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008: 授業見学です。


 そんなわけで、目をキラキラとさせながら言う綵に推され、惇も承諾してくれたので結局のところ午前中は綵の魔法学の方を見学することになった。ただ、そうなると橘内先生の言う通り別に魔法学の先生にも許可を貰わなくてはならなくなるのだが、その魔法学の準備室を訪ねて顔を出した眼鏡の先生の助手の人に聞くと、



 「ん?構わないと思いますよ。あの方の魔法学は難しいと不人気で、生徒数が少なくて寂しそうでしたからむしろ大歓迎されると思います。ぜひ先生の為にも見学しに行ってあげてください」



 と、あっけなく許可が取れてしまった。そういう訳で、なんだか色々とバタバタしてしまったなぁ。と心の中で申し訳ないと感じつつも魔法学の見学に向かうため一旦惇と別れ、ぴょんぴょんと跳ねるようにスキップ気味で歩く綵に連れられて、三階の一番奥の部屋に向かった。

 『第二魔法研究室』とプレートが掛けられたこれまた重そうな扉を開くと、第二という名前とは裏腹に、巨大な本棚に囲まれて半円形に二人用の机が五、六列、その中心に黒板の備わった教壇が置かれた広々とした空間がひろがっていた。本棚に挟まれた通路からその机に向かうと、流石は魔法研究室という部屋。宙に無数の様々な言語で書かれた紙や羊皮紙、本、筆──天球儀なんかも宙を漂っていて、いかにも魔法学という雰囲気の部屋だった。偶に本がパカパカと動きながら笑っているのが少し怖い。



 「ふふっ、わたし一人席だったから。一緒に授業を受けられる人ができて、嬉しいな」


 「まだ、学科が決まるどころか入学もしていませんよ?」


 「いいの。例え一日だけでも楽しいに変わりはないわ。それに、リーゼちゃんなら絶対入学できるに決まっているわ、朝の魔法を見てそう思うの」



 そう話しながら、広い部屋のせいで少し後ろ気味に感じる二列目の席に座る。改めて部屋を見回すと、なるほど来ている生徒はもう授業の三分前くらいだと言うのに二、三人。一列目には内の一人しか座っていない。その一人は女の子で、魔女らしいとんがり帽子を被って部屋に入ってきたのだが、礼儀正しく席に着くとその帽子を隣の席に置いた。後ろの方には男子生徒が固まって座っている。授業も難しいと聞くし、この生徒の動きからしてこの魔法学の先生は、堅い先生なのだろうか。



 「あっ、リーゼちゃん、先生来たよ」


 綵の声に教壇へと目を向ける。すると、えっちらおっちらと踏み台を運ぶ真っ白なショートボブの小学生くらいの魔女っ子が見えた。可哀想に、使いっ走りだろうか。しかしその子以外にそれらしき人は見当たらない。



 「えぇと⋯⋯ どの方ですか?」


 「えっ?いや、あの箱運んでる先生だよ」



 確認しようと聞くと、綵にぽかんとした顔でそう返された。えっ、まさか。



 「あの方ですかっ!?」


 「うん、ウィズ = テトラーク。魔法学の先生よ」



 いや、まさか目の前の小さい小学生のような娘が先生だとは。今までの生徒の反応やらなんやらで完全にガッチガチの暗い先生をイメージしていた私は、そのギャップについ素で叫んでしまった。

 よいしょ、と箱を教壇の奥にセットしたウィズ先生は、



 「ふぃ〜、毎日のこの力仕事は授業の前の最大の鬼門なのですよ⋯⋯ 」



 と、ぶつぶつと呟きつつ額の汗をぶかぶかの指先が出てないどころか手首の当たりまでしか指先が届いていないように見える黒いローブの袖で拭った。ゆるゆると一仕事終えたあとのような怠さを醸し出しながらぽとん、とこれまた全くサイズのあっていない三角帽子を教壇に置くと、その頭にはまだ少し寝癖が付いていた。

 ──本当に先生、なのですよね?と、私の頭に疑問符を浮びかけた時、ウィズ先生はにぱっと可愛い笑顔を見せ、授業の初めの言葉を発した。



 「さーて、始めましょうか。皆さんっ、おはようございます!今日も朝早くから学校に来てくれてありがとう!頑張っていきましょうね!!」


 「よろしくお願いします」



 さっきまで変なイメージを持っていてごめんなさい、と謝りたくなってくるくらい良い先生っぷりを見せるウィズ先生。ぐるっと教室を見回し、いち、にー、さん、しー⋯⋯と人数を数え始める。



 「ろく、しち⋯⋯ しちっ? 今日は一人多いのですよっ!?」



 あとからギリギリで入ってきた三人を含めて、七人の人数を数えたウィズ先生は、悲鳴に似た声を上げる。教壇の上に乗った三角帽子の隣の分厚い本が、ムハハハハ。と太い声で笑った。どうやら連絡が付いていなかったらしい、やはり直接許可を取らなくてはいけなかったのだろうと、私は腰を上げた。



 「あの、ウィズ先生ごめんなさい。わたし、今日午前の内にこの授業を見学させていただきます、リーゼです。助手の方に許可はいただいたのですが──」


 「あっ、あぁ、見学の子ね。なるほど──えっ、見学ぅっ!?」


 「はい、申し訳ございません、ご迷惑でしたら、すぐに退出させていただきますのでっ──」


 「えっ、だめっ、まってまってリーゼさん!違うのですよ!!」


 「えっ?」


 「わ、わたしの授業はとても不人気なのです、選択する生徒が居ないどころか、見学なんてっ!嬉しくて驚いただけなのです、許してください!?」


 「いえいえいえ、何故ウィズ先生が謝られるのですか、私がしっかりと通さなかったのが悪かったですから!」


 何故か謝りだす先生。ちょっとしたパニックになっているウィズ先生が落ち着くのに、周りの生徒が色々説明したりしてくれて、少し時間がかかった。



 「えっ、えーと、ちょっと取り乱しましたね、あはは⋯⋯ では、改めて授業を始めましょうか。リーゼさん、この授業は教科書が要ると思いますので、これを使ってくださいね」


 「ありがとうございます」



 にこにことウィズ先生が魔法を使ってふわりと机に乗せた羊皮紙には、じわじわと滲むように教科書らしき文字が浮かび上がってゆく。うん、そういえば、ここは異国なのでしたね、全く文字が読めない⋯⋯ どうやら、わたしはどこに行ってもトラブルを起こしてしまう体質のようだった。





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