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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第四話 地味女と「ハルカ」

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24/50

2

近藤家の大事らしいと知れば、由紀もちょっとは気になるというもの。

 ――ふぅーん?

 由紀は少し眼鏡をずらし、角のボックス席を見る。

 春香は近藤や由梨枝と同じ緑系で、黄緑のような明るめの色だ。

 その一方で男性の纏う色は、濃い紫。新開会長も紫系だが、この色は気位が高く、上昇志向が強い傾向がある。

 ここまでは普通の出世したい人なのだが、あの男性の場合は所々黒がかっている。

 どんな色であれ、黒が混じるのは危険なサインだ。

 それは恨みを抱いている者、悪だくみをしている者が持つことの多い色である。


「駄目だなありゃ」

由紀ボソッと呟くと、近藤がちらりとこちらを見る。

 ――聞こえちゃったかな?

 「なにがだ」と問われるかと思い、どう言い訳しようかと考えていると。

「コーヒーだったな」

由紀から視線を逸らした近藤が、コーヒーを淹れに厨房の奥へ戻る。

 そしてちょうど新たに客が入って来た。

「あ、いらっしゃいませー」

すぐに由紀の意識も逸れたため、このことはすぐに忘れてしまった。


 近藤の淹れたコーヒーを春香たちの席に持っていくと、資料を見せての説明の真っ最中だった。

「コーヒー、お待たせしました」

「ありがとう、そしてですね……」

テーブルの空いているスペースにコーヒーを置くが、男性はそちらを見向きもせず、熱心に話をしている。

 そして見たところ、春香も乗り気であるように思える。


 ――この人、話が上手いものね。

 営業をかけるだけあり、相手を引き込む話術が巧みだ。

 コーヒーを運んだだけの由紀ですら、言葉に熱意を感じる。

 由紀たちのような社会人経験の浅い子供には、手ごわい相手であろう。

 それから小一時間程話していただろうか。

「じゃあどうするかを決めたら、電話で伝えます」

「前向きな検討を、よろしくお願いします」

そう告げる春香に、男性は深々と頭を下げて店を出て行った。


その後、春香は自宅スペースへ帰っていった。

 妙な緊張感から解放された店内に、穏やかな時間が流れ始める。

 やがてお昼目当ての客がパラパラと入り出し、昼食の忙しい時間を凌げば昼休憩である。

「西田さん、休憩いいわよー」

「はぁい」

由梨枝に言われて賄いが用意されたカウンターに行くと、またもや近藤と隣り合わせだ。

 この並びはもう由梨枝の中で決まっているらしい。

 ちなみに、本日のメニューはナポリタンだ。


「いただきます!」

由紀は口周りが汚れるのを気にせず、豪快にナポリタンを頬張る。

 濃厚なケチャップの味がとても美味しい。

 隣の近藤の皿は、由紀のものよりボリュームが三割増しになっていて、それを案外上手に食べている。

 一瞬自分の食べ方と比べてしまった由紀だが。

 ――いいの、美味しさの前に上手な食べ方なんて無意味なの!

 そう割り切って、ナポリタンの攻略に集中する。


「美味しかったぁ」

食べ終えた由紀は、満足のため息を漏らす。

 レトルトではないナポリタンなんて、食べたのはいつぶりだろうか。

 少なくとも母の手料理では出てこない代物だ。

 ――この贅沢に口が慣れたら、夏休み明けの食生活が寂しくなりそう。

 この短い幸せを噛み締めるべきか、幸せの終わりを考えて対策を講じるべきか。

 由紀にとって重大な問題であった。


 そんな風に悩む由紀よりも早くナポリタンを食べ終えていた近藤が、じっとこちらを見ているのに気づいた。

「なに?」

由紀はまだ口の周りにケチャップが付いているのかと思い、口元をペロリと舐める。

「いや、なんでもない」

そう一度否定した近藤だったが、またこちらを見て来る。

「だからなに? 気になるじゃん」

眉をひそめた由紀が追及すると、近藤が口を開いた。

「おめぇ、たまに眼鏡をずらして人を見るの、癖か?」

近藤が投げかけた疑問に、由紀はドキリと胸を鳴らす。


まさかこの仕草を注目されているとは思わなかった。

「……そんなもんかな」

由紀はそう答えながらも、そもそも伊達眼鏡であることを指摘されるかと身構える。

 由紀の眼鏡が伊達であることを知った人物は、もれなく聞いてくるからだ。

 ――まあ、普通「なんで伊達?」って思うよね。

 ちなみに田んぼ仲間は、未だに伊達眼鏡であることを知らない。


 一人緊張する由紀だったが。

「ふぅん」

しかし近藤はそう相槌を打つだけで、それ以上なにも言ってこなかった。

 拍子抜けして脱力する由紀の脳裏に、再生される声がある。

『ゆきちゃんが気持ち悪いこと言うー』

子供のものであるそれは、幼少期に聞かされた由紀のトラウマだ。

 誰かを信じてはいけない。人は違うということを嫌うのだから。


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