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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第五話 地味女と眼鏡とコーヒー

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1

その後も、新開会長はほぼ毎日店に通った。

「いらっしゃいませー」

「こんにちは弘樹」

相変わらずのすれ違う挨拶である。


 新開会長はカウンター席に座り、厨房に雲隠れした近藤を切なそうに見つめ、注文を聞きに来る由紀を忌々しそうに睨む。

 おそらく小学生の春香は新開会長が卒業するまで、この視線をずっと向けられていたのだろう。

 ――これを三年間されたらすっごい嫌だな。

 だいたい近藤の実の妹に嫉妬しなくてもいいだろうに。

 生徒会長としての彼女はそこそこ器が大きいと評判なのに、恋愛に関しては極狭だ。

 新開会長は高校生活最後の夏休みなのだから、もっと有意義な時間を過ごせばいいのに。

 それとも高校生活最後だからこそ、近藤を本気で落とそうと頑張っているのだろうか?

 しかし、その頑張りは当の近藤には通じていないのだが。


こうして由紀の人生初のアルバイトでは色々なことがあったが、本日は夏休みの登校日だ。

 教室では久しぶりに会う友達同士で花が咲いていた。

「おはよ、ほいお土産」

由紀も隣の席の柴田に挨拶しながら、早速ツーリング旅のお土産であるキーホルダーを渡す。

「ありがとー。写メ見たよ、笑っちゃった」

「でっしょ? これは絶対見せねばと思ったのさ」

柴田とそんな風に話していると。

「おはよう!」

中田が教室に入るなり、ズンズンとした足取りでこちらにやって来た。


「「おはよう」」

由紀と柴田がにこやかに挨拶するも、なぜか中田の表情が険しい。

 ――どうしたのさ一体?

 怪訝な顔をする由紀の両肩を、中田がガシッと掴む。

「学校終わったらファミレス行くよね」

いきなりそんなことを言われた。

 しかも疑問形ではなく断定形である。

「バイトもないし、いいけどさ」

由紀は特別断る理由も見当たらないため、頷く。

 本日登校日は、由梨枝が休みにしてくれたのだ。

 代わりに腰がだいぶ癒えてきた近藤の祖父が、会計係としてカウンターに座っているらしい。


「おっはよう、なになにどうしたの?」

下田も現れて、由紀に迫る中田を覗き込む。

「なんか、終わったらファミレスに行こうって」

柴田が下田に教えるが、そんなホンワカした雰囲気ではなかったと思う。

「いいねー、行こ行こ。この間に出た新メニューを食べたいんだぁ」

下田のおかげで、中田の表情も通常に戻った。

 ――ホント、なんなの?

 由紀の疑問は、学校が終わるまで持ち越しとなる。

 ちなみにこの日の近藤は、始業ギリギリに登校した。


夏休みの登校日なんて、授業なんてものはない。

 ただ生徒が羽目を外し過ぎていないかという確認をするだけだ。

 早々に終わった学校を出た田んぼ四人組は、予定通りにファミレスに向かう。

 この時期は、移動のほんの十数分の暑さが辛い。

 溶けそうになりながら店内に入ると、エアコンの涼しい風が迎えてくれる。

「涼しーい」

「天国だわ」

そんなことを言いながら空いている席を探して座る。


「なんにしようかなー」

冷たい麺が食べたい気がするが、涼しい場所で辛いものを食べたい気もする。迷った末に担々麺を選び、注文を終えてさあドリンクバーに行こうという時。

「ちょっと待て西田」

由紀の隣に座る中田が、肩を押さえてきた。

「なに?」

由紀が顔を向けると、中田がぐっと迫って来る。

 ――近い、近いから!

 顔を押し戻す由紀に、中田が言った。

「吐け、あの写真の向かい側に座る男は誰だ?」

「……は?」

由紀はなんのことかと眉を顰める。


 すると中田はスマホに例のハンバーガーの写真を表示して見せ、ぐぐっと拡大する。

「ほら、これよこれ!」

「なにがぁ?」

「どれどれ」

ビシッと指さす中田に、向かいの席の柴田と下田も顔を寄せる。

 写真の隅に、時計をはめた腕がちょっとだけ写り込んでいた。

 誰のだなんてわかりきっている、近藤の腕である。

 ――マジか。

 由紀は背中に変な汗をかく。

 写真を撮った時も後で確認した時も、全く気付かなかった。

 だが、事実を素直に答えるのもマズい気がする。


 高校生の男女が二人で一日旅をする、これを人はデートと呼ぶ。

 相手が近藤だと知れば、三人から何を言われるか恐ろしい。

 なにせ年齢イコール彼氏いない歴四人組でもあるのだ。

 由紀は笑顔を取り繕い、ごまかしにかかる。

「やだなあ、お父さんに決まってる……」

「あんたんちは親二人とも会社勤めじゃん、平日に出かけないっしょ」

けれど、即座に中田に反論された。

「いや、有給とかさ」

「それにこの腕時計、若いコ向けのブランドだし。親世代はつけないって」

中田の論破に、由紀はぐうの音も出ない。


 ――にゃんこ近藤、もっと渋い時計をつけていろよ!

 由紀は八つ当たりな言いがかりを近藤に向ける。

「あのハンバーガーの店だって雑誌で見たことある! 家族で行くっていうより、野郎仲間かカップルで行く店だよね!?」

中田の冴えまくる思考が止まらない。

 確かに店内は野郎とその連れの女だけで、女子グループや家族連れなんていなかったけれども。

「さあ、誰と行った!」

由紀の意見を封じた中田が、まるで名探偵のような口調で問い詰める。

「確かに、コレ誰かなって私も思ったぁ」

下田までも中田に賛同してきた。

「そう? 私おっきいハンバーガーばっかり気になって、そんなのわからなかったわ」

緩い柴田の存在が和む。二人とも彼女を見習えばいいのに。

 由紀が口を割るまで、カウント十秒。

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