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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第四話 地味女と「ハルカ」

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27/50

5

こうしてお姉さん顔をして説教する新開会長、それに反発する春香、空気の由紀という微妙なトライアングルが形成されようとしていた。

 ――入り口でバトルしようとしないで欲しいんだけど。

 ここは個人宅の玄関先ではなく、店の入り口なのだ。

 営業妨害にも程がある。

 由紀が「どうしようかな」と考えていると。

「おい、春香」

すぐ逃げた近藤が、嫌そうな顔で厨房から出て来た。

「それ食ったら家に戻ってろ」

「はぁい」

近藤の言葉に、春香は素直に頷く。

 これ以上ここにいても楽しくないどころか面倒が起こりそうなので、正しい選択だろう。


「弘樹、あのね」

一方で、新開会長が嬉しそうな顔をして近藤に話しかけようとする。

 言葉上では近藤が春香を窘めたように聞こえたからだろう。

 しかし――

「アンタも、喧嘩を売るようならここへ来るな。それにここは俺だけがいるわけじゃない」

近藤はぴしゃりと新開会長に釘を刺す。

「弘樹、私……」

近藤に叱られた新開会長がなにかを言おうとしたが、あちらはまたさっさと厨房へ引っ込む。

 春香も残りの焼きそばを一気にかきこむと、入り口から店を出て行った。


 一人取り残された形になった新開会長は、さっと表情を強張らせたが、無言で開いているカウンター席に座った。

 そこへ、由紀はススッと近寄って行く。

「ご注文は?」

迷惑な客だろうと、座ったからには注文を聞かねばならない。

 伝票を構える由紀を見て、新開会長はあからさまに嫌そうな表情をした。

「……あなたじゃないくて、弘樹に」

「何度も言いますが、仕事ですから。彼も別の仕事があって、忙しいんです」

由紀のいつもの台詞に、新開会長が黙り込む。

 なにせドリンクを食後に頼む客が多いので、近藤はこれからが忙しいのだ。


 ――新開会長って、こんな人だったっけ?

 由紀だって学年の違う彼女のことにそう詳しいわけではない。

 けれど学校の生徒会長でカリスマがあって、みんなに慕われている人物。

 それが由紀が知っていた新開会長だった。

 けれど彼女は連日の近藤に執着を見せる行動で、正直店で浮いていた。

 ここはホストクラブではないし、近藤もホストではない。

 なのにあんなに「弘樹」を連呼して呼び寄せようとしたら、その場違いさのあまり周囲の客から忌避されるのも当然だ。


 あんな行動ばかりとっていると噂になってしまう。

 この手の噂は広まるのが早い。

 住んでいる地域が違っても、店に来る客に新開会長の近所の人がいないとも限らないのだ。

 少々気になった由紀は、視線が厨房に固定されている新開会長を、そうっと眼鏡をずらして見た。

 ――色が、混じってる。

 以前見た時は濃い紫とピンクに分かれていた色が、混じり合って濁っている。

 さらに、黒い色が陽炎のようにその中で揺らめいていた。


その後、カウンター席に黙って座る新開会長の醸し出す空気が、店内を微妙な緊張感に包み込んでいた。

 他の客が、さっき騒ぎを起こした彼女をチラチラ見てはヒソヒソしている。

 ――そこそこ忙しい土曜日に、変な空気を作らないで欲しいんだけど。

 ギスギスひそひそしている店内だが、由紀は空気に徹して仕事をしていると、だんだんと客の姿がまばらになってきた。

「西田さん、休憩いいわよー」

由梨枝から声がかかる。

 しかも店内の様子を考えて、厨房に用意してあるらしい。

 これで新開会長の近くに用意されたら、せっかくの賄いの味がわからなくなるところだった。


 ――やった、今日は焼きそばだ!

 カウンターをすり抜けて厨房に行くルンルン気分の由紀を、恨めし気な視線が追って来たが、まるっと無視だ。

 厨房内の作業台としても使われているテーブルに、賄いが用意されていた。

 テーブルは本来作調理台の近くにあったのに、端っこに移動している。

 そしてそこでは、すでに近藤が焼きそばをズルズルしていた。

 新開会長から見えないように、近藤がテーブルを移動させたのだろう。


 ――そんなことはどうでもいいし、焼きそばを食べようっと。

 由紀は置いてある丸椅子に座り、添えてある箸を取る。

 すると、近藤が焼きそばを食べながらこちらをじっと見ていた。

「エライ人に惚れられましたなぁ、近藤さんや」

からかい口調の由紀に、近藤が眉をぎゅっと寄せる。

 そうしていると迫力が二割増しで、間近で顔を合わせると、とても怖い。

 ――おおぅ、すっごい嫌そう。

 しかし、由紀には一点だけ疑問がある。

 あんなに美人な新開会長に好かれて、近藤も男子ならばちょっとくらい鼻の下が伸びないのだろうか?

 あの執着も愛ゆえだと思えば、許せる人もいるだろうに。


 そんな風に思った由紀も近藤の目を見返すと、あちらが怯んだように視線を下げた。

「……ぁんだよ」

顔の怖さと対照的に、気弱な声が近藤の口から漏れる。

「いや、あれくらいの美人に好かれたら、ちょっとは嬉しくないのかな、ってさ」

由紀が疑問を素直にぶつけてみると、近藤はさらに嫌そうな顔をしてそう言った。

「アイツが美人なのは認めるけどな。寄って来る男はごまんといるだろうから、そっから選べばいいのにとは思う」

この発言は、聞く人によっては自慢だとか余裕だとかに捉えられるのかもしれないが、近藤は心底本音らしかった。

 ――まあ、それが一番平和に解決する方法かもね。

 新開会長が近藤ではない人に恋をすれば、気持ち的にも相性的にも丸く収まる。

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