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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第一話 不良と地味女
3/50

3

それぞれに作ったドリンクを手にボックス席に戻ると、注文した料理を待ちながら、女子トークに花を咲かせる。

「〇〇ちゃんと△△くん、付き合い出したみたいだよー」

「えー、お似合いっちゃあお似合いかなぁ?」

「あー、また他人のものになった男子が増えた。△△くん目の保養だったのに」

三人の語る恋バナに、しかし由紀は眉を寄せる。

 ――あの二人、色が合わない(・・・・・・)し。

「……すぐ別れるに一票」

ボソッと告げる由紀に、一瞬、ボックス席の中がシーンとする。


「出たよ、お告げの西田。マジで当たるし怖いから」

柴田が苦笑すると、「そっかぁ、別れるのかぁ」と二人が別れる前提で女子トークは再開する。

 やがて注文した料理が来ると、「一口ちょうだい!」と言い合ったりしながら、由紀は自分の冷やし油淋鶏うどんをズルズルすする。

 うどんを食べ終わると、また甘いものが飲みたくなった。

「ドリンクお代わりしてくる」

由紀一人グラスを持ってドリンクバーに向かう。

 この時、由紀は試験が終わって久しぶりに来たファミレスで騒げたことで、少し注意力散漫になっていたのだろう。

 今度はどれにするかとドリンクを選んでいると、他の客に背中からぶつかってしまう。


「あっと、ごめんなさい」

手に持つグラスはまだ空だったからよかったものの、ぶつかった勢いで眼鏡が跳んだ。

 ――ヤバい!

 とたんに視界がいろいろな色で溢れ、色彩の暴力ともいえるそれに由紀の意識が押しつぶされそうになる。

 色酔いしそうになっていた由紀の視界に、鮮やかな緑色と、由紀の眼鏡が入ってきた。

「おい、眼鏡お前のだろ。……ってこれ度無しか、伊達眼鏡かよ」

誰かが眼鏡を拾ってくれたのだ。

 由紀は眼鏡をひったくって、慌てて眼鏡をかける。

 すると視界から色が消え、普通の景色が戻る。

 そして目の前で眼鏡を差し出していたのは。

「……あ」

 ――にゃんこ近藤じゃないの。

 なんと不良がファミレスに来ていた。


 近藤は強面系男子グループで来ているようで、由紀たちとは反対側のボックス席に近藤の連れが見える。

 ちなみに軍団の姿はないので、撒いて来たのか。

 近藤は前回の遭遇場所といい、どうして不良らしくゲームセンターに行かないのか。

 それとも昨今の不良はそんなものに無駄金をつぎ込まないのだろうか。

 なにはともあれ、地味女が関わって得をする相手ではない。

「……ども、ありがとう」

由紀は小さくお辞儀をしてすすっと後ろに下がり、再びドリンク選びを再開する。

 ――やっぱトロピカルかな。

 トロピカルドリンクを作ろうと、グラスにオレンジジュースを入れた時、事件は起きた。


「あ!」

隣でコーヒーをカップに注いでいた近藤が、由紀が視線をよそにやった隙にしれっとグラスにコーヒーを入れてきたのだ。

「なにすんのよ、私のトロピカルドリンクに!」

由紀は相手は不良だということも吹っ飛び、マジ切れする。

 しかし近藤は静かにこちらを見下ろし。

「よく混ぜろよ」

そう言い置いて席に戻っていった。

 ――にゃんこ近藤、日常会話ができる奴だったのか。

 許しがたい悪戯と共に学んだ由紀だった。


 席に戻った由紀は、近藤に話しかけられたところを見ていた三人に心配された。

「大丈夫だった? 近藤くんたちもいたんだね」

おしゃべりに夢中でまったく気付かなかったのは、三人も同じらしい。

 全く大丈夫じゃないのは、由紀のドリンクだ。

「聞いてよもう、オレンジジュースに悪戯でコーヒー入れられた! もったいないじゃないの」

だがこれは自分のドリンクなのだから、責任もって飲まなければならない。

 それがドリンクのミックスにチャレンジしたものの宿命だ。

 由紀が覚悟を決めてグラスを煽ると。

「ってあら、意外と美味しい」

自分のドリンクに起きたミラクルに、由紀は目を丸くする。

「え、嘘!?」

「マジで!?」

「一口ちょうだい!」

三人にも回し飲みを提供する。コーヒーのミックスは、どうやら配合加減が問題らしい。

 ちなみに、ミックスフルーツ・コーヒードリンクはやはりマズかった。

 作った中田は泣きながら最後まで飲んでいたが、そのチャレンジ精神だけは天晴である。


田んぼ四人組でファミレスを満喫した後、由紀は自宅へ帰って来た。

「ただいまー」

誰もいない空間に挨拶をして、そのまま自室へ直行すると、制服のままベッドへダイブする。

 ボフン!

 枕に顔を埋めたまましばらくじっとしていたが。

 ――暑い!

 ムクッと起き上がりエアコンを作動させる。

 それからボーっとしていると、エアコンから涼しい風がそよいできた。

 由紀が涼しい風に当たりながらもそもそ部屋着に着替えていると、自然とため息が漏れた。


「……あーあ、久しぶりにやっちゃった」

由紀はエアコンの作動音に紛れるような声で、ボソリと呟く。

 由紀には特異体質がある。

 人が色を纏って見えるのだ。

 色の種類は人それぞれで、綺麗な色を纏っている人もいれば、どす黒い色で染まっている人もいる。

 そして毎日同じ色ではない場合もある。

 感情の変化によって、色の濃淡や色そのものが変わったりする。

 色の傾向だと、性格の良い人は綺麗な色をしていて、性格が悪かったりなにか企んだりしていると、濁った色になることが多い。


 聞くところによると、母方の祖母の家系にそういったものが見える人が多かったらしい。

 けど、一般的な共働き家系に生まれ育った由紀は、こんな特異体質なんて正直いらない。

 なにせ人ごみに行くと、色が邪魔して景色が見えなくなるのだから、由紀にとって邪魔な色でしかない。

 眼鏡越しだと色が見えなくなるので、寝る時以外は眼鏡が必須だ。


 それでも眼鏡は不安定なものであり、今日みたいに落としてしまう場合もある。

 その際急激に襲い来る色の奔流に、色酔いしてしまうのだ。

 ――眼鏡がビクとも動かない、固定バンドをしようかな。

 でもスポーツ選手の競技中でもないのに、ゴツイのをしていたら相当目立つだろう。

 見た目をとるか実用性をとるか、悩みどころである。


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