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恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第三話 地味女の初めての定休日

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2

「よし、サイズはいいな」

近藤が由紀のヘルメットの顎紐を締め具合を確認すると、自分も手早くヘルメットを被り、身軽にバイクに跨る。

「後ろに乗れ」

由紀はそう言われたものの、近藤のようにヒラリとやるのは無理だ。

「……ちょっと待っててよ」

なんとかよじ登るようにバイクの座席の後ろに座ると、結構視界が高くなった。

「おぉ? なんか眺めがいい」

驚いてキョロキョロしていると、バランスを崩して落ちそうになり、慌てて目の前の近藤のジャケットに捕まる。


 ――ヤバい、不安定で捕まっていないと落ちる!

 近藤はフラフラとする由紀を振り返って注意する。

「もっとしっかり捕まっていろ、危ないぞ」

安全ベルトや命綱なんてない乗り物なので、近藤の忠告も尤もだと思う。

 だが由紀だって、いくら地味女だといってもお年頃の女子高生端くれ。

 近藤にベタっとくっつくのは躊躇われる。

 だが近藤は由紀の両手を取ると、自分の腰に回させた。

 バイクに乗り慣れた近藤にとって、これは作業なのかもしれない。

 ――これは命綱、でっかい命綱だ。

 由紀は自分にそう言い聞かせて、近藤のジャケットをしっかり握る。


「じゃあ行くぞ」

近藤がバイクのエンジンを吹かせる。

「で、どこに行くの?」

由紀はそう尋ねる声が自然と弾む。

 バイクに乗るなんて初めての経験で、実は少しワクワクしていたりもする。

「前にアイツらも言ってただろうが。海なんて人を見に行くだけだから、当然山だ」

近藤が後ろを振り向いて答える。

 ここから一時間ちょっと走らせたあたりの、夏の避暑地として有名な山の展望台を目指すらしい。

 由紀にとってはここより涼しければ、どこであっても天国だ。


 目的地も決まったところで、近藤が背中に由紀をくっつけて走り出す。

 ――おお、走り出すと確かに顔が涼しい!

 走り始めこそ直に感じるスピードに身体が強張り、顔が挙げられなかったが、慣れてくると風を切る爽快感はとてもいい。

 近藤の背中から少し顔を出して前方を眺めてみれば、景色があっという間に後ろへ流れて行く。

 きっと由紀を乗せているのでスピードはそれほど出ていないのだろうが、それでも風になったような気持になる。

 車ではなくバイクに乗る人たちは、この感覚が好きなのだろうか。

 ――なんか、ちょっとわかる気がするかも。

 走り始めの頃は、由紀にもそんな高揚感があった。


 だが目的としている展望台まであと少しの、何度目かのコンビニでの休憩になると……

「近藤さん、お尻がジンジンします」

由紀は近藤にそう訴える。

 ずっとバイクのシートに座っていると、お尻が痛くなってきたのだ。

「だからこまめに休憩してるだろうが」

由紀の泣き言を、近藤はコンビニで買ったコーヒーを飲みながら聞き流す。

 ――休憩って、お尻の休憩だったのか。

 近藤がこまめにコンビニに寄るのは、トイレ休憩かと考えていた。「そんなにトイレは近くないぞ」と思いはするが、女子への気遣いかと思い黙っていた。

 けれど本当の目的はこのためだったようだ。

 けれど休憩を挟んでも、由紀のお尻は悲鳴を上げている。


「そっちはどうして痛くないのさ」

由紀は炭酸ジュースを飲みながら、近藤を恨めし気に見る。

 彼のお尻は硬そうに見えるので、筋肉のつき具合の違いだろうか。

 己のお尻に由紀に視線を感じたのか、近藤が立ち位置を変える。

「慣れ、というよりむしろ乗り方だな。ずっと同じ体勢で座っているのは良くないぞ」

座るお尻の位置を直したり、重心を変えたりしていると、だいぶマシらしい。

 その情報、出発の時に欲しかった。


 由紀と近藤がそうやって、コンビニ前でうだうだしていると。

「女連れたぁいいねぇ、潤いがあって」

同じくコンビニで休憩していたバイク乗りが、声をかけてきた。

 相手は年配の渋いおじさんで、バイクもレトロなデザインのものに乗っている。

「どうも」

「こんにちは」

近藤が頭を下げたので、由紀も挨拶する。

 これまでのコンビニ休憩でも似たようなことがあった。

 バイク乗り同士で知らない仲でも挨拶して、この先の道の情報などを交換するらしい。


「いいっすね、そのバイク」

近藤がおじさんのバイクを見て目を輝かせる。

「年寄りの唯一の趣味だからな」

近寄ってしげしげと車体を観察する近藤に、おじさんもまんざらでもない顔をする。

 ――そんな顔もできるんじゃん。

 そんな様子を見ていた由紀は、少し驚いていた。

 だいたいいつもムスッとした顔をしていることが多い近藤の、貴重な瞬間であろう。

 写真に収めるべきだろうかとも思うが、後の報復が怖いので止めておく。


 近藤とバイクの話で盛り上がるおじさんを、眼鏡をずらしてちらりと見る。

 纏っている色は空のような爽やかな青。

 これまでのコンビニ休憩で行き会ったバイク乗りたちも、たいてい緑か青だった。

 学校の近藤のバイク仲間もそうだったし、バイク乗りたちはこの二色を纏う傾向があるのかもしれない。

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