表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第六話 恋はなに色?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/50

2

だが物の捉えようによってはそうとも言えるかもしれない。

 ナンパとは面識のないものを会話や遊びに誘う行為である。

 由紀はまさにクラスメイトという関係でしかなかった近藤に、いきなりバイトに誘われたのだから。

「なるほど、ナンパか」

「っておめぇは納得するな!」

初めてわかった新事実にうんうんと頷く由紀に、後ろから近藤の声が降って来た。

 振り向くと、料理を運んで戻って来た近藤が、嫌そうな顔をして立っている。


「アホなことを言うなジイさん、誰がナンパしたんだ」

「弘樹よ、照れるな照れるな」

「照れてねぇし! アイスコーヒーだったな!」

おじさんにからかわれた近藤は、頬を赤くしつつも厨房へ逃げた。

「全く、ナリだけデカくなったが純情だなぁ」

おじさんが厨房を見ながらニヤニヤしている。

 孫いじりが楽しくて仕方ないのだろう。

 ――奴め、家庭内ではいじられキャラなのか。

 学校では「孤高の不良」っぽいイメージだった近藤の、新たな側面を見てしまった。


「あんまりからかうと嫌われますよ?」

一応由紀が忠告すると、おじさんは額をピシャリと手で叩いた。

「そう言うが、反応が楽しくてついな」

そう言うと、どんな時の近藤が面白いかを語り始める。

 どうやらおじさんの愛とイジりは表裏一体らしい。

 それでも話としては楽しいので、由紀が相槌を打ちながら聞いていると、ゴン! と音を立てて目の前にアイスコーヒーが置かれた。


「おめぇは、ジイさんの悪乗りに付き合うな」

近藤がそう言って、ムスッとした顔でアイスコーヒーを差し出して来る。

「いちいち反応するから、からかわれるんだと思うけど」

アイスコーヒーにクリームをたっぷり入れながら、由紀がそうアドバイスする。

 近藤は自分でもそう考えてはいるのか、ぎゅっと口を引き結ぶ。

 近藤はなんだかんだで付き合いがいいというか、会話を適当に切り上げないところがある。逃げ下手なのだろう。

 この意外と繊細で気遣い屋な元不良は、ちゃんと会話すると存外気のいい奴なのだ。

 もっといろんな人と触れ合うことができれば、怖そうというイメージも払拭できるだろうに。


 事実、田んぼ仲間はもう近藤にビビっていない。

 実は彼女たちは、あの後バラバラにだが数回客として訪れていて、近藤とも普通に会話する。

 彼女ら曰く「だんだんと可愛く見えてくる」だそうだ。

 その心理を例えると、猛犬で噛みつき注意だと思っていた犬が、意外と大人しくて可愛げのある犬だとわかり、愛着が出て来るようなものか。

 近藤も彼女たちから逃げたりはしないので、苦手ではないのだろう。

 ――でもこのままだと、夏休み明けに田んぼ仲間まで新開会長に目を付けられるのか。

 由紀がアイスコーヒーにシロップを入れつつ、どうしたものかと思案していると。


「どうだい、コイツの淹れるコーヒーは美味いかい?」

おじさんが突然、ニコニコしながらそう聞いてきた。

「えーと……」

由紀は急な質問に言葉を探しながら、近藤がコーヒーを淹れ始めたきっかけを思い出す。

 このおじさんは、家庭がうまくいっておらずムシャクシャしていた近藤に、暴力以外のはけ口を与え、あの静かな緑色を生み出すきっかけをくれた人だ。

 近藤のコーヒーを淹れる瞬間の香りと色が、由紀は結構気に入っている。

 あのコーヒーを飲むとあの静かな緑色を連想し、こっちまで穏やかな気分になれるから。


 由紀はアイスコーヒーを一口飲むと、自然と笑みを浮かべる。

「すごく美味しいです。私が今まで飲んだコーヒーで、一番好きかな」

そして口から素直にこんな言葉が出て来た。

「……そうか、一番か!」

これを聞いたおじさんが嬉しそうにして、近藤は怒っているような顔になる。

 ――褒めたのにその顔はなんだ。

 由紀がジトリとした視線で見上げると、近藤はくるっと後ろを向く。

 その目元が少し赤いことに、由紀は気付かなかった。

「……おめぇ」

近藤がなにかを言いかけたのだが。

「はい、お待たせ!」

タイミングがいいのか悪いのか、由梨枝が料理を持って厨房から出てきた。


「西田さんどうぞ、ついでに弘くんも今食べちゃっていいわよ」

由梨枝がそう言って並べたのは、由紀のお気に入り賄いメニューのオムライスだ。

 ――美味しそう、なんだけどさぁ。

 由紀のオムライスには兎の顔が、近藤のには「LOVE」の字が書いてある。

 強面男子に出すには非常に勇気のいる一品だが、それをやってのける由梨枝は実にお茶目だと思う。

「……」

由紀の隣に座った近藤は自分の皿を見て、無言でケチャップをぐちゃぐちゃに混ぜる。


「これこれ、母の愛をそんなに崩すでない」

由紀がお説教ぶって告げると、近藤がギロリと睨んだ。

「うっせえ。おめぇもコレをされてみろ、居たたまれないぞ」

「残念! うちの母はケチャップで字が書けるほど器用じゃありませーん」

由紀はそう言いつつ、兎の顔の真ん中にスプーンを刺す。

 こういう顔の形だったり絵が描かれていたりする料理の場合、どこから食べるかという議論が田んぼ仲間でもしばし起こる。

 由紀は端からジワジワ削るのではなく、即成仏させてやりたいタイプだ。

「おいしーい!」

このオムライスの味だけでも、今日出てきて正解だったと言えるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ