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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第四話 地味女と「ハルカ」

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23/50

1

バイトの休みが明けて木曜日。

「おはようございまー……」

挨拶をしながら開店前の店に入ると、誰かがカウンターに座っていた。

 明るい髪色をツインテールに結び、淡い青のワンピースを着ている女の子で、由紀は見たことのない人物だ

 ――誰?

 入り口で立ち止まってしまった由紀を、カウンターの彼女が振り返った。


そして目が合うなり、ギロリと睨まれる。

「アンタが雇ったバイト?」

そう言ってくる彼女は、とても可愛い女の子だった。

 そして何者かもわかってしまう。

 髪色といい顔のパーツといい、由梨枝に似ているのだ。

「……アナタは近藤家の人で?」


「そうよ、私はアンタに言いたいことがあるの」

由紀の質問に立ち上がった彼女は、ビシッと人差し指を突きつけてくる。

「弘兄ぃのタンデム一番乗りは、私のはずだったのに! なんてことをしてくれたの!」

 ――えーと?

 どうやら由紀が近藤のバイクに二人乗りして出かけたのが、お気に召さないらしい。


強引なバイト勧誘がバレたからと、無理に突き合わされた立場なのに。

 責められるとはこれいかに。

 ここは「ごめんなさい」と返すべきか、「そんなこと言われても」と言うべきか。

 由紀が一瞬悩んでいると。

「そんなもん、いつまでもお前が暇にならないのが悪いんだろうが」

厨房から近藤が出て来て、カウンター越しに彼女を小突いた。


「だって弘兄ぃ、私ずっと楽しみにしてたのにっ!」

なおも文句を言う彼女を、近藤が片手で制しながらこちらを見たので、由紀はとりあえず挨拶する。

「おはよう」

「おう。コイツ、いつか言っていた『ハルカ』な。ちなみに妹だ」

近藤がそれに応じながら、彼女を紹介する。

 ――やっぱり妹か。

 「弘兄ぃ」という呼び方で、そうかと思った由紀だったが。

「ちなみに、雑誌でモデルをしている」

「へ!?」

この暴露には目を丸くした。


「ほらよ、これ」

近藤がカウンター横に置いてあるマガジンラックから、雑誌を一冊抜いて差し出す。

 由紀でも知っている十代女子向けのファッション誌で、表紙に目の前の彼女が乗っている。

『おめぇ、ファッション雑誌とか読まない系か』

以前言われた近藤の言葉が蘇る。

 謎が解ければなんてことはない、彼女は知らない方が珍しいくらいの有名人だったのだ。


「そう言えばモデルのハルカって、聞いたことがある気がするかも」

非常にあやふやな記憶ながらも、脳の端辺りに引っかかっていた情報だ。

 それだけ由紀がファッションに疎いという証拠だろう。

「近藤春香よ、弘兄ぃのタンデム初乗りを奪ったことは一生恨むから」

「さようで……」

相変わらずこちらを睨んでくる視線は、マジの目だ。

 これは結構なブラコンと見た。


「まあなぁに、そんなところで立ち話して」

入り口で三人の話している声が聞こえたのか、由梨枝も奥から出て来た。

「西田さん、この娘は誰にでもこうなのよ。だから気にしないでね」

この態度が春香のデフォらしい。

 なんとも難儀な妹さんである。

 その難儀なブラコンモデル春香は、由紀に文句を言うためにわざわざ待ち伏せたのだろうか。

 だとしたら今後の付き合い方を真剣に検討したいところだ。


 そんな由紀の疑問を察したのか、由梨枝が説明してくれた。

「この娘、午前中に仕事先の人とここで話をするらしくって、朝から珍しく居座っているの。でも西田さんは気にしないでお仕事してね」

「ここが私の家だってことも、相手に言ってないから。アンタも余計なことを言わないでよね」

春香も続けて言ってくる。

 要はここで仕事の打ち合わせをするらしい。

 だとしても、由紀のすることは変わらないわけで。

「了解です」

由紀はそう返事をした。


 それからいつものように掃除をこなしていると、すぐに開店時間となる。

 やって来る常連客の応対をしていると、やがて春香の待ち人は現れた。

「いらっしゃいませ」

「あの、人と待ち合わせをしているのですが」

出迎えた由紀にそう窺って来たのは、三十代半ばくらいのスーツ姿の男性だ。

「もういらっしゃってます」

由紀は込み入った話のしやすい、角のボックス席に案内した。

 ちなみにそこは、先日田んぼ三人組が陣取った席でもある。

 既に席にスタンバイしていた春香が、男性に手を振る。


「ああ、本当ですね」

彼がホッとした表情で席に向かったので、由紀は少し間を開けて注文を聞きに行く。

「ご注文は?」

「えー、コーヒーをお願いします」

こうして貰った注文を伝えに行くと、近藤がカウンターからコッソリと春香たちを覗いていた。

「コーヒーです」

「おぅ……アイツがそうか」

由紀がそう言ってペラリと伝票を見せても、気持ちがあちらのボックス席に飛んでいる。

 兄として、妹のことが気になるのだろう。

 一人っ子の由紀には、そういった関係が少し羨ましいかもしれない。

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