表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第六話 恋はなに色?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/50

6

「それって、明るい茶色の髪に青の目、白い肌の、羽を背負わせれば天使に見える愛らしさな幼児の近藤くんですか?」

「そんな言い方じゃ表現できないわ! 弘樹ちゃんはこの世のものとは思えない可愛さなんだから!」

尋ねた由紀に、新開会長が目をくわっと開き、噛みつくように言う。

 これまで見た彼女の中で、恐らく今が最もテンションが高いだろう。

それから新開会長は、「弘樹ちゃん」との思い出を怒涛のように語り始めた。


「弘樹ちゃんと初めて会ったのは私が五歳の時ね。近所の子が同じ幼稚園に入るから、仲良くしてねと親に言われて引き合わされたのよ。あなたは知ってる? 弘樹ちゃんのあの髪は地毛だって。一目見て、私は天使って本当にいるんだと思ったわ」

そこから近藤のことをなにかと気にかけ、一人で寂しそうにしていたら遊んでやり、熱を出したらお見舞いに行きと、熱心にお世話をしたという。


「大勢の女の子に囲まれるとなにも言えなくなって、よく髪にリボンを結ばれていて、泣きべそをかいていたわ」

新開会長がさらっと近藤の黒歴史をバラす。

 ――可愛かったから、女の子扱いされちゃったのか。

 リボンが似合いそうだなとは、由紀も写真を見て思ったことだ。

 もしや近藤が当時を覚えていないのは、思い出したくない記憶を抹消したからではなかろうか。


「人に強く出られると流されちゃうし、繊細だから些細なことを気にして熱を出すし」

 ――その傾向は今でもあるな。

 あの近藤の流され気にしぃな性格は、生まれ持ったものらしい。

「熱を出して苦しんでいるんじゃないか、いじめられて困っているんじゃないかって、気になって気になって……」

 ――近藤のオカンかアンタは。

 こうして、新開会長の「弘樹ちゃん」への愛が止まらずに続いていく。


 昨日、由梨枝が言っていたのだ。

『もしかして亜依子ちゃんの中では、未だに弘くんはこの姿なのかもしれないわね』

『……新開会長の目には、この強面が天使に見えているってことですか?』

そう尋ねた由紀はかなり無理があると思っていたが、その無理を押し通したからおかしなことになったのか。

 幼児期、新開会長が近藤に一目惚れしたのはいい。

 けれど彼女はそれから時が経っても、ずっと近藤のことは「弘樹ちゃん」で。

 新開会長は近藤弘樹ではなく、「弘樹ちゃん」に恋をしているのだ。


 ――色が濁るわけだよ。

 恋の色は人によって色彩が違う。

 暗いピンク色だったり、まばゆいショッキングピンク色だったりと、色々なバリエーションがある。

 何故なら、恋は相手を想って染まる色だから。

 けれども新開会長は自分の記憶の中の「弘樹ちゃん」に恋をしていて、「弘樹ちゃん」は「近藤弘樹」ではない。

 相手不在の一人よがりの恋だから、新開会長の恋の色はドブ色なのだ。


 しかし、このままでは新開会長にとっても良くないだろう。

 ――確かにあの頃の近藤は可愛かったし、一目惚れしちゃったのはわかるけどさぁ。

 けど近藤だって生身の人間なのだから、年を経るごとに成長するのだ。

「新開会長、目を覚ましましょうよ。天使な『弘樹ちゃん』は、もうこの世にいないんです」

「そんなことない! 弘樹ちゃんは今でも弘樹ちゃんだもの!」

説得を試みる由紀に、新開会長が猛反論する。

 恐らく過去に誰かに同じようなことを言われたのだろう。

 というか、ここ最近の彼女の店での問題行動が両親の耳に入って、説得を試みられたのかもしれない。

 それでも彼女にとって「もう弘樹ちゃんじゃない」というのは、最も聞きたくない言葉なのだ。


 けれど、由紀は言葉を続ける。

「そんなことありますって、見てくださいコレ。ほとんど別人だと思いませんか?」

そう言って新開会長の眼前に二枚の写真を突きつけた。

 それは近藤の幼児の頃と現在との、ビフォーアフター写真だった。

 ちなみに現在の写真は昨日のバイト終わりに撮ったものだ。

 近藤はカメラのレンズを睨む癖があるのか、普段の二割増しで厳つい。


「あ、弘樹ちゃんの写真! それと……」

新開会長は「天使の弘樹ちゃん」の写真に食いつくと、もう一枚の写真を訝し気に見る。

「これは、現在の『弘樹ちゃん』の写真です。すごく厳ついでしょう?」

「嘘おっしゃい、弘樹ちゃんはこんなのじゃないわ」

由紀がずいっと押し出した強面写真を、新開会長が即否定する。


「こんなのなんです、現実の『近藤弘樹』は」

けれど、由紀は強い口調で言った。

「かつては『弘樹ちゃん』だった近藤くんも日々成長しているんです。昔を懐かしむのは新開会長の勝手ですが、本人の成長を否定しちゃ駄目だと思います」

写真は、ある意味本物よりもより現実を突きつける。

 写真だと老けて見えるとか、印象が違って見えるというのもそういうことだ。

 ちゃんと二つの写真を見比べて、「弘樹ちゃんフィルター」越しではない近藤を見てほしい。

 「弘樹ちゃん」ではない、現在の「近藤弘樹」も認めてあげてほしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ