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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第一話 不良と地味女
7/50

7

 由紀が思いがけない上級なコーヒータイムを味わっていると、ようやく手を空いたらしい近藤母がやってきた。

「ごめんなさいね、お待たせしちゃって。弘くん、私にもアイスコーヒー淹れてよ」

「へいへい」

近藤母の注文に、近藤がもう一度厨房へ入る。

 二人きりになったところで、近藤母が「ふふっ」と笑う。

「弘くんの友達にあなたみたいな普通の女の子がいたなんて、ちょっと意外だわ」

 ――でしょうね。

 正確に言えば由紀は近藤の友達ではなく、ただのクラスメイトだ。

 けれどその事実をこの嬉しそうな近藤母に暴露するのは躊躇われる。


「それで、本当にここで働いてくれるの?」

「えー、まあ、はあ」

期待に目を輝かせる近藤母に、由紀はどう言ったものかと考える。

 実のところ、その話がつかないままに連れて来られている。

 だがコーヒーをご馳走になった今更、「違います」とは言いにくい。

 ――あ、もしや近藤はそれを狙ったのか!

 にゃんこ近藤はなかなかの策士である。

 そして由紀の曖昧な答えに構わず、近藤母が押して来る。


「ウチの店は火曜日が定休日よ。できれば土日に出て欲しくて、基本は週五日勤務で、あなたに用事があれば事前に言って貰えればお休みにするわ。それでどうかしら?」

提示された時給は、クラスメイトの雑談で小耳に挟む金額の平均程度。

 勤務時間は朝九時から午後三時まで。

 ――条件としては悪くないのか。

 それに夏休みの土日というのはどこも人でいっぱいで、わざわざ遊びに出かける気にならない。

 平日に遊べるから夏休みは素晴らしいのだ。


 由紀のテスト返却からこちらの母との協議の結果、小遣いダウンは決定された。

 どのみち短期アルバイトを探さねばならなかったのだ。

「それでいいです、お願いします」

由紀が近藤母に了承の返事をすると、相手はパアっと表情を明るくした。

「本当? よかったわ受けて貰えて! 夏休みの間よろしくね!」

近藤母がそう言って由紀の手を持ち、ブンブンと握手する。

「なに、決まったの?」

そのタイミングを見計らったのか、近藤がアイスコーヒーを手に戻って来た。

「そうよぉ、よかったわぁ。この店は私と父さんとでやっているんだけれどね? この間父さんがこけたせいで、腰を悪くして働けなくなっちゃって。夏休みに働いてくれそうな人を急きょ探していたの」

だから使えるものは不良でも使えとばかりに、近藤にバイトを探して来いと無茶ぶりをしたのか。

 この人はなかなか剛毅な母らしい。


 話がまとまったところで、近藤母が今後必要なものを告げた。

「親御さんの了承をちゃんと貰って、履歴書を用意してくれる? お給料は振り込みにするから、銀行口座もいるかな」

「履歴書と銀行口座、ですね」

どちらも今までの由紀に縁のなかった代物であるため、忘れないようにスマホにメモる。

 ――履歴書って、コンビニにあったっけ?

 というか、履歴書には証明写真とかいうのがいるのだったか。

 一度母にメールで聞いてみることにしよう。

 由紀が「帰ってからすることリスト」を脳内に作成していると。

「そうそう、これも言っとかなきゃ」

思い出したように近藤母が手を叩いた。

「もしハルカちゃんが目当てなら、残念だけどあの娘はそういうの嫌うからね」


「……ハルカ、ですか?」

なんだか謎ネームが出て来た。

 ――誰それ?

 頭の上にクエスチョンマークを飛ばす由紀に、近藤母が首を傾げる。

 二人で無言で見つめ合う空間に、近藤が割って入った。

「おめぇ、ファッション雑誌とか読まない系か」

「雑誌で読むのは少女漫画くらいだけど?」

当然のことを聞かないで欲しい。

 一年を通してほぼ制服か部屋着しか着ない身で、ファッションの勉強をしてどうなるというのか。

 自慢ではないが由紀の私服は、ほぼ国産格安アパレルメーカー製だ。

「で、ハルカって誰?」

「……そのうち会うんじゃねぇの?」

由紀の疑問に、近藤は目を逸らした。


両親にメールで伝えると、アルバイトの許可はあっさりと降りた。

『いいんじゃないの~?』

『毎日家でゴロゴロするより、健全だろう』

二人とも、初めて外で働く娘の心配を全くしていない。

 あの後帰り道のコンビニで履歴書を買って、母に言われて証明写真を撮る機械を探し回った。

 そして出来上がった写真のなんと人相の悪いことか。

 ――これ、絶対にゃんこ近藤に笑われるぞ。

 帰れば早速、履歴書作成作業が待っている。

 由紀はウンウンと頭をひねりながら欄を埋めて行く。

 そうしてなんとか書き上げた履歴書に、帰って来た父親に保護者欄の記入をしてもらう。

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