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ハンバーガーを食べ終えてお腹がいっぱいになり、由紀がまったりとした気持ちでいると。
「どっか寄りたい所はあるか?」
近藤が尋ねて来た。
なにもなければこのまま帰るというので、由紀はリクエストした。
「お土産が見たい」
朝、由紀が出かけることを一応両親に連絡ところ、「お土産ヨロシク」とメールが入っていたのだ。
「土産を買うなら、近くにショップが集まった所があるぞ」
近藤の提案したのは最近できた場所であり、レストランや土産物店、アスレチックなどがある複合施設で、由紀もテレビのCMで見たことがある。
「じゃあそこで」
というわけで、二人はその施設に行くことにした。
移動時間はここから十分もかからない。
「ひろーい、すごーい」
施設に入って建物を見るるなり、由紀は感嘆の声を上げる。
中は建物も広ければ駐車場も広く、土産物が集まっているエリアの近くに停めないと、かなり歩くことになりそうだ。
「あー、今どこだ?」
「現在地がここだってさ」
由紀は近藤と二人で案内看板を見て、行くべき場所を探してからバイクを進めて停めた。
建物の中に入ると、美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってきている。
土産物はこの地方名産の物が多く、乳製品やハムなどの加工肉コーナーに人が集まっている。
そういうお高いものは予算オーバーなので買わないものの、由紀は試食をつまみがてら覗きに行った。
「あ、このチーズうまっ」
「腹いっぱいなのに美味いってのは、本物だな」
由紀の試食巡りに付き合う近藤も、美味しいチーズに感心している。
試食に満足したら、本題のお土産探しだ。
由紀は手っ取り早くお菓子を売っているコーナーに行く。
「やっぱわかりやすく、『〇〇に行ってきました』って奴かな」
由紀は定番土産を手に取る。
予算的にもお手頃で、しかも中のサブレがそこそこ美味しい。
バイクで帰るので荷物の大きさを考えなければならないが、大中小の大きさが揃っており、由紀のカバンに入るサイズがあった。
「親はこれでいいか」
ついでに田んぼ仲間にも、ここにしかないご当地キャラのキーホルダーでも買っていこうと選んでいると、近藤が由紀と同じお菓子を買っていた。
「そっちも買うの?」
近藤は土産なんて買う性格だと思っていなかったので、由紀がちょっとびっくりしていると。
「……母さん用」
近藤がボソリと言った。
そもそもこの二人旅を画策した由梨枝への、確かに行って来たという証拠品にしたいらしい。
――なんとなく思っていたけど、にゃんこ近藤は母親に弱いよね。
グレて迷惑をかけた反動かもしれないが、強面男子がホンワカそうな見た目の母親に振り回される様は、見ていて少しおかしい。
「……なんだ」
口元が緩みそうになる由紀を、近藤がギロリと睨む。
「なんでもないです、ハイ」
由紀はすまし顔でそう言って、キーホルダーに視線を移す。
三人の分とついでに自分用のキーホルダーも買って、お土産選びは終了だ
「じゃあ帰るか」
「異議なーし」
建物を出てバイクに戻り、由紀は買った土産をカバンに詰め、近藤はバイクの座席下のスペースに放り込む。
そして復路も行きと同じくこまめに休憩を挟みながら、のんびりと進むのだった。
そうして由紀が帰った来たのは日暮頃だった。
由紀の自宅マンション前に到着した近藤は、バイクのエンジンを止めた。
「あー、帰って来たぁ」
由紀はそう呟きつつしがみ付いていた近藤の背中から離れ、バイクから降りる。
「はい、ヘルメット返す」
「明日一日、ケツをしっかり休めてろ」
今日一日旅のお供だったヘルメットを由紀が渡すと、受け取った近藤が余計なことを言う。
「ふーんだ、そうしますぅ!」
由紀は「イーッ」と歯を剥いて見せる。
あれから近藤の教えた通りにお尻を動かしたりして乗っていたら、悪化することはなかった。
けど最初のダメージは消えていない。
「そのケツ痛も、バイクに乗る奴が一度は通る道だそうだ」
慰めなのか、近藤がそんなことを言う。
では近藤も最初の頃は、お尻が痛くて泣いたのだろうか。
そう思うと、少し気持ちがスッとする。
「じゃあな」
そう言ってバイクのエンジンをかけた近藤だったが、由紀はその袖を引いた。
「あのさぁ」
言葉を紡ぐ由紀に、近藤がヘルメット越しに視線を寄越して来る。
由紀は今まで、親以外とあんなに遠くまで行ったことがない。
いわば人生初の大冒険だったと言えよう。
そんな大冒険に連れ出してくれた近藤には、感謝したいのだ。
「今日はなかなか楽しかったし、ありがとう」
由紀はペコリとお辞儀した。
「おぅよ」
これに近藤はヒラリと手を振り、エンジンを吹かしたバイクで走り去っていった。




