表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第六話 恋はなに色?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/50

3

お昼ご飯は美味しいものの、本日の目的はこれではない。

 いいものを見せてくれるというのでやって来たのだ。

「ところで、いいものってなんですか?」

由紀が尋ねると、由梨枝がニコリと笑った。

「ちょっと待ってね、今春香ちゃんに探してもらっているの」

「なんだそれ?」

一方、近藤は本当になにも知らないらしく、眉をひそめて問うも誰も答えない。


 それから由紀が近藤やおじさんと雑談しながら、オムライスを完食した頃。

「ママぁ、これでしょう?」

春香がそう言いながら店に入って来た。

 その手には、分厚いファイルのようなものを持っている。

「もう、弘兄ぃの押し入れを大捜索しちゃったよ」

ニコニコしている春香はどうやら、近藤の部屋からそれを拝借してきたらしい。

 春香が手にするものを見て、近藤が目を剥く。


「てめ、春香! それをどっから出してきた!?」

ガタリとイスを蹴立てて立ち上がった近藤を、由紀は怪しむ。

「なにあれ、エロ本の切り抜き集かなんか?」

「ばっ、馬鹿かてめぇ!」

この疑惑に近藤が顔を真っ赤にして反論するのを見て、由紀は目を瞬かせた。

 ――おお、これはレアな顔だな。

 恥ずかしがる近藤なんて、そう見られるものではない。

 だがそれ以外で、これほどに恥ずかしがるものとはなんだろうか。

 由紀が首を捻っている間にも、兄妹で言い合いをしている。

「それ返せ!」

「やぁよ、せっかく探し出したのに」

口論しながら近藤がファイルを春香から奪い取る寸前で、由梨枝がひょいと取り上げた。


「私が頼んだのよ、弘くんは座って」

「けど」

由梨枝に笑顔でそう言われた近藤は、一度は反論しようとしたものの。

「座って」

「……」

再度着席を求められて、近藤は渋々座る。

 家族内での力関係がわかった瞬間だった。

 どうやら近藤家は女が強いらしい。

 由梨枝がファイルをカウンターに置いてパラパラめくっているファイルの中身は、写真がぎっしりと詰まっていた。


「アルバムですか?」

覗き込む由紀に、由梨枝が語り掛ける。

「弘くんに聞いたんだけど、西田さんが昨日亜依子ちゃんとやり合ったらしいじゃない?」

「やり合ったというか……」

その言い方だとガチンコの殴り合いをしたように聞こえるのだが、近藤は一体どんな風に由梨枝に話したのか。

 ――というか、母親にその日にあった出来事を報告したのか。

 その構図は想像するとちょっとほのぼのとするのだが。

 由紀としては今日散々いじられている近藤を、これ以上ネタにしては可哀想かと思うけれど、頬がピクピクするのは止められない。


「オイ、笑うのか笑わないのかどっちかにしろ」

すると隣から低い声で唸るように言われた。

 声の調子が脅すような雰囲気になっているが、本人は恐らく余計なことを知られて恥ずかしいのだろう。

 由紀は武士の情けで笑いたくなるのをなんとか堪えて、アイスコーヒーの残りを飲んで気持ちを建て直す。

「笑わないって。それに新開会長と喧嘩になったわけではありませんし」

前半は近藤に、後半は由梨枝に告げる。


 昨日のアレは、新開会長が勝手に因縁つけてきて、勝手に逃げ帰ったという方が正しい。

 由紀は新開会長に眼鏡を割られたが、それ以外の被害だと彼女が自分語りをし出して、そのストーカーっぷりに鳥肌がたったくらいである。

 むしろメンタルダメージは近藤の方が大きいと思えた。

 由紀の言葉を聞いた由梨枝は、アルバムをペラペラめくる。

「それで、亜依子ちゃんが弘くんを好きな理由がわからないって言ってるって春香ちゃんに聞いて、私なりに考えたんだけど。ほら、これ見て」

そう言って見せられたページは、三、四歳くらいの子供の写真が収められていた。

 その中でも入園式の写真なのか、幼稚園の制服を来てモジモジした様子で立っている幼児は、とても愛らしかった。


「可愛いですね、春香ちゃんですか?」

由紀が思わず微笑みながらそう言うと、由梨枝が「ふふっ」と笑い、近藤がプイっと横を向く。

「これ、弘くんよ」

由梨枝の衝撃発言に、由紀の思考が一瞬ストップした。

 明るい茶色の髪に深い青の目、抜けるような白い肌は、羽を背負わせれば天使に見える愛らしさなのに。

「嘘だ! この子が、コレなの!?」

由紀は思わずアルバムを近藤の顔の横に掲げるが、どう見ても同一人物に見えなかった。

「……コレって言うな」

近藤から苦情が来るが、由紀の耳には入らない。


 天使がこの強面になるとは、当時の関係者の誰が思うだろうか。

 ――時の流れの残酷さよ……。

 強面が悪いわけではない、ただ大きすぎる変化に気持ちがついて行けないのだ。

 項垂れる由紀をよそに、近藤一家が会話するのが聞こえる。

「そう言えば私と弘兄ぃって、小さい頃はそっくりだったのよねぇ」

「この頃の弘樹は、よく女の子に間違えられたなぁ」

「赤い服が好きだったから、そのせいもあるでしょうけどね」

春香がニヤニヤと笑い、懐かしい写真に目を細めるおじさんに、由梨枝が苦笑する。

 ――いや、絶対に顔のせいだって。

 この天使を、誰が男の子だと初見で見抜けるだろうか。

 ちなみに近藤は、渋い顔をしてノーコメントを貫いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ