2 side Hiroki
一方で、実は弘樹の方も同じ店に来ていた。
弘樹が高校に入ってから知り合った友人でバイク仲間の田島が、「ファミレス行こうぜ」と誘ってきたのだ。
こんなことを言う時は、なにかじっくり話したいことでもあるのだろう。
なので同じく高校からの友人の坂口と深瀬も一緒に、学校終わりにいつも行く店に向かう。
「あーぁ、大体夏休みの登校日ってだるぃよなぁ」
「いーじゃんかなぁ、ずっと休みで」
そんなことを言いながら四人で席に座って注文もして、ドリンクを取りに行こうかという前に、田島が切り出した。
「実は俺、愛花ちゃんを誘うのに成功した」
「「はぁ!?」」
坂口と深瀬が驚きの声を上げる。
「愛花って、永野愛花か」
弘樹の指摘に、田島はにやけ顔が止まらないといった顔で話す。
「スーパーにバイクで行ったら、丁度買い物に来てて。バイクに乗ってみたいって言ってさぁ」
それで、二人で出かける約束をしたのだという。
話を聞いている坂口と深瀬が「うへぇ」と言いた気な顔をする。
「なあ、どこに行けばいいど思う!?」
田島の相談に、坂口と深瀬が嫌な顔をする。
「知らねぇよ、俺らだってそんなん」
「女子が好きそうな場所でもググれよ」
取り付く島もない二人は、先日付き合っていた相手に浮気され、破局したばかり。
『顔が良ければいいのかよ!』
そう嘆いてやけ食いするのに随分付き合ったものだが、心の傷はまだ癒えないらしい。
「そんな薄っぺらい情報じゃないのが欲しいんだよぉ! なあ近藤はどう思う?」
「こっちに振るな」
泣きつくように田島に話を振られても、弘樹も困る。
なにせグレていた中学時代は喧嘩に明け暮れた日々を送っていた。
たまに気まぐれで付き合った年上女性とも、ロクなことをしていない。
イギリス人の血を引く弘樹は同学年の他の男子に比べて体格が良く、その頃で既に大人と変わらない見た目だった。
なので大人の遊び場を連れまわされたため、あまり人に言える遊びを経験していない。
母の離婚をきっかけに色々なことからすっぱりと足を洗い、健全な生活を送るようになってからは、恋人なんて作っていない。
それが最近唯一、一緒に出掛けた相手と言えば、西田しかいない。
最初は由梨枝に言われたからとはいえ、ツーリングに付き合わせてなにが楽しいのかと思っていたが、西田は案外楽しんでいた。
アイスクリームの屋台やハンバーガーも喜んだが、休憩に立ち寄るコンビニの品揃えでも、西田は一々なにかに感心していた。
弘樹はコンビニでは基本同じ商品しか買わないのでわからないが、店ごとに微妙にラインナップが違うのが面白いのだそうだ。
「いつも走るコースも、案外喜ぶもんだがな」
意外にデートコースなんて、それほど案を練り込むものではないのかもしれない。
弘樹のこの独り言めいた発言に、三人が怪訝な顔をした。
「「「『案外喜ぶもんだ』……?」」」
ハッと弘樹が気付いた時はもう遅い。
――ヤバい、口が滑った。
グリッと首を横に回してあからさまに視線を逸らす弘樹を、坂口と深瀬が追及する。
「お前、誰を連れてったんだよ」
「この間誕生日で、タンデム解禁になったばっかりだろう。 つーことは最近の話だよな?」
「誰って」
妹だと言おうとした弘樹だったが。
「妹っていうオチは聞かないからな」
「春香ちゃんと出かけたって言い方じゃなかっただろう」
鋭いツッコミに、思わず黙したのも悪かった。
これでは肯定しているようなものだ。
「さあ吐け!」
「ほらほら!」
目を血走らせて問うてくる二人が、非常にウザい。
「……コーヒー持って来る」
運よく通路側に座っていたこともあり、この場は上手く逃げた弘樹だったが。
「……なんでいる」
なんとドリンクバーの前で、西田とバッタリ会ってしまった。
***
根掘り葉掘り聞こうとする中田の追及を逃れようと、ドリンクバーに来たのだが。
「なんかいる……」
コーヒーメーカーの前にいる近藤を発見してしまった。
「……なんでいる」
あちらも由紀と同じような反応をする。
「私はいつもの四人でお喋りがてら」
「……こっちも似たようなもんだ」
どうやら同じような目的らしい。
まあ、高校生がファミレスにたむろする理由なんて、これ以外にないだろうが。
その後由紀は無言でドリンクを選んでいて、コーヒーを貰いに行く近藤をみてふと思いついた。
「あ、ねえいつか作ったヤツってどうやるの? オレンジジュースにコーヒー入れたの」
意外に美味しかったのでもう一度やってみたいと思っても、自分で作ると失敗する気がして試せていないのだ。
「ああ、アレか。春香が好きなんだよ」
由紀の疑問に、近藤は「面倒臭い」とでも言うかと思いきや、なんとささっと手際よく作ってくれた。
――コイツ、案外頼まれると断れないタイプか。
由梨枝に言われて素直に由紀をツーリングに誘いに来た件といい、間違いないと見える。
由紀のコーヒー入りオレンジジュースが完成した頃、他の三人もやって来た。
「近藤くんもいたんだ」
「あ、それなに? もしかしていつかの奇跡のオレンジジュース?」
「私、家で試して失敗したんだけど」
田んぼ三人組が由紀のジュースを見た後、じっと近藤に熱い視線を送る。
「……作りゃいいんだろ、三つ」
近藤がため息交じりに言うと、三人は笑顔を浮かべる。
彼らを男子三人がじっと見ているとも知らずに。




