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幼女魔王、滅ぼす

 小さな身体のジ・オーバーには大きすぎる神剣。

 人間基準の武器カテゴリーでいえば、両手剣の部類に入るだろう。

 それを引きずるようにしながら駆けて、ネメアの獅子へ一撃――


「くっ!?」


 神剣はネメアの獅子の皮膚を一閃したのだが、ギンッと硬質な金属音と共に弾かれてしまった。

 ジ・オーバーは一歩引いて体勢を立て直す。


「硬いのであるな……」


「オマエ、小サイノニ強イ」


「ほう、語る知恵があるか。ともすれば、父から聞かされたことのあるネメアの獅子というやつであるな……」


如何(イカ)ニモ」


「大抵の攻撃を無効化し、弱点は三日間も首を締め上げ続けること……。この状況では弱点を狙うのは現実的ではないのであるな」


 ジ・オーバーが長時間戦えば、異界の門から別の存在が出てくる可能性が高い。

 なるべく早く、事を終えたいところだ。


「それなら――!」


 ジ・オーバーは身軽さを活かした跳躍をして、異界の門へ一直線に向かった。

 先に異界の門を壊そうという考えだ。

 しかし――


「コチラヲ無視スル余裕ガ……アルノカ?」


「ぐぅッ!?」


 ネメアの獅子が横から突進してきた。

 軽いジ・オーバーの身体は吹き飛ばされ、地面にバウンドする。

 メイド服が所々破けて、土埃に汚れる。


「見当違イダッタカ……。ドウヤラ、コノ世界ニハ弱イ存在シカ、イナイラシイナ?」


 ネメアの獅子は再びつまらなさそうな表情に戻り、ジ・オーバーにトドメを刺そうと近付いてくる。

 だが、倒れているジ・オーバーは冷笑を浮かべていた。

 それは魔王の表情。


「ほう……。それなら、お前の方の世界は随分と強い者が多いのだな?」


「ムッ!?」


 ネメアの獅子は完全に思い違いをしていた。

 目の前の存在は弱いのではない。

 手加減をしていたのだ。


 一瞬にして残像を置き去りにしながら、ジ・オーバーはネメアの獅子の側面へと回り込み、斬れない神剣で押した。


「ナンダト!?」

 

 押して押して押して――異界の門まで押し通す。

 そのまま門の向こう側の異界まで、ネメアの獅子ごとジ・オーバーは到達した。


「ここは、異界というより流刑地であるな」


 一変した景色は、灰色の空と荒れ果てた大地。

 すえた臭い。

 異界全体から感じられるのは、生き物を絶対殺すという悪意。

 土壌の魔力は死んでおり、周囲には数え切れないほどの化け物が異界の門へと向かってきていた。


「一つ教えてやるのである、異界の獣よ」


「ココマデ押シ出ストハ、ドコニソンナチカラガ……。イヤ、マダ……エーテルガ高マッテイルダト!?」


 ジ・オーバーの背中からエーテルによって作られた光が生えてきた。

 その右は神聖な白であり、左は邪悪で黒の美しい――六対十二枚の翼。

 今までの姿からは信じられない程、圧倒的なまでの威光を備えていた。


「お主の皮膚を引き裂くほどの力を出すと、ダンジョンが崩壊してしまう恐れがあったので手加減をしていたのだ。この異界なら、存分に力を発揮できるのである」


 魔王は嗤った。

 精神生命体の領域にあるジ・オーバーは、心の枷がある場合は本領を発揮できない。

 最初にボリス村を攻めたときも、無意識で人間を傷付けるのを避けていた。

 いや、それよりも周辺を崩壊させてしまうので、あの世界ではいつもマトモに戦えなかったというのが正しい。

 そして、その枷が今――完全に解かれた。


「モシカシテ、オマエノ血ノ ルーツハ 堕天シタ最強ノ魔王――」


「滅ぶがよい」


 地平線まで届きそうな光刃を伴った“混沌祓う天の神剣”を、流れるように軽く一振り。

 ジ・オーバーから溢れ出る、無限にも等しい精神エネルギーによって、異界が斬り割かれた。

 余波だけで灰色の雲が引きちぎれ、大地が砕け、ネメアの獅子を含む複数の異界の存在が消し飛んだ。

 その世界崩壊の結果を見ずに、魔王はゆっくり背を向けて、異界の門を通ってボリス村ダンジョンへと帰還する。

 そして、二度とこちら側への道が通じないように、異界の門を破壊した。


「はぁ、やはりエルムより強い者はいないのであるな」


 ジ・オーバーはケガ人を転移陣まで運んで外に送り出したあと、そのまま二十層で待機することになった。

 一度外に出たら再び入れないので、保険のためである。

 しかし、特定の階層で待っていても、目的のダンジョンイーターが現れる可能性は低い。

 本命のエルムが倒してくれるのを待つ状態だ。

 あと十数時間は待たなければならない。


「暇であるな……。持たされたエルムのお弁当を食べ――いかんいかん。食べたら無くなってしまって、さらに寂しい感じになってしまう……。うぅ……なぜお弁当は食べたら無くなってしまうのであるか……」


 堪えるジ・オーバー。

 だが、耐えきれずに弁当を取りだしてしまう。


「……中身を見るくらいなら」


 その欲望は抑えきれず――


「……匂いを嗅ぐくらいなら」


 ついに――


「……一口くらいなら」


 早弁をしてしまった。


「わははー! さすがエルムのお弁当、美味いのであるー!」


 どんなに強い力を持つ幼女魔王でも、エルムには敵わないのであった

 書籍化作業で地味にメンタルが鍛えられたので、感想返信始めました(冷やし中華のリズム)。

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