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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第六話 恋はなに色?

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9

本日は二話連投しますので、ご注意ください。

ここには人が近藤しかいないので、見えるのは近藤の纏う緑色だけだ。

「私ね、こうしていると、人が色を纏って見えるの。紫だったり青だったり黄色だったり、それこそ色々ね。悪いことを企んでいたりすると、黒ずんて汚い色になるんだけどさ。近藤くんは綺麗な緑色、ちょうどこの木陰の色だね」

眼鏡を外したままの由紀はベンチから立ち上がると、木陰から出ないギリギリまで近藤と距離を取る。


「でもこうしていると視界に入るのはいろんな色ばかりで、人の姿とか顔が見えなくなっちゃってさぁ。今の距離だと、そっちの顔は色に埋もれて見えないな」

自身の纏う色に包まれて、近藤の姿が視界から消えてしまう。

「……それで、伊達眼鏡か」

「そういうことだねー」

近藤の声に、由紀は頷く。

「こんなオカルトめいたことを言う私は、気持ち悪い?」

この言葉を聞いて、近藤がどんな顔をしているだろうか。


幼い頃、由紀には仲良しだった子がいた。この子ならば自分のことをわかってもらえる、そう信じた由紀だったが。

『ゆきちゃんが気持ち悪いこと言うー』

真実を告げて帰って来たのがこのセリフだ。

 この件がきっかけというわけではないだろうが、すぐに家族で引っ越しをしたので、あの子がどうなったのかはわからない。

 けれど幼い由紀の心に傷を負わせるには、十分な出来事だった。


 それからの由紀は、他人とつかず離れずの距離で付き合うようになる。

 ちょっと言動を怪しまれたら、「占いに凝っている」と言ってごまかしているうちに、ついたあだ名が『お告げの西田』だ。

 高校生になった頃には傷つかない他人との付き合い方を学んで、馬鹿話をする友人ができた。

 それで満足していればよかったのに、「自分を理解してもらえるかもしれない」と希望を抱く相手ができてしまった。


 強面の不良だと思っていた近藤は、不良は卒業していて、意外と人のことを見ている気配り屋で、美味しいコーヒーを淹れる優しい人。

 眼鏡の秘密に近づいても、なにも聞かずにいてくれた、それがどんなに嬉しかったか。

 けどそんな希望なんて、砕けるなら早い方が傷が浅い。

 ――どんな顔をされたとしても、今は見えないから平気。

 拒絶の答えが返ってきたら、「なーんてね本気にした?」と笑ってごまかす。

 そして明日から「ほらやっぱりね」と言いながら過ごすのだ。

 今までそうやって来たのだから、これからだってきっと出来るはず。

 けれど由紀は今の自分が、ちゃんと笑えているのか自信がない。


 近藤から距離を取ったまま動かない由紀だったが。

 ザクザク……

 足音と共に緑色が、近藤が近づいてくる。

 ――あれ?

 由紀としては「冗談だろう?」と言われるか、黙って立ち去られるかと思っていたのに、予想していたのと違う展開に戸惑うしかない。

 そして、一歩踏み出せばぶつかってしまう距離まで近付いた近藤の姿が見えた。

 片手に抱えている猫が、きょとんとした顔をしているのまで見える。


「これならどうだ、見えるのか?」

「あ、見え、るね」

由紀は動揺を隠し、かろうじてそう答える。

 近藤の緑色が、点滅しているかのように濃淡を繰り返す。

この目まぐるしい変化はなにを表しているのか。

 怖くなってすり足で後ろに下がろうとした由紀の肩を、近藤が掴んだ。

「おめぇの事情は、正直聞いただけじゃあいまいちピンとこない」

「……まあ、そうだろうね」

近藤の正直な心情に、由紀も頷く。むしろ、すぐに理解をされた方がビックリだ。


「けどおめぇは、前に俺の淹れるコーヒーが好きだって言ったな」

至近距離の近藤が、由紀を覗き込むように話す。

 ――っていうか、これってすごく顔が近い……?

 そう気が付いた途端、由紀は顔が赤くなるのがわかる。

 それが恥ずかしくてこの場から逃げたくなるが、肩を掴まれて逃げられない。

「あの、肩、離して」

由紀がそうお願いした直後。

「俺も、こっちを真っ直ぐ見るおめぇの目が、結構好きだぞ」

近藤にそう告げられた次の瞬間、額に熱が触れる。


「……!」

目を見開いて固まる由紀の視界に、離れていく近藤の唇が入る。あれが熱の正体だとするならば。

「……じゃあな、暑さでぶっ倒れる前に帰れよ」

片手で抱えていた猫を由紀の頭の上に乗せて、近藤は去っていく。

 その纏う色の端の方が、淡いピンク色に変化していた。

 一人になった由紀は、その場にへたり込んだ。

 ――私って今、デコチューされたの……?

 今の由紀は顔どころか全身が熱い。

 これは熱中症ではない、別の病の始まりだろうか。


由紀はそれからどうやって家に帰って来たのか、正直覚えていない。

 ただ気が付いたら、自宅マンションのダイニングで、冷凍庫にあった冷凍パスタを昼食に温めて食べていた。

「……味がわからん」

今口の中にあるパスタが美味しいかどうか脳が判断できない。

 きっとオーバーヒートを起こして壊れているのだろう。

 それでもモソモソと食べて麦茶を流し込んだのだが。

「ぐぅあぁぁあ!」

唐突に襲い来る羞恥心に、由紀は一人雄叫びを上げる。


「タラシ、タラシかにゃんこ近藤のくせに! 乙女心を弄ぶとはけしからん!」

由紀は頭を掻き毟ろうとして、額に手が触れてピタリと動きを止める。

 額に触れた唇の感触がまざまざと蘇り、顔を真っ赤にする。

「ふぁぁぁあ! 意味わからん!」

ひとしきり叫んだ後、食後のゴミを処理して部屋に籠る。

 が、ここでも悶々としてしまう。

 ――期待するな、考えるな、期待するな、考えるな……。

 呪文のように心に刻もうとするが、至近距離での近藤の顔と額に受けた唇の熱が、由紀の脳を沸騰させる。

「人生、都合のいい展開なんてないんだから」

言葉にしてみても、ちっとも頭に入らない。

 結局由紀は夕方までこの状態で、仕事から帰って来た両親にも「アンタ大丈夫?」と心配されるくらい、心がフワフワした状態で一日を終えた。

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