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009: 授業見学です。2


 「──はい、ですから魔術に必須である、魔法を実行した際に結果として物理的干渉を引き起こす技術は元来精神的干渉を目的とした魔法には備わっていないですから、それを我々が発展させて物理的干渉が起きる程度まで強化、または変質させなくてはいけません。これは一見簡単に思えますが、精神的エネルギーから物理的エネルギーへと置換することは、実はとても高度な技術なのです⋯⋯ リーゼさん、大丈夫ですか?」


 「は、はい。大丈夫です」



 私は、その後ウィズ先生の『我々が魔法を使用できるようになり、かつ魔術まで発展させた手法、及び歴史について』などと言う長ったらしい名前の授業を受けていた。私自身、メイガスの身である以上魔法に関する知識はそこそこ持ってはいるのだが、ちゃんとした授業を受けるのは初めてだった。だから、凄く興味深い内容であったし、その内容もすっと頭に入ってきた。

 ──入ってきていた、のだが。



 「⋯⋯ それにしては、あまり教科書を見ていないようですね。分からない場所とか、ありましたですか?」


 「いえ、私は文字を読み書きするのが少し苦手で⋯⋯ 」



 そう、私はこの国の文字が読めないのだ。

 実を言うと私は数ヶ国語かを聞き、話すことが出来る。幸い惇の居るこの国は私が知っている言語を話しているし、いざとなれば翻訳魔法という、人が話している事の言霊から内容を聞き取ることができる魔法が使えるので授業の内容自体は頭に入ってきているのだが、ここのページを読みましょう、だったり、例を見てみてください、だとかは文字を読まなくてはならず、異国からの流れ者である私にはさっぱりなのだ。

 と、私がこの事を説明すると、ウィズ先生は一瞬ぽかんとした顔をしたがその後すぐにはっとしたような顔になって、



 「そそっ、そうなのですかっ!?リーゼさんはそんな遠くから来ているとは思わず⋯⋯ 」



 と、焦ってとてとてあわあわと駆け寄ってきた。すると隣の綵も驚いた様子で手を合わせてくる。



 「ええっ、リーゼちゃん良くわかっているみたいだったから、読めてるのかと思ってた⋯⋯ ごめんね、わたしが教えるから!」


 「わたしも全然気がつきませんでした⋯⋯ ごめんなさい、綵さん、お願いしてもいいですか?」


 「はい、わかりました」


 「えー、コホン、では続けますのですよ。──あれっ、どこまで話したかなぁ⋯⋯」



 と、そんな具合に多少のトラブルはあったものの、世話好き気味な綵のフォローもあって無事に授業は最後まで付いていくことが出来た。教室もなにか色々と浮いているものの、本の匂いに囲まれたとても落ち着いている雰囲気の場所だったから、授業の内容に集中することができて、私としてはとても満足できた。

 ただ、やはりそれは私が一人のメイガスだったからなのだろう。この授業は普通の人が聞いたとしても、とても面白いですね、と言うとは思えない内容で、やはりそれが不人気の理由になるのだろう。もしかするとウィズ先生が小さくて可愛いせいで、こんな子供に教えられるなんてたまるか、という人が居そうなことも不人気の理由なのかもしれないけれど。

 などとぼやぼや考えていると、授業を終えて踏み台も片付けた帽子もかぶって魔女らしいウィズ先生が駆けてきた。ぽん、と机の上に両手をつくと、ちょっと身を乗り出し気味になりつつも少し不安そうな目を向けて、話しかけてきた。



 「あ、あのっ、リーゼさん、わたしの授業は如何でしたですか?⋯⋯ やっぱり、ちょっとつまらなかったのですか⋯⋯ ?」


 「いえいえ、とても面白かったですよ。私はこのような形で教えられたことがなかったので、とても新鮮でした」


 「あーっ、良かった、安心しました!わたしが当てても応えられていましたし、授業にもちゃんと付いてきて貰えていたようで⋯⋯ わたし、嬉しいのですよ!」



 ふぃー、と安心したからなのか、口をだらしなく緩めたウィズ先生が額の汗を拭う。やっぱり袖が長いと思う。



 「わたしもびっくりしたわ、リーゼちゃん、朝も魔法が使えてたし、授業も飛び入り参加で付いていけて、本当にすごいよ」


 「い、いえ、そんな⋯⋯」


 「魔法もちゃんと使えるのですか!? ぜ、是非わたしの授業の生徒になって欲しいです、というより、なってください!」



 と、綵がそう褒め言葉を零すとそれを聞いたウィズ先生がぐいぐいぐい、と更に距離を詰めてくる。近い近い。



 「私、ここの生徒ですらありませんし、そもそも剣術Ⅲの志望生なのですけれども⋯⋯」


 「あら、そんなことを気にしているのですか?」



 にこっ、と屈託ない笑顔を見せ、ウィズ先生は言う。



 「わたし、実はこの学校の教務課、それもトップの先生なのですよ。学園長からわたしにそこの管理下のことは大体任せられているので、生徒の入退学、教務過程の管理等、そこら辺のお仕事ならわたしにお任せあれなのです!」


 「えっ、ウィズ先生。それって⋯⋯」


 「はい、わたしにかかればちょちょいと入学手続き自体は出来ちゃうんです!リーゼさんはしっかりと魔法の基礎知識を抑えてあるどころか、応用にも対応出来ているので、わたしの学科なら入学を許可しちゃいます。剣術Ⅲについても、橘内先生の試験に受かりさえすれば、そのあとの面倒なことを飛ばしてその場でわたしが入学許可を出しちゃうのですよ」



 それにですね?とウィズ先生の話は続く。



 「この学校は、学びたい人が学びたいことを学べる学校をめざして作られた学校なのです、もしリーゼさんが望むのなら、学部を跨いで選択することもできますよ。実際、二つ掛け持ちしている生徒もいますからね」



 ふふん、と自慢げに話していたが、そのあとにもちろん、わたしの授業がお嫌なら選択しなくても良いですけど⋯⋯ と、ちょっと自信なさげに付け加える。私にとって、この教室でウィズ先生の授業を受けられるのはとても魅力的なのだが、やっぱりそこは私情でほいほいと応えられない。私は一人の人間である前に、惇さんのものなのだから。



 「ごめんなさい、私、実は惇さんの奴隷でして、そのような事はやはり、惇さんにお聞きしないと⋯⋯ 」


 「そっか、そうだよね、惇君のどれ⋯⋯ ん、あれ?ど、奴隷っ!?」


 「ちょ、リーゼちゃん!?」



 私がそう言うと、ウィズ先生はピタッ、と凍ったかのように固まり、綵が唐突に焦りだす。私、なにか不味いことを言ってしまったかな⋯⋯ ?



 「はい、惇さんのご厚意で、この学園に通わせていただけることになったのですが、元々惇さんに供う為のことでしたので、惇さんに相談をして見ない限り、先生のお誘いには回答しかねたいのです」


 「そ、そそそうですよね、──惇君が、うん。綵さんと同居している上に、他の女の子を奴隷に⋯⋯ 奴隷⋯⋯」


 「先生っ、これはちょっとした間違いでですねっ!?リ、リーゼちゃん、そういう事を軽々しく言っちゃダメ!!」


 「⋯⋯ ?私は惇さんの奴隷ですし、それは私自身そうでありたいと思っていますから、何の問題もないと思いますけれど⋯⋯ 」


 「だ、大丈夫なのですよー。先生、心が簡素なので、そういう事も受け入れられるのです、よー⋯⋯ 」


 「絶対引いてますよね、すごい棒読みですよっ!」


 「引いてはいないのです、ちょっとそういう展開には年が若すぎるかなぁ。先生的には、ちょっと拒否反応的なものというか、倫理的にというか人間的にどうなのかなとかいう考えがでてきちゃうかなって、心の中で思っているだけなのですよー?」


 「それを引くと言うんですよっ⋯⋯ あー、リーゼちゃん。惇とそこら辺話したじゃないっ!友人として振る舞うってなってたじゃない!」


 「はい、ですからさん付けですし、少し砕けた言葉を使うように気をつけてはいましたが」


 「だぁー、そういう事だけどそうじゃないの!」



 結局、頭を抱え悶える綵が死んだ魚の目のような目になっているウィズ先生にここまでの成り行きを話すことになり、



 「そうだったのですね⋯⋯ では、使用人と名乗れば、あまり誤解も生みませんし、良いのではないですか?一応、リーゼさんは望んで仕えているのですから、意味として問題は無いと思うのです。奴隷と自分で宣言するのはちょっと⋯⋯ わたし達には刺激的かなぁって思っちゃうのです」



 と、説明し終えても余波で少し目を回しているウィズ先生が提案し、私は外では使用人と名乗ることになった。それにしても、この国では奴隷は珍しいのだろうか?綵もウィズ先生も凄く驚いて取り乱していたし。主人に仕えられることはとても喜ばしいし、おかしくはないとおもうのだけれど⋯⋯

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