表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第一話 不良と地味女
5/50

5

生徒会長と不良の恋。なんだか青春小説のタイトルみたいだ。

 ――へー、ほー、ふぅーん。

 由紀とて女子高生の端くれ。

 人が纏う色が見える体質のせいで、若干性格が枯れているのは否めないものの、それ以外は普通の女の子である。

 こんな格好の恋バナを、誰かに話したくて仕方ない。

 でも不良を敵に回すのは怖い。

 現在由紀は、頬がニマニマしないように最大限筋肉を緊張させているところだ。


「女の子には優しくしないと、いつも言ってるでしょう?」

「……ああくそ」

きっかけは由紀だが、新開会長は近藤との押し問答を楽しんでいるようだ。

 だがこの近藤という男、みんなのアイドル新開会長に好意を寄せられているというのに、照れもしなければニコリともしない。

 全く女心がわからん男である。

 いや、こういうキャラが新開会長の好みなのか。

 由紀が出来る限り顔を動かさないように、視線だけで二人を見比べていると、用事があるらしい新開会長が話を切り上げた。


「じゃあね弘樹、そのうち店に顔を出すわ」

「……ああ」

新開会長は近藤にヒラリと手を振り、由紀にニコリと笑って廊下を去って行った。

 ――いいものを見た。

 惜しむらくは、誰かに話すには近藤相手だと躊躇われるということだ。

 ともあれ新開会長が去り、この場に近藤と二人残された由紀はどうすればいいのか。

 突っ立っている近藤をちらりと見る。

「あの、職員室ってそこだし、別に持ってもらうほどじゃあないから」

「不良はノーサンキュー!」とデカデカと書いてある風な顔で、由紀は近藤にきっぱりと断る。

「……おら、よこせそれ」

それなのに、近藤は由紀からプリントを奪い去った。

「あ、だからいいってば!」

 ――人の話を聞いているのかコイツ!?

 ジトリとした視線を向けると、近藤がため息を吐いた。


「アイツ、ぜってぇその辺で見てる。ここでスルーした後でネチネチ言われるのが嫌なんだよ」

なるほど、親切ではなく保身なのか。

 とにかくそんなわけで、由紀は職員室までの短い距離を近藤と歩くことになった。

 背の高い近藤は当然歩幅が広いので、女子高生の平均程度の身長である由紀は、チョコチョコと小走りで付いて行く。

 その由紀に、近藤が振り向きもせずにボソリと言った。

「おめぇ、いつか公園にいただろう」

なんと試験中の帰りに目撃した時のことが、近藤にバレていた。

 とはいえ由紀だって、あんなアホなやり方でごまかされたとは思っていなかったが。


 けれど近藤がこの件に突っ込んで来たのが意外だった。

「私は何も知りませんとも、にゃんこ近藤くんのことなんて」

「……しっかり見てんじゃねぇかよ」

しらを切って見せた由紀に、近藤がため息をつく。

 さっきからため息の多い不良である。

 そんな会話をしていると、職員室を通り過ぎそうになった。

「あ、ではここまでで結構、ありがとうよい夏休みを!」

由紀は文句や因縁をつけられる前に、近藤の手からプリントを奪い返し、職員室へ逃げ込む。


「先生、持ってきました」

「おー、ありがとなぁ。そこに置いておいてくれや」

職員室の奥でコーヒーを飲んでいた担任は、由紀をちらりと見ると自分の机を顎で指した。

 ごちゃっとしている机だったが、構わずドンとプリントを置く。

 なにかをプリントの下敷きにしていても、片付けない担任が悪いのだ。

 後で精々探すがいい。

「失礼しましたー」

ミッションを終えた由紀は職員室を出た。

「……」

そしてまた逆戻りしてドアを閉める。

 何故ならドアの前に近藤がいたからだ。

 そのまま三十秒数えてドアを開けると、なんとまだそこにいる。


 ――帰りなさいよ、アンタ。

 もう一度職員室の戻り、逆側のドアから出ようかと画策した時。

「おめぇ、バイトしねぇ?」

近藤の口から、そんな言葉が飛び出した。

「……は?」

由紀は眉を寄せて近藤を見上げた。

「それは、夜のいかがわしいお店だったり、露出の激しい衣装で誰かを勧誘したりするバイトで? 言っとくけど私そういうのに全く向いていないというか、法律に引っかかるアルバイトは嫌かなって思うっていうか」

「ちっげぇよ! なんで風俗前提に話しているんだよ!」

由紀の断り文句に、近藤が声を荒げる。


「え、違うの?」

心底疑わしい顔で問い返す由紀に、近藤が顔を赤くする。

「おめぇは俺をなんだと思ってるんだよ!?」

 ――不良だと思ってるけど。

 声にしない答えが顔に出たのか、近藤がぐっと息を呑む。

 殴られそうな気配がしたらすぐに職員室に逃げようと思っていたが、近藤が拳を振り上げることはなかった。

「俺の母さんがやっている、普通の喫茶店の話だ」

低い声でボソボソと語る近藤曰く、母親に夏休み期間中の接客バイトの女子を捕まえて来いと言われているのだとか。

「近藤くんの交友関係に勧めればいい話なのでは?」

わざわざ由紀に頼む意味がわからない。


 この疑問に、近藤はしかめっ面をした。

「……俺の周りにいる奴らは雰囲気が合わん。っていうか興味を持たれない」

不良仲間をバイトに宛がうのは無理らしい。

 だが、まだ由紀の疑問は残る。

「なんで私?」

一番の謎に、近藤はなんてことない顔で答えた。

「小遣いを減らされるピンチなんだろう? 教室でぶーたれてたじゃねぇか」

なんと近藤は由紀の愚痴を聞いていたらしい。

 意外と耳の良い不良である。


「でも、どんな店かもわからないことには答えようがないっていうか」

遠回しに遠慮したい旨を伝えたつもりの由紀だったが。

「おし、じゃあ今から行くぞ。早くカバンとって来いや」

なんと、近藤に言葉通りの意味にとらえられてしまい、勝手にこれから見学に行く段取りを決められてしまう。

 ――強引だな、この不良め!

 けれど報復が怖くて逃げだすことができない、小心者の由紀なのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ