレは……小っちゃいジ・オーバーちゃん萌えー!」
「……最後のテメェは危ないから回復無しな」
その一見ふざけた攻撃だが、ここに配置されたのは村の中でも上位のパーティーである。
皮膚を傷付けられなくても、手慣れた連携攻撃の衝撃によって進攻先を変更させた。
それをパラディンが盾で横っ面を強打しつつ、反動を利用して大きく回避。
必勝だと思っていた攻撃をいなされて、ダンジョンイーターは戸惑うような仕草を見せていた。
「いけるぞ! このまま時間を稼ぐ!」
ダンジョンイーターは完全に油断をしていた。
今までの人間がただの餌扱いだったために、彼らがパーティーを組んで連携を取るとは思っていなかったのだ。
エルムが冒険者に対して精神操作をかけていたのは、このためでもある。
下手にダンジョンイーターが“冒険者は食べにくい相手”として認識してしまえば避けてしまい、先に村側に出てしまう可能性もあったからだ。
――しかし、その油断もすぐに終わる。
「なっ!? こいつ、動きが変わったぞ!?」
餌ではなく、敵対者だと認識したダンジョンイーターは、喰らうためではなく、息の根を止めるための行動に移る。
離れている冒険者を狙い、ダンジョンの瓦礫を尻尾で散弾のように撃ち出す。
「ぐぁぁッ!?」
こぶしくらいの物から、両手で抱えるくらいの岩石サイズの瓦礫が、風を切りながら飛来して激突した。
その威力は凄まじく、軽装の魔術師や僧侶たちは戦闘不能に陥った。
「お、落ちつけ!? まだ大丈夫――」
『ニンゲン、脆い』
ダンジョンイーターは巨体に似合わぬ素早い蠕動で、盾役のパラディンの眼前に迫る。
パラディンが気が付いた時には避ける時間もなく、防ごうにも人間が持つ小さな盾一つではどうしようもなかった。
「ち、ちくしょー!! 冒険者は時間稼ぎにすらならねぇってのかよーッ!?」
ネチャッとした粘液の糸を引きながら、大人一人を軽く飲み込めるサイズの大きな口が開け放たれた。
そのまま鋭い牙と共に、パラディンに向かって閉じられ――
「おいおい、それくらいで情けねぇな。オレたち冒険者はもっと諦めが悪いもんだろう?」
ガギンッと重厚な金属音が響く。
ギリギリのところで、ダンジョンイーターの攻撃は防がれていた。
横から割り込んできたガラの悪い重鎧パラディンが、右手と左手に一つずつ盾を持つという馬鹿げたスタイルで踏ん張っていたのだ。
「お、お前は……酒場の店員……?」
「はっ、オレ様はガイだ! この村に一番最初にやってきた冒険者パーティーのリーダー! そして、いつか冒険者の頂点に立つ男だ!」
ガイによって動きが止められたダンジョンイーターの横っ腹に、巨大な氷弾がぶち当たる。
「パーティーメンバーその一、オルガ登場よぉ」
オルガの氷魔術に続いて、ハンマーを持った少年がドゴッと重い打撃を与えた。
「えっと、ノリ的に『パーティーメンバーその二、マシューです』とか言った方がいいんですかね……? 外から援軍に駆け付けました」
そこにはマシューたち三人組だけではなく、ブレイス、勇者、ショーグン、双子などが揃っていた。
「さてと……。冒険者の方々はよくやってくれました、負傷者を連れて外への連絡を頼みます。――それで儂たちは、お兄さんが到着するまでダンジョンイーターで“修業”をしましょうか」
令和最初の投稿!
書籍版の発売日も近くなってきてドキドキです。





