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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第一話 不良と地味女
6/50

6

由紀が近藤にドナドナされて連れて行かれた喫茶店は、意外にも自宅マンションの近くだった。

 というか、通学路の途中にある店だった。

「へー、ここが近藤くん家ねぇ」

由紀が見上げる店構えは木造のレトロな外観で、ガラス越しに中を覗くと落ち着いた雰囲気の内装で揃えてある。

 いわゆる純喫茶風の店だ。

 店内では近藤の母なのだろう、エプロン姿の女性が忙しく立ち回っている。


 ――なるほど、『雰囲気が合わない』か。

由紀にも近藤の言わんとすることがわかる。

 店はいかにもツウが通います的な雰囲気が醸し出している。

 近藤の不良仲間は、バリアが張ってあるかのごとく近寄らないだろう。

 そして女子高生相手には、可愛い制服があるでもないのでうまみがない。

 近藤がバイト探しに困ったわけである。


 店内の様子を見た近藤が舌打ちをした。

「……しまった、今昼時か」

昼の繁盛記を迎えている店内は、そこそこ客が入っている。

 忙しい時を邪魔してはいけない。

「忙しいなら遠慮するっていうか、ご縁がなかったということで」

断る隙を逃さない由紀を、近藤も見逃さなかった。

「仕方ねぇ、隅のあたりで待つぞ」

ガシッと腕を掴まれ、店内に引き込まれる。

 ――ああぁ、また逃げ損ねた……。

 由紀は不良の自宅に入り込むことになってしまい、気分はヤクザの家にカチコミに行く下っ端だ。


 カランコロン

 入り口を開けると、ドアに付けてある古めかしい音のベルが鳴った。

「ただいま。母さん、バイト候補を連れて来た」

近藤が声をかけると、料理を運んでいた女性が振り向いて笑顔を見せた。

 やはりこの女性が近藤母のようだ。

「……どうも」

近藤母と目が合った由紀は、小さく会釈する。

 近藤母は緩いウエーブのかかった明るい色の髪を後ろで無造作に一つに結っていて、服装も動きやすさ主体のシンプルなものだ。

 よく見ると強面な近藤とパーツ一つ一つが良く似ている。


「あら」

その近藤母が目を丸くした。

「あらあらあらあら!」

次いで近藤母が迫って来たので、由紀は身を引こうとするが、近藤に掴まれた腕は邪魔をした。

「まあまあまあまあ!」

近藤母が料理の乗ったお盆を差し出し、近藤が片手でそれをさっと受け取る。

 親子の無言の連係プレーの直後、由紀は近藤母にガシッと顔を掴まれた。

「弘くんにも、ちゃんと普通の女の子の知り合いがいるんじゃないのよぉ!」

近藤母が、近藤の背中をバンバンと叩いている。

 息子と違って、母の方は随分テンションが高い。


 ――ていうか、弘くんとか呼ばれてるよ。

 ガタイのいい強面系不良を呼ぶニックネームではない気がする。

 どんな人かと気になった由紀は、少し眼鏡をずらして近藤母を見た。すると彼女の纏っている色は濃い緑。

 近藤が新緑の色だとすると、近藤母は深い森の色だ。

 案外似た者親子なのだろうか。

「痛ぇ、母さん先にコレを運んだ方がいい」

叩かれながらお盆を守る近藤が忠告すると、「あら?」と近藤の持つお盆に視線をやる。

 料理の存在をスコンと忘れていたらしい。


「私の手が空くまで、ちょっとコーヒーでも飲んで待っててね。それともジュースがいい?」

由紀はこれにジュースと言おうとしたが、ドリンクバーでの近藤の悪戯が脳裏を過ぎる。

「コーヒーがいいです」

無難な飲み物にした由紀に、近藤母がニコッと笑う。

「そう? じゃあ弘くん淹れてあげてね」

「……わぁったよ」

近藤が低く答えると、近藤母は颯爽と料理を運びに行く。

 ――え、近藤が淹れるの?

 これは予想外だ。

 戸惑う由紀に、近藤が顎でカウンター席の隅を指す。

「そこの端にでも座ってろ」

「あ、はい」


言われるがままそこへ座った由紀に、近藤が尋ねる。

「アイス、ホット、どっちだ」

「えー、アイス」

「クリームは」

「欲しいかな」

注文を取った近藤が、制服のまま厨房へ行く。

 しばらくしてコーヒーを入れる香りと、カシャカシャとなにかを混ぜる音が聞こえてくる。

 やがて戻って来た近藤の手にあるお盆の上に、グラスに入ったアイスコーヒーと、小さな器と白いこんもりとしたものが乗っている手のひら大の器が乗っていた。


「ほらよ、コーヒー。これがシロップの入れ物、これがクリーム。好きなだけ入れろ」

近藤が一つ一つ説明するのを聞くと、白いこんもりがクリームらしい。

「おおおぉ……」

由紀は正直、フランチャイズ店で出されるようなアイスコーヒーが来ると思っていた。

 けれどこれはもしかして噂でちらっと聞いたことのある、ウインナーコーヒーという奴ではなかろうか。

 しかもシロップは自家製か。

 ――超本格的!


 由紀は恐々とシロップの器を持ってアイスコーヒーに注ぎ、甘さを確かめながら足していく。

 丁度良くなったところで、こんもりとしたクリームを乗せる。

 それはアイスコーヒーの上にしばらく乗っていたが、徐々に溶けて行く。

 そうして出来上がったコーヒーに、由紀は恐る恐る口をつける。

「ふうぅぅ……」

 ――くどくないよ、すごく美味しいよ!

 コーヒーの新たな世界を発見してしまった由紀が、まったりとした顔をしていると、近藤がニヤリと笑った。

「この店をジイさんがやってた頃から、ウチのコーヒーはこれなんだよ」

「ほーう」

この店は近藤の祖父の代からやっているらしい。


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