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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第六話 恋はなに色?

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7

「弘樹ちゃんも、成長しているの……?」

新開会長は考えてもみなかったというような顔をした後、由紀の差し出した二枚の写真に恐る恐る手を伸ばす。

 由紀は写真を渡しながら語り掛けた。

「近藤くんを見守っている新開会長は、確かに恋をしてました」

初めて恋の色を見た時は、自身の紫色と混じり合うことなく、純粋なピンク色だった。

「けど、会長が近藤くんを守ろうとすればするほど、恋じゃなくなっていく」

由紀というライバルとみなした存在が視界に入ると、とたんに恋の色は紫色に飲み込まれて濁ってしまう。

「この恋は、会長にとって幸せなものですか?」

由紀の問いかけに、新開会長は沈黙した。


 恋の色は育てていくもの。

 過去の思い出に恋をして淀ませるのではなく、現在に恋をして変えていく。

 それが健全な恋の在り方だ。

「『近藤弘樹』をないがしろにしていたら、いつか必ずお互いに傷付きますよ。そんな恋は、幸せな結果にならないのではないですか?」

近藤は新開会長にこのままストーカーを続けられても苦しいし、一線を越えて犯罪沙汰なんかになれば、やはり苦しむだろう。

 恋する相手の害となる前に、新開会長は目を覚ますべきだ。


「近藤、弘樹……」

そう零して写真にじっと食い入るように見入っていた新開会長が、やがてボソリと呟いた。

「弘樹ちゃん……、こんな顔だった?」

「もう何年も前から、こんな顔でしたけど」

呆然とする彼女に、由紀は重々しく頷く。

 春香の話では、兄妹で似ていると言われたのは十歳くらいまでで、その後の近藤は急激に今の顔に変化したという。

 アルバムでも、その変化は如実に表れていた。

 それに新開会長が同じ学校に通っていて、気付かないはずがない。

 恐らく彼女は本人を目にしても、「弘樹ちゃんフィルター」越しにしか視認できていなかったのだろう。


「弘樹ちゃん……!」

写真に顔を伏せて、静かに泣き出した新開会長を、由紀は黙って見つめていた。

 「弘樹ちゃん」の夢に浸っていた彼女は、ようやく目が覚めたのだ。

 しばらく泣いていた新開会長は、やがて顔を上げる。

「そっか、弘樹ちゃんはもう立派な男なのね」

「結構な強面系で、天使の面影ゼロですよ」

止めを刺すわけではないが、事実をズバッと告げる。

 ここで表現を和らげても、現実に立ち返ろうとしている新開会長のためにならない。

「強面系、確かにそうね。私ってば、今までなにが見えていたのかしらね」

しかし、新開会長は近藤の写真を見て小さく笑う。


 その変化に、由紀はコッソリ眼鏡をずらして見た。

 ――色が、変わっている。

 ドブ色ではなくなり、時折揺らいでいた黒い色も消え、なにより紫が濃い色から淡い色合いに変わっていた。

 自分の悪い面を見つめるのは、誰でもしたくない。

 由紀はそれを多少強引に推し進めたものの、新開会長の心の変化にはもっと時間をかけるものだと考えていた。


 けれど、彼女はこの短い会話で心を建て直した。

 ――やっぱり、本当は強い人なんだ。

 その強さを、間違った方向に使っていただけで。

 初恋は彼女の色を濁らせてしまったけれど、恋の終わりが色をより良いものに変化させたなら、この恋は無意味なものではなかったのだ。

 それはつまり、「近藤弘樹」は彼女にとって悪いものではなかったということでもある。

 あの気遣い屋な近藤も、この結果に安心することだろう。


 話している間にすっかり温くなったドリンクの残りを飲み干し、新開会長が聞いてきた。

「この写真、貰っていいの?」

「どうぞ、本人も了承済みですので」

二枚の写真の処遇について、由紀は頷いた。

 恋の結末はどうであれ、幼馴染との思い出までも消すことはない。

 「可愛い弘樹ちゃん」を思い出して一人ニマニマするのは、彼女の自由だろう。


 新開会長は写真を仕舞い、真っ直ぐに由紀を見る。

「……夏休みの残りの間、一人でちゃんと考えるわ」

そう言った彼女は、理性的な生徒会長の顔をしていた。

「だからお店にも顔を出さないから、弘樹……近藤くんにもそう言っておいて」

「わかりました」

言い直した新開会長に、由紀はしっかりと頷いた。

「じゃあ、もう行くわ」

そう言って席を立った新開会長だったが、ふと振り返る。


「ねえ、今の近藤弘樹はどんな人?」

突然そんな質問をされて驚いた由紀だったが、自分の中に即座に浮かんだ答えを口にする。

「……優しい人だと思います」

「そう、ありがとう」

そう言った新開会長は、先にファミレスを出て行った。

 しかも伝票を持って。

 ――もしかして、奢ってもらった?

 なんというスマートな行動だろう。そしてこれこそ新開会長だという気がした。

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